「120%の笑顔と明るい声で勝ち抜く」全国300名のウグイス嬢を率いる勝利の女神、カリスマウグイス嬢・幸慶美智子さん

2017年04月07日

かっこいい先輩に学ぶ!長く働き続ける理由
有限会社K・Cカナリー代表 幸慶美智子さん

選挙で活躍するウグイス嬢、司会者、ナレーターなど、マイクを通してメッセージを伝える仕事の第一人者、幸慶さん。人の心をぐっとつかんで惹きつけるトークを武器に幅広く活躍。全国にウグイス嬢を派遣する、業界の草分けでもある幸慶さんに、働き続ける醍醐味をうかがいました。

 

マイクの仕事に憧れて。ナレーターからイベント司会までこなす

父から、「女性も社会に出て、自分のキャリアを磨きながら仕事をしなさい」という教育を受けて育ったので、学生時代は、職業経験を積む意味でも、手あたり次第いろんなアルバイトをしていたんです。

当時はバブル期だったので、一日に数万円を稼げるような職種もあった時代。その中でも、華やかなイメージのあるマイクで話すお仕事に憧れて、アナウンサー、司会者、ナレーターコンパニオンを養成する学校へ、3つかけもちで通っていました。

そうするうちに、地元で選挙がありまして、友達を通じて選挙事務所でのアルバイトを紹介してもらったのが、ウグイス嬢としての初仕事でした。

こういった業界は、所属する事務所によって、モデル寄りのナレーターコンパニオン、イベント司会、ブライダル系など、専門が異なります。

私はタレント事務所に所属し、展示会のコンパニオンなどから始めて、22歳頃からはブライダルの司会なども。仕事に慣れた頃には複数の事務所に所属して、パーティーやお祭り、式典など、いろいろな場面で経験を積んで来ました。

初めのうちは、そういったイベントのお仕事が多かったんですが、23歳のときに、先輩たちから仲間外れにされるという目に遭いまして。若いくせに、自分でどんどん営業に行って仕事をもらっていたのが気に障ったのかもしれません。

ちょうどその頃、岐阜の政治広報センターに呼んでいただき、町議会、村議会などの選挙戦で地元のウグイスさんとご一緒して、とても楽しかったんです。そこから政治関係のお仕事が増えてきました。

「第一印象で好感を持ってもらうには、笑顔が大事」。ナチュラルな笑顔も、実は訓練の賜物

 

直接見えない人までも意識しながら、朝から晩まで笑顔が基本

私の場合は、政治家事務所の秘書の方から直接、お声がけをいただいています。

選挙活動の仕上げである遊説をサポートする重要な仕事なので、親身になって取り組むために、「候補者の娘になったつもりで」と言われることがあります。実際、家族になったつもりで心を切り替えないと、厳しい選挙戦は乗り切れないかもしれません。

選挙カーで回っていると、本当にいろいろな経験をするんですけど、チーム一丸となって一緒に楽しむ気持ちで取り組んでいます。

選挙運動は朝が早くて、候補者は通勤客が動き始める6時くらいから駅前に立つこともあります。マイクを持てるのは8時からなので、ウグイス嬢が活躍するのはそこから。ビラ配りをお手伝いしたり、候補者に付いて回ったりもします。笑顔が真顔、候補者の看板と一体化するようにしていますから、口角は上がりっぱなし。一日活動すると、肩も腰もビシビシになりますよ(笑)。

でも、やっぱり笑顔は相手にリラックスした印象も与えますし、自分自身の緊張もやわらぎます。表情がポジティブになることで、気持ちをポジティブにする効果もあるんですよ。

ちなみに選挙カーの中では、候補者は助手席に乗るので、ウグイス嬢のリーダーは運転席の後ろに座ります。対角の位置関係が、一番コミュニケーションが取りやすいのです。

車内では交代でマイクを握りますが、通行人の方に手を振るだけでなく、路上に誰もいないときは、建物の中におられることを想定して話します。夜は20時までなので、結構ハードな一日ですね。

ウグイス嬢の必須アイテム。清潔感とともに元気いっぱいのイメージも大事

 

アドリブと気配りをモットーに全国制覇を目指す

アナウンスの内容は、候補者さんによってさまざまです。原稿をそのまま、一言一句違えず読むように指示されることもあれば、「何をしゃべってもいい。君がこれまで身に付けてきたスキルを全部出して」と言われることもあります。

注目してもらうためには、臨機応変なアドリブを入れます。
あるとき、テニスコートのすぐ横を走っていたので、市政に切り込むことをイメージして、「市政にスマッシュ!」と叫ぶと、コート内にいた人たちが全員動きを止めて、こちらを見て下さったことがあります。関西人としては「ウケた!」と、してやったりですよね(笑)。

そのほか、道路工事の現場では、「道路のでこぼこは皆さんが、市政のでこぼこは〇〇が直します!」というように、そこにいらっしゃる方に直接語りかけるように心がけてます。

かつてのウグイス嬢仲間には、政治の世界に進出した人や、起業した人もいます。そういう、第一線で活躍している人たちを身近に見ていました。

また、現場で経験を積めば積むほど、話し方を中心に、アピールの仕方が上達していく。自分のスキルアップが、身をもって分かる仕事でもあったんです。だから、自分の将来に対しても、あまり不安を感じたことはなかったですね。

もちろん、ウグイス嬢の仕事は選挙ありきなので、その仕事のみでは安定収入は見込めません。特に、結婚して子どもが生まれてからは、いろんなお仕事に取り組んできました。歌手の方に付いて、一年くらい舞台の司会でご一緒に回らせていただいたこともあるんですよ。

ただ一度だけ、辞めたいと思ったといいますか、選挙戦の途中で帰ってきてしまったことはあります。

ある地方の市長選で、候補者の息子さんが仕切っていたのですが、ちょっとふざけたキャッチフレーズを使っていたんです。さすがに、有権者に対して失礼かと思い、意見したのですが、まったく聞いてもらえず……。ついに「そんなふざけたことは言えません!」と啖呵を切って帰ってきました。

今ならうまくいなしたり、もう少し上手に伝えたりできるのですが、私自身まだ若くて、鼻息の荒い頃だったんですね。熱意が前面に出て、ストレートにしか伝えられなかったんです。途中で投げ出したのは、後にも先にもその1回だけです。

 

ライバルからスキル向上のヒントをもらう

道場破りではないですが、派遣された先で、地元のウグイス嬢と舌戦になったりすることもありました。どっちが巧いと言わせるか、みたいな感じで、火花が飛び散るんです。

ライバルの言っていることは、現場では何も聞いてないようなふりをしてますけど、実はしっかり覚えておいて、宿に帰ってからメモしたりとかもします。

「田舎のおばちゃん」と思ってあなどっていると、ものすごく巧い方もおられて、言い回しの微細な気遣いが言葉に出るようなところに、年輪が感じられたりするんですね。そういうウグイス嬢と出会うと、一言一句逃すまいと聞き入って、自分のスキル向上に役立てます。

ウグイス嬢のお仕事は、いろんな地方に行かせていただくので、自分の見識を広めながら、旅行もついてくる。まさに“美味しいお仕事”なんです(笑)。ぜんぶ楽しんでやっているのが、長く働き続けている秘訣と言えば、秘訣でしょうか。

一人で膨大な仕事を抱え込んで大変な時期もあったのですが、今は会社を立ち上げて、組織で動いています。各地にスタッフを派遣したり、現地のウグイス嬢の教育を請け負ったりもしています。

実は北海道が未体験ゾーンなんです。広大な土地なので、看板のサイズが特大だという話も聞いているので、ぜひ行ってみたいなと思っています。

柔らかで耳に心地よい声、落ち着きのある語り口調だが、「さらに聞きよいボイスを研究中」だとか

 

幸慶美智子
神戸親和女子大学在学中にアルバイトでウグイス嬢デビュー。
以後、選挙活動のみならず、イベントの司会者やナレーター、各種ステージ、ブライダルなどの分野で27年に渡って活躍。250以上の選挙戦でウグイス嬢を務め、勝率9割という驚異的な実績を誇る。有限会社K・Cカナリー代表。

(インタビュー/今田 壮 構成/風来堂・根岸真理 撮影/清水信吾)