証券会社勤務からバリスタに転身!未経験からカフェ経営に挑戦できた理由とは?

2016年11月11日

憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
バリスタ 木村真由美さん

グラマシーコーヒーのバリスタ木村さん

会社員からバリスタに転身、「グラマシーコーヒー」(東京都・南青山)の経営をされている木村真由美さん。2人のお子さんをもつ母親でもある木村さんに、バリスタという仕事について、また、仕事と家庭の両立について、お話を伺いました。

まず初めに、バリスタとはどんなお仕事なのかお聞かせください。

バリスタは「コーヒーを淹れる人」ですが、単純に淹れるだけではありません。お客さまは一人ひとり好みも違うので、その方に合ったコーヒーをお出しできるのがバリスタの仕事かな、と思っています。例えばお客さまの中には濃いコーヒーが苦手な方もいます。なのでお好みを伺って、コーヒー感が強いものがいいのか、ミルク感が強いものがいいのかを決めたりします。あとは男性、女性、年代によってもコーヒーの味を変えていますね。コーヒーは豆の種類やローストの仕方、挽き方、量、淹れ方によって味が変わります。ですから、バリスタはお客様のお好みに合った味を考える仕事でもあるんです。

1日のお仕事の流れを教えていただけますか。

朝は開店準備からスタート。エスプレッソマシンの準備やフードを並べたり、看板を出したりして、11時にOPENします。お客さまが来たらコーヒーをお淹れしたり、雑談したり。お店周辺はお昼が遅めな出版業界の方が多く、14~15時くらいが混雑しますね。
その後時間が空いたら、スタッフと一緒に新しく入荷した豆の「味あわせ」をします。これは豆の量や挽き方、淹れるときの温度を変えて最適なレシピを探すお仕事です。1週間に一度豆が届くので、豆ごとに全部違うレシピを作っています。その他に季節ごとのメニュー考案をしたり。チーズケーキやスコーンなどのフードも自分たちで作っています。

グラマシーコーヒー ラテアート

木村さんが経営されている「グラマシーコーヒー」の特徴はなんでしょうか。

私達が目指すのは、昔の喫茶店のような話がしやすいお店。日本のカフェは静かですが、海外のカフェに行くと、みんながワーワー喋っているんですよね。そんな風に色んな人がワイワイ話せる場所をめざしています。だからこのお店はみんなが入りやすい雰囲気にしようと思って。実際に、近所に住んでいる方や、お店の近くの会社に勤めている方、ワンちゃんと一緒に来る方や赤ちゃん連れのお母さんもいます。最高齢は85歳のおじいちゃんで、毎日のように来てくれるんですよ。お客さま同士の交流もあり、人の輪が広がる場にもなっていますね。会話を楽しんでほしいので、Wi-Fiや電源は設置していないんです。
何となくゆったり過ごしたい時や、職場で疲れた顔を見せたくない時。第3の家として利用してもらえればと思います。もちろん誰とも話さなくてもいいし、出窓で本を読んでいてもいい。お客さまは、皆さん自由に過ごしていますよ。

証券会社勤務から、未経験だったバリスタに!

バリスタの前は、どんなお仕事をされていましたか?

証券会社で働いていました。お客さまにもびっくりされるんですが(笑)。営業として勤務した後、コールセンターの立ち上げをして30人ほどのメンバーを管理していました。そんな中、たまたま早期退職プログラムがあって。自分の中にもやりきった感があったので、思い切って退職しました。そして次のステップとしては、これまでとは違う新しい道に進みたいと何となく考えていました。

コーヒーの専門店を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

大きなきっかけは、義理の弟がロースター(コーヒー豆を仕入れて焙煎をする人)に転身したことです。彼はニューヨークで働いていたのですが、ロサンゼルスに転勤となり、そこでサードウェーブ系のコーヒー(高品質の豆をバリスタが一杯ずつ丁寧に淹れるコーヒー)と出会ったんですね。次第にコーヒー本来のおいしさに魅了され、会社を辞めてロースターの道に進む決断をしたんです。修行を積むうちに、日本には気軽においしいコーヒーを飲める店が少ないので、日本で開業したいという話が出て。
私もちょうど退職した時で、新たに打ち込める仕事を探していたし、元々コーヒーが好きだったので、彼の考えに賛同。一緒にカフェ開業に向けて動き始めたのです。私は、まずバリスタをめざして、コーヒーの淹れ方を学ぶところからスタートしました。

バリスタになるために、どんな勉強をされたのでしょうか?

半年間、カフェ開業について全般的に学ぶことができる専門学校に通って勉強しました。コーヒーの淹れ方や経営の方法もそこで学びました。そのほかには義理の弟から、アメリカの進んだコーヒーの技術や知識を教えてもらったり。当初は彼のサポートのつもりでいたんです。ですが、事情があって彼がアメリカに帰ることになり、お店をどうするかと。流れとしては、サポートしていた私が続けるのが自然ではありましたが、バリスタの仕事に加えていきなり店舗経営もこなさなくてはならないことに、不安も感じていました。ただ、これで私が辞めてしまっては店が終わってしまうので、引き継ぐことに決めたのです。

1人でお店を続けるのは勇気がいる選択だったと思うんですが、どうやって決断されたんでしょうか?

私も家庭があり、小学生の息子と大学生の娘がいます。当時、お店を経営して忙しくなることで、周りには今まで以上に負担がかかるだろうなと思いました。そこで、子ども達には「迷惑をかけるかもしれないけど、お店を続けていいかな?」と聞きました。そしたら、子ども達が「いいよ」と言ってくれたんです。家族の理解、お店のスタッフの協力、専門学校の先生のサポートもあって、お店を続ける決断をすることができました。すごい決断をしないといけない時に「大丈夫、みんなで支えていくよ」と周りが言ってくれて。そんなサポートもあり、ピンチはチャンスだ!と思い前向きにお店を続けることができました。

はじめての店舗経営で、大変なことも多かったのでは?

私にとっては本当にはじめてのことだったので、分からないことだらけでした。経営するとなると、お客さまにお店を知っていただく工夫、備品類などの管理、どんなメニューにするか、考えるべきことがたくさんあります。おいしいコーヒーを淹れる、それだけではお店を続けていくことはできません。このままでよいのか、日々葛藤がありましたね。でも、お客さまがいてくれるから、「頑張って続けよう」と取り組むことができました。一人で経営し始めたのは開店して2ヶ月くらいの頃だったんですが、既に常連さんもいてくれたので。私のお店のコーヒーを待っていてくれる人もいるのでやろうと。少しずつですが、やれることを増やしていきました。何より、バリスタの仕事に真剣に取り組むスタッフの支えがあったので、乗り越えられました。

私の中では、一つの仕事を3年はやると決めているんですね。どんなに大変でも3年間はやる、と決めているので続けられました。3年というのは、一つの仕事を覚えて独り立ちできるくらいの期間だと思っています。そうすれば次の景色も見えてくるし、自分の進みたい方向も見えてくると思います。

グラマシーコーヒー南青山外観

バリスタとしてのこだわり・やりがい~コーヒーを通じてお客さまに出会う喜び

お店独自のこだわりはどんな所ですか?

おいしいコーヒーを届けるために、マシンにはこだわっていますね。エスプレッソマシンはラ・マルゾッコ(イタリアのフィレンツェに本社があるエスプレッソマシンメーカー)のものを使っています。どうしてもこのマシンを使いたいと思っていたので、実はオープン日を導入に合わせて遅らせたんですよ。その時は、日本にはたった1台、このお店にしかなかったんです。日本ではまだ珍しいので、このマシンを見るためにいらっしゃるお客さまもいます。

グラマシーコーヒー エスプレッソマシン

ラ・マルゾッコのエスプレッソマシン

それと、お客さまとの距離感にもこだわりがあります。カウンターは高さや幅をミリ単位で計算しています。お客さまと遠すぎず近すぎず、程よい距離感を出せていると思います。
私達スタッフは常に「演者」という意識。カウンター越しに、コーヒーを淹れる工程など全てを見ていただいています。また、どんなに忙しい時でも、スタッフの手書きのメッセージをスリーブ(ホットドリンクが入ったカップを持つ際に、手が熱くならないようカップにつけるカバー)に書いてお届けしています。日頃は感謝の気持ちってなかなか伝えられないので、少しでも伝えられたらと思って。

グラマシーコーヒーのカウンター

バリスタとして一番うれしい瞬間はどんな時ですか?

この前、お店に入ろうか迷っている方がいて、お声掛けして寄っていただいたんです。そしたら先々週にも来てくれて。でもその時は私がいなくてお会いできなかったんです。そしたら先週もう一度その方が来てくれました。その時に「お話しすると元気を貰えるんです。今日は会えてよかった」と言ってくださいました。そんなやりとりにも、うれしさを感じますね。

こんな人がバリスタに向いているというのはありますか?

感性が豊かな人が向いていると思います。料理や音楽、映画などいろんなものに興味があると、それをコーヒーに生かせると思います。コーヒーとスイーツのこんな組み合わせはどうだろう。コーヒーにこんなものを入れたらどうだろう。興味がいろんなものに向いていると幅が広がりますからね。でもコーヒーはとても奥深い世界。やっぱり「コーヒーが好き」という気持ちが強くないと、続けられないでしょうね。

人生経験が生きるバリスタというお仕事

以前のお仕事の経験で、今に生きている部分はありますか?

仕事では嫌な思いをしたことも多々ありますけど、無駄な経験はひとつも無かったと思います。私が新卒の頃は、机拭きやお茶くみも仕事の一部として任されていました。お茶くみでは社員一人ひとりに合わせてお茶の濃さを変えたり(笑)。ある意味良い経験でした。営業になったときは新宿の高層ビルの上から下まで名刺を貰ってこいとか言われて。その時は意味がないことじゃないかと思っていたけど、度胸がつきましたね。中でも一番役に立っているのは、電話オペレーターのお仕事。電話の向こうのお客さまとお話しする時は、声で心を伝えなくてはなりません。ですから、声のトーンで気持ちを伝える力が身につきました。あとはお客さまの声から、裏側にある気持ちを読み取れるようになりました。これは接客に役立っています。

実際にお客さまの様子を見てコーヒーの淹れ方を変えているんですか?

お客さまの気持ちを感じて、その時求められている味をお届けすることはありますね。常連さんが疲れている様子だったら「お疲れですか?」と声をかけてコーヒーを濃くしてみたり。今日はこんな味にしてみよう、とこちらで考えることもあります。あと、今日は話しかけられたくないのかな、今日は話したいのかなとか気持ちの裏側を考えるようにしています。実は産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの資格も持っているので、今すごく役に立っていますよ。

グラマシーコーヒー ハンドドリップ

多忙なカフェ経営と家庭を両立する工夫

木村さんは、バリスタであると同時に、二人のお子さんを持つお母さんでもあるわけですが、家庭との両立のコツはあるんでしょうか?

以前から仕事と家庭を両立していて、そのころから土日に家事を効率よくこなしていました。ただ、今は休日が日曜しかないので前より両立が大変。そこで、どうやって時間短縮できるかを常に考えて、同時進行でこなしています。あと、手を抜けるところは抜いていますね(笑) 。今は娘が大学生になったのでよく手伝ってくれて、助かっています。

家族の力を借りるとき、心がけていることはありますか?

私は「自分も家族も楽しく」が一番大事だと思っています。そのために、この人にどんな役割を担ってもらうか、どういう行動だったら気持ちよく家事をしてもらえるかを考えます。スタッフに仕事を任せるときのように(笑)。やっぱり家族にも楽しんで協力してもらえるのが大切だと思います。

ズバリ、旦那さんの協力の引き出し方とは?

私の夫は元々家事をする人ではなかったんです。色々とお願いしてみても、反応があまりなかったので、見守ることにしました。何でやってくれないの?って思うとイライラするじゃないですか。その中でも、少しずつやってもらうことを増やしていきましたね。「一緒にテーブルを拭いてみない?」と提案してみたり(笑)。後は子どもと一緒に家事をやってもらうと協力してくれます。お父さんと一緒にここを掃除してね、と子どもにお願いするのもいいですね。

仕事と家庭、両立してみて良かったことはありますか?

自分のことを自分でやらせることで、子どもの成長につながりました。親が働いている姿を見ると、自分が何をしなくてはならないのかが見えてくる部分があると思います。あと夫の家庭内での行動領域も広がりました。土曜日は掃除機をかけてくれています。私が忙しくなって掃除機をかける人がいなくなり、誰もやらないからやってみようという感じだったのではないでしょうか。やっているうちに家事が楽しくなったのか、いつのまにか掃除機が新しく変わっていました(笑)。

グラマシーコーヒー バリスタの木村さん

バリスタという職業とおいしいコーヒーをもっと身近なものにしたい

木村さんの今後の目標はなんでしょうか。

今後は新しい店舗を増やして、おいしいコーヒーを楽しんでもらえる場を増やしたいです。たとえばカウンターだけの小さいお店を作って、テイクアウトしてもらうような。サッと手軽にコーヒーを買えるお店を作ってみたいですね。ニューヨークにはビルの壁にくっついた小さいコーナーのお店があって、2ドルくらいでおいしいコーヒーが買えるんです。あとは豆の違いで飲み比べられるように、さらに価格を安く提供していきたいと思っています。ゆくゆくは豆のローストもしていきたいので、焙煎所も作りたいですね。

経営者としての夢はありますか?

イタリアやアメリカでは、バリスタは専門職として認められています。一方、日本ではまだ活躍の場が少なく、バリスタとして働きながら、ほかの仕事も掛け持ちしている人も多いのが現状です。女性のバリスタもまだまだ少ないですね。今後はバリスタが安心して働けるような活躍の場をもっと広げたいと思っています。バリスタがバリスタとして食べていける環境づくりがこれからの課題ですね。まだまだ、やるべきことがたくさんあると思っています。

グラマシーコーヒー 木村さん木村真由美
バリスタ、「Gramercy Coffee」経営。
証券会社勤務を経て、コーヒーショップの経営者に転身。2014年5月、東京港区南青山に「Gramercy Coffee」をオープン。品質の良いコーヒーとコミュニケーションの場を提供。また、バリスタの育成にも力を注いでいる。
https://www.facebook.com/gramercycoffeebar/