感性を刺激するイラストレーターmajoccoさん「美しいは生命力」
憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
イラストレーター majocco(まじょっこ)さん
グッズや広告、CDのアートワークから、書籍のカット、下着のデザインまで、イラストを軸に幅広いフィールドで活躍する、若手イラストレーター&デザイナーmajoccoさん。彼女の中にある、クリエイティブの流儀についてお話をうかがいました。
必死に駆け回っていた学生時代がためになった
■今まで、どんな仕事をされてきましたか?
雑貨屋チェーンのサンキューマートとのコラボ商品やアーティスト大森靖子さんのライブグッズ、ガールズグループのCDジャケットなど、さまざまなアイテムのイラストを手掛けました。また、新宿伊勢丹の期間限定イベントに参加したり、店舗などのロゴ制作や壁面ペインティングもしたりしましたね。イラストを描くだけでなく、デザイナーとしても活動しているので、名前の出ない仕事も含めると、かなり幅広く手掛けています。
こういった発注を受けて手掛ける仕事とは別に、年2回くらいのペースで、お声掛けいただいた飲食店などで、展示会と原画の販売も行っています。
また、昨年の12月には、初のぬり絵ブック「HANDMADE♡TOKYO」がシロクマ社から発行されました。
■美大在学中からお仕事をされていたのですか?
音楽が好きで、学生の頃はライブハウスに通っていたので、そこで知り合った方から、イラストやデザインの仕事をいただいていました。でも、その頃は、最初に作業のボリュームやギャラの話を自分から確認することができなかったので、苦労した部分も多かったです。
「この仕事のギャラはこれぐらいだから、これぐらいの時間をかけられる」という計算もできていなかったので、ノーギャラの案件でも「次に繋がれば」となんでも引き受けて、全部の案件で相手の要求すること全てに応えようとしていました。
思い返せば、ギャラありで仕事を依頼してくれる方に失礼だったと思います。払わなくても仕事を果たすなら、払わないほうがいいってなりますもんね(笑)。
■卒業後、間もなくフリーとして活動を始められたのでしょうか?
はい。フリーとして仕事をするようになってだいたい3年が経ちました。まずは形を整えようと、最初に開業届を出し、名刺を作りました。卒業後の半年間は、生活費の足しとしてコールセンターで週3日、1回3時間程度のアルバイトもしていたんです。
その半年間、イラストやデザイン方面では、学生時代に取引のあった方に電話やメールをして仕事をいただいたり、イラストを扱うサイトに投稿したりと、営業活動にも並行して取り組んでいました。
仕事のやり方も勉強していて、本を読むことはもちろん、フリーの方や経営者、会社員と、さまざまな立場の方にお話をうかがって、自分はどうしていけばいいのか、考えをまとめる期間にしていました。仕事を請けるときや発注時に気をつけていること、知っておくと役立つことはもちろんですが、仕事をしていく上で困ることも、聞いて回ったんです。参考になることばかりで、本当にためになったと思います。とにかく最初は「やれることは何でもやろう」と、必死に駆け回っていましたね。
■仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか?
私に仕事を発注してくれるクライアントが、受け取り手に伝えたいことを汲み取り、さらに“期待の半歩先”をいくものを提案できるように努める。そして、結果的にクライアントと受け取り手の両者に喜んでいただける結果を得ることが、私が仕事をする上で一番大切だと思う部分です。
「アーティストだから、自分の表現したいものだけを表現する」というやりかたは私には向いていないので、「何を言うべきなのか」「何をするべきなのか」を考えた上で、人の役に立つ仕事をしたいと思っています。自己満足では何も終われないので、受け取り手に満足いただいてこそ、自分の仕事には意味があるということを意識しています。
私の場合、伝える手段はイラストやマンガだったり、デザインだったりですが、どちらかといえば言語先行で仕事を考えるタイプです。自分の作品が世の中に出た時にどのようなメッセージとして受け取られていくかを、いつも考えています。
例えば、大森靖子さんのライブグッズのイラストを手掛けたときには、彼女のことを知らない人に彼女の音楽を聴いてもらうためにはどうしたらいいか、というテーマで制作に取り組みました。私は大森さんの曲を聴くと、いろんなことがつらくても、ひどくても、「なんとかしていこうね」というメッセージを感じます。大森さんは新しい言葉や概念を歌詞で使いこなしているだけで、“個性的で”“独特な”アーティストとして取り上げられることが多いように見受けられました。なので、「これはどストレートに聴く人の心を励ましてくれる音楽です!」と伝えるために、イラストにはとっつきやすいモチーフを使ったり、明るい色を使うことで広い層から見てもらえるよう努めました。
美しさとは生命力だと思っています
■制作において、作品の受け取り手をどんな風に意識していますか?
イラストを見た人に、前向きな気持ちになってもらいたいと思って描いています。
以前、自撮りアプリを開発している会社から、スマホカバー用のイラストを依頼され、「自撮りの神」といわれるモデルの池田エライザさんとコラボする機会がありました。彼女の名前で広まったポーズをモチーフに、エライザさんの顔を描いたのですが、あえて目は入れませんでした。もちろん、最後まで入れるか入れないか、葛藤はあったのですが……。
彼女のような目元に憧れること自体は素敵なことなのですが、二重でなければかわいくないという空気に、違和感があったんです。それに、特定のポーズで自撮りを楽しんでもらうこと自体が目的だったので、特定の人物の顔のパーツは極限まで「描かない」ことがベストだと考えました。理想にされるような顔を持っていなくても、みんな楽しく企画に参加してほしいと伝えたかったんです。
「かわいい」や「美しい」は、生命力と意志だと思っています。「かわいくなりたい」という言葉には、より良くありたいという気持ちがこもっています。痩せようとしたりメイクをがんばったりして、前に進もうとする力は、すべて美しさであり、生命力です。私はそういった意志を伴った行動を見つめていたいし、自分もそれをイラストやデザインで表現し続けていけたらいいなと思っています。
■majoccoさんの作品を好きな女性たちにどんなことを伝えていきたいですか?
幸せを大きく感じられるように生きてほしいです。私たち、特に20代後半の女性って、彼氏がいないとだめとか、いつまでに結婚しないといけないとか、目に見えない圧力に苦しんでいる人が多いのではないかと思います。若いうちに結婚して出産して幸せな家庭を築いて…という幸せのロールモデルばかりが意識され過ぎて、欲しいかどうかも分からないものが手に入らないだけのことで苦しめられたり、自分が本当はどうしたいのか分からなくなってしまったりすることがあると思います。
私も、周りの目が気になって恋愛に焦った時期もありました。でも結局、「なんとなく」「周りが言うから」って選んだことってあんまり面白くなかったし、楽にもならなかったんです。
気の合う人がいないなら、無理して付き合わなくてもいいし、ひとりで幸せになっていくという生き方だっていくらでもある。自分は何が好きで何が嫌いか分かった上で、納得のいく選択を積み重ねていける人生を歩んでほしいと思います。好きを手に入れたり、嫌いを拒絶できる力をつけられると楽ですよね。私もそうありたいです。
着実に仕事を続けて、より大きな仕事を任せられるようになりたい
■今後の目標をお聞かせください。
目標はふたつあります。ひとつは、30代までに法人化すること。もうひとつは、60歳までこの仕事を続けること。
長く仕事を続けている方の成功の型から学んで、より大きな仕事を任せられるようになっていきたいと思っています。
独立して3年で、実績も知名度もまだまだですが、これまでの活動の中でも、たくさんありがたい機会には恵まれました。でも、まだ全然足りないのだと思います。
着実に仕事を続けていって、良い作品、具体的にはたくさん売れてくれたり、長く愛されたり、はっとさせることができるようなものを作っていくことで、もっとメジャーになりたいです。今はまだそのスタート地点にようやく立ったところなので、毎日わーわー考えながらがんばっています!
多摩美術大学絵画学科油画専攻在学中から活動を開始。卒業後、イラストレーターとして独立。かわいさの中に、妖しくかつ耽美な雰囲気を持つイラストがtwitterなどのSNSで女性の支持を集めている。2014年朝日広告賞にて、梶祐輔記念賞を受賞。
(インタビュー/兼子梨花 構成/風来堂 撮影/清水信吾)