仕事の「好き」を見つけた「農業サラリーウーマン♪」

2014年09月04日

一粒の種が野菜になる不思議。育つ様子を見るだけで楽しい

愛用するmont-bellのTシャツを着込み、華奢な身体で乗り込むのは身長ほどのタイヤのついたトラクター。軽やかにハンドルを操る伏見友季さんは、久松農園の「農場長」の肩書を持つ。前職は料理教室の講師。まったくの未経験から飛び込んで新天地を見つけた“農業サラリーウーマン”だ。

株式会社久松農園
農場長 伏見友季さん(35歳)

株式会社久松農園 農場長 伏見友季さん

Profile:1979年生まれ。大学卒業後、大手生花店に入社しフローリストを5年経験した後、大手料理教室で料理講師を5年経験。その後、日本農業実践学園で1年間有機農業を学び、2012年4月久松農園入社。2013年4月から農場長。

|“好き”のアンテナを張り、自分らしく働く
働くからには、好きだと思える仕事をする。伏見さんはこれまで、心の声に素直に生きてきた。「大学時代の就職活動も、やりたいこともないのに会社に自分を合わせても楽しく働けないだろうなと。リクルートスーツも買わず、就活は一切しませんでした(笑)」。代わりに、子どものころから好きだったものづくりの分野に進もうと、大手花店が運営するフラワースクールに通い、大学卒業後はフローリストに。そして5年後、生花店勤務のかたわら趣味で通っていた大手料理教室からスカウトされ、料理講師に転身。ここでの体験が、伏見さんを農業の道へと向かわせることになる。

「畑の野菜を見たこともないのに、生徒さんに品種などを解説して『先生』と呼ばれている自分がいる。そのことに抵抗があったんです」。自分で野菜をつくってみよう。それも、家庭菜園などではなく職業として。ちょうど仕事の環境を変えたいタイミングだったこともあり、料理講師のキャリアを手放して、伏見さんは茨城県水戸市にある日本農業実践学園に入学した。農業は未知の世界。しかし、不安はなかったという。「ダメならまた何か別の仕事をすればいいだけですし。その時点で挑戦して失うものはなかったですから(笑)」

株式会社久松農園 農場長 伏見友季さん

旬の新鮮な作物には、野菜本来の味わいがある。個人向け宅配とレストランへの直送で、収穫したての美味しさを届けている。

こうと思ったら迷わず進む。思い切りがいいようでいて、実は伏見さんの道の選び方はとても慎重だ。フローリストも料理講師も農業も、本格的に飛び込む前にスクールで学び、“試す”期間を必ず設けている。「自分に合うかどうかは、やってみなければわからない。特に農業は、どんな働き方があるのか、どうすれば農業ができるのか、何の知識もなかったので東京・池袋の『新・農業人フェア』に行って相談したら、『学校がありますよ』と。紹介されたところが畑のほかに稲作や酪農など、農業を幅広く学べる学校だったので入学しました」。

ここで少し説明を加えると、農業の学校に行かなくても、農業を仕事にすることはできる。方法としては、「農業法人」と呼ばれる会社(または組合)形態の農場に就職するか、どこかの農場で研修生として経験を積んで独立するか、大きく2つの道がある。しかし、そのどちらにも伏見さんの心は傾かなかった。「独立すれば自分の好きに野菜がつくれますが、資金が必要だしリスクもある。農業法人に就職したら、そこの方針に従って働くことになる。私はただ野菜をつくりたいだけなのに、どうすればいいんだろうと」

いっそ小さな畑でも借りて、自給自足でのんびり暮らそうか。そんなことすら考えていたときに出会ったのが、久松農園の代表、久松達央さんだった。

|“農業サラリーウーマン”の誕生
農業学校で学びながら土日に各地の農家を訪ねて歩く中で、「茨城県で有機農業を手がける人がいる」と話は聞いていた。「茨城県・水戸の『新・農業人フェア』に久松さんが出展するというので、会いに行ったんです」

そして後日、久松農園の畑を見学し、伏見さんの自給自足生活の構想は一変。「ちゃんと仕事として農業をしたい」と気持ちのギアが入ったという。「人がきちんと手を入れていることがわかる整然とした畑で、作物がすごくイキイキと育っていた。その光景がとてもきれいで、ビビッときてしまって。自給自足なんて甘えていた。私は働くことが好きだったんだと、改めて気づいたんです」。

株式会社久松農園 農場長 伏見友季さん

年間の作付け計画の進捗を確認し、週間の作業計画を立案。働き方をデザインする、クリエイティブな仕事だ。

久松農園が年間約50種類と多くの種類の野菜を栽培していることも、伏見さんがやりたい農業そのものだった。ほかのどこでもなく、ここで働きたい。そう心が決まった伏見さんにとって、久松さんが将来の独立を前提とした研修生ではなく、従業員を募集していたことはむしろ好都合。“農業サラリーウーマン”の誕生だった。

そして2013年4月、転職2年目にして農場長に。作付け計画から、ほかに2人いるスタッフと研修生の作業割り当てまで、農場運営を一手に任されている。「野菜をつくりたくて農業に転職しましたが、私はつくるだけでは物足りない。年間で何をどれだけ栽培するのか。収穫時期から逆算して、いつ何をどの畑に植えるのか。日々の作業は、誰が何をすれば効率的か。自分で考えることと、畑で実際に身体を動かすこと、両方できることが面白いです」

ちなみに、原則として土日は休日。夏は5時から18時までで、途中休憩が4時間。冬は8時から17時までで、休憩は1時間。オフィス勤務のような時間管理だ。「そうなるように作業計画を立てているんです。どんなふうに働きたいかも自分たちで決められる。それも久松農園のいいところだと思います」

未経験でも、女性でも、独立しなくても、農業はできる。ありがちな先入観を、伏見さんは身をもってくつがえした。そして、やればやるほど「農業は面白い」と笑う。「小さな種から芽が出て、それぞれの作物がちゃんとできる。それだけでもすごいなあと。育つ様子を見ているだけで楽しいです。栽培計画もその通りにはいかないことばかりですが、だから面白い。自然や天候に“立ち向かって”とよく言うけれどおこがましい話で、私たちは自然の中でやらせてもらっているだけ。そこでどうベストを尽くすか。これまで5年ごとに転職しましたが、農業はしばらく続きそうです(笑)」

◆ 伏見さんに一問一答
―― 女性としてハンデを感じることはありますか?
ほとんどないですね。農機具のネジが強く締められていて回せないときは、「まったくもう」と思いますが(笑)。そのほかは農作業も支障はないですし、久松農園だからかもしれませんが、女性だからといって困ったことはありません。

―― モットーを教えてください。
有言実行することと、物事は自分で決めること。私は何かをしたいと思ったら、周りに宣言するんです。そうすると「この人に会うといい」など、情報が入ってくるようになります。また誰かの意見で決めると、何かあったときに後悔が生まれる。自分で決めれば言い訳できませんから、結果的に物事がうまくいくように思います。

―― 農業に興味を持つ女性にアドバイスをお願いします。
一言で農業といっても、家族経営から大規模農場までさまざま。稲作や酪農も農業ですし、野菜も当園のような多品目栽培からトマト専業など特定の作物専門まで多岐にわたります。どんな農業をしたいのかをよく考えて、自分に合う働き方を見つけることが大切だと思います。


株式会社久松農園株式会社久松農園
茨城県土浦市で、年間約50種類の野菜を有機栽培で育てる。旬と品種と鮮度にこだわった野菜は、力強い味わいが魅力。畑の美味しさが詰まった「野菜定期便」のほか、オリジナルの人参ジュースも人気。
http://hisamatsufarm.com/


『新・農業人フェア』 ◆ 伏見さんも情報収集に訪れた『新・農業人フェア』とは?

農業を仕事にするためのきっかけや情報を提供する就農相談会。「何となく興味あり」から「本格的に考えたい」まで、さまざまな方が気軽に情報を得られる農業イベントです。

【近日開催予定のフェア】
■ 2015年7月11日(土)東京会場
東京国際フォーラム B2階 展示ホール(1) 
東京都千代田区丸の内3-5-1
10:30〜16:30(16:00受付終了)

■ 2015年10月3日(土)東京会場
池袋サンシャインシティ 文化会館3階 展示ホールC
東京都豊島区東池袋3-1-1
10:30~16:30(16:00受付終了)

■ 2015年10月24日(土)札幌会場
札幌コンベンションセンター 大ホール
北海道札幌市白石区東札幌6条1-1-11
10:30~16:30(16:00受付終了)

■ 2015年12月12日(土)東京会場
池袋サンシャインシティ 文化会館4階 展示ホールB
東京都豊島区東池袋3-1-1
10:30~16:30(16:00受付終了)

■ 2016年1月23日(土)大阪会場
大阪マーチャンダイズマート 2階 B・Cホール
大阪府大阪市中央区大手前1-7-31
10:30~16:30(16:00受付終了)

■ 2016年2月13日(土)東京会場
池袋サンシャインシティ 
ワールドインポートマートビル4F 展示ホールA
東京都豊島区東池袋3-1-1
10:30~16:30(16:00受付終了)

【オフィシャルサイト】http://shin-nougyoujin.hatalike.jp/
主催/株式会社リクルートジョブズ 後援/農林水産省・厚生労働省

取材・文/大崎直美 撮影/戸井田夏子