未経験から転職!美容師からフラワーデザイナーへ

2015年06月25日

私が生み出すフラワーアレンジメントで、お客さまの心と生活を豊かにしていきたい。

ゴトウフローリスト ヒルトン東京店
髙橋美樹さん(30歳)

ゴトウフローリスト 髙橋美樹さん

Profile:専門学校を卒業後、美容師アシスタントとして約2年勤務。花との出会いはヘアサロン勤務のころ。仕事帰りに、偶然ショーウインドーの花の活け込み作業を見かけたことからフラワーの仕事への興味が高まり、転職。現在、ゴトウフローリスト ヒルトン東京店でフラワーデザイナー兼店長を任されている。

|美容師から花の仕事へ。衝動的に気持ちが傾いた理由とは
美容師からフラワーデザイナーへの転職というと、180度違う世界で、みんなに「何で?」とよく聞かれます。でも、実は私の中ではちゃんと共通点があるのです。それは、ヘアスタイルも、フラワーもアレンジを変えるだけで気持ちが明るく変わること。人の心をパッと変える、そんなところも今の仕事の魅力なんです。

実は美容師をやっていたころ、そんなに花への興味はなかったんです。ところが、勤務していたヘアサロンで装花の担当になって。受付のお花に店内の活け込み…最初は見よう見まねの完全な我流。でも、なぜかそれが楽しくて。美容師アシスタントの仕事の傍らで「花も面白いな」って、そんな気持ちが芽生えていきました。

そして、残業を終えたある日の夜遅く。閉店後の高級ショップで、ショーウインドーの花の入れ替え作業を見かけたのです。「ディスプレイってこうやって変わっていくんだ、しかも、やってるのはお花屋さん!」。
花に興味を持ち始めていたこともあり、季節ごとにくるくる変わるウインドーを見るのが大好きだった私。その仕事を手掛けていたのは、実は花屋さんだったことを知って、一気にフラワーの仕事へ気持ちが傾いていきました。

「私も、こんな素敵な仕事をやってみたい!」

|未経験の壁にぶつかり続けた最初の1年
こうして、まったくの未経験からフラワーの世界へ。何の技術も知識も持たずに飛び込んだぶん、最初の1年は必死で勉強しました。先輩のアレンジする様を見て技術を学び、ショップオーナーの作品を見てイメージを広げる。そして、家に帰ると、割り箸を花の茎に見立ててひたすら花を挿す練習を繰り返しました。また、花の活け込みの現場は本当に体力勝負。搬入された花の段ボールをバックヤードで一日中潰したり、ディスプレイに使う数キロはある重い花器だって黙々と運ぶ。水をいっぱいに張ったバケツは冷たくて、身体だって冷える…。でも、それも経験のひとつなんだと考えて、どんな仕事も精一杯取り組んでいました。

そしてある日、「髙橋さん、アレンジやってみて」と先輩から。やった!初めての花束の制作です!今まで頑張ったぶん気持ちを込めて取り組みました。
「できました!」ドキドキしながら先輩にチェックを頼むと、「ここがダメね、こうしたほうがバランスがいいよ」と次々にやり直しの指摘が…。

何度作り直しても、毎回結果は同じです。
「私、いつになったら一人前になれるんだろう?」

それでも不思議と素直にやり直しの指示を受け入れられる自分がいました。こうやって教えてもらえることが幸せ。次のステップに進んでいる実感が心の奥からわいてきて、もっと花の技術を磨きたい、もっと花の知識をストックしたい。そんな気持ちになっていったのです。

「あぁ、わかった。これが好きっていうことなんだ」
どんな苦労や試行錯誤があっても、たとえやり直しと言われたとしても、それが自分への糧だと思える。こんな気持ちになれる仕事ってほかにはない! 私はやっぱり花の世界に飛び込んで正解だったんだ。心からそう思えた瞬間でした。

|試行錯誤の壁を越えた後、きっと笑顔が待っている
8年目を迎えた今、ヒルトンホテル店の店長を務めています。ウエディング装花に、ホテルロビーの活け込みなど、仕事の幅もずいぶんと広がり、スタッフの育成や教育も手掛けるようになり、花を楽しみながらスキルアップできる教育プログラムも考えている最中。

私、思うんです。長いお仕事人生、時にはぐっと耐えることも、頑張ることも必要。朝早くから重い荷物をひたすら運び、自宅ではお箸で練習を繰り返した…。そんな、まだ新米でがむしゃらに走ったあのころの気持ちが原動力のすべてになっている。今振り返ると、あのころの頑張った自分に拍手してあげたいって思います。

未経験からのスタートは、不安や苦労もあるもの。でも、その辛さを乗り越えたからこそ得られる充実感がある。頑張った先には笑顔で仕事をする自分が待っているんですよね。

●ある日の流れ
9:00 出勤。今日の披露宴は2件。さっそく会場のセッティング。
10:00 会場の装花がひと段落したら、次はブーケや贈呈用の花のアレンジにかかる。
11:00 装花の最終チェック。会場全体のバランスをくまなく確認。
12:00 交代でランチへ。午後に向けてしっかりパワーをたくわえる。
13:00 1件目の披露宴開始。
15:00 終宴を迎えるとすぐに2件目の会場セッティングにとりかかる。わずか1時間半ですべての装花を入れ替えていく。
17:00 事務作業、残務整理をして終業。

●転職before / after
・雇用形態 正社員→正社員
・勤務時間 9:00~17:00(残業もあった)→9:00~17:00(シフト制 実働7時間)
・月収 ギリギリ一人暮らしができる程度→前職の倍額程度
・休み 月8日(シフト制)→週2日(シフト制)
・休日の過ごし方 ヘアモデルのハントや撮影の手伝い→美術館めぐりやヨガに通う

●転職して変わったこと
ちょっと大げさかもしれませんが、一生を捧げられる仕事に出会えたこと(笑)。フラワーの技術があれば、将来お店を持ったり講師になったりと、さまざまな働き方ができる。おばあちゃんになっても花と関わりながら笑顔で働いていきたいですね。(髙橋さん)

●編集部より
髙橋さんを突き動かしたのは、とにかく「好き」という気持ち。そこには苦労もあるかもしれないけど、好きという気持ちは未経験からの転職を乗り越える大きなカギになりえるのです。思い切って自分の心に素直になってみるのもひとつの手かもしれません。

取材・文/中島典子 撮影/平山 諭