子どもたちの「自分を信じる力」を育む/一般社団法人・子供教育創造機構 理事 赤井友美さん

2015年06月24日

やれば、できる。学童保育事業を通し、子どもたちの自分を信じる力を育む/一般社団法人・子供教育創造機構 理事 赤井友美さん【私の仕事Lifeの転機】

小学生が放課後を過ごす学童保育。共働きの増加で需要が高まり、民間企業の参入が活発化しつつある。そんな中、2013年に民間学童「キンダリーインターナショナル」を設立し、現在は3校を運営する赤井さん。12年勤務した会社を退職し、幼い子どもを抱えながら起業したのはなぜか。その思いを聞いた。
キンダリ―インターナショナル赤井友美さん

赤井友美(あかいともみ)/東京都生まれ。東京理科大学卒業後、2001年にリクルート入社。IT部門、広報、人事、などを経験。在職中に、中学生向けキャリア教育プログラムを立ち上げる。06年NPO法人「Teach for Japan」設立準備に参画し、初代理事に。13年リクルートを退職し、民間学童「キンダリーインターナショナル」を設立。プライベートでは08年に長男、11年に次男を出産。

子どもたちが自分で考え、決断し、行動する力を育てる場を作りたい

赤井さんが運営する民間学童保育「キンダリーインターナショナル」は英語や理科実験教室といった小学生の保護者のニーズが高いプログラムを備えつつ、独自のアクティブラーニング(能動的な学習)プログラムに主軸を置いているのが、ほかの民間学童保育にはない持ち味だ。
「ディベート、プレゼンテーション、どうぶつ将棋などのプログラムを毎日複数用意していますが、私たちが目指しているのは、単に知識や技術を学ぶプログラムを提供することではありません。子どもが自分で考え、決断し、行動する力を日々の経験を通して培える場を作り、『やれば、できる』という自分を信じる力を育むサポートをできたらと思っています。ですから、プログラムは子ども自身が選んで参加することをルールにしています。また、いつもと様子が違って荒れているお子さんにもスタッフがいきなり叱りつけたりはしません。学童期ともなれば子どもたちの行動には必ず理由があります。なぜその子はそういう態度を取るのか。何からその子を解放すれば、ちゃんと物事に向かえるのか。心を一緒にほぐすようなコミュニケーションを大切にしています」

「ムリだ」「できない」。物事をやる前からあきらめてしまう子どもの多さに驚いた

運営する3校のうち、いずれかの校舎に毎日身を置くようにしている。スタッフとの情報共有にはSNSを活用し、気になる内容については必ず直接話をして現場の状況を把握。

運営する3校のうち、いずれかの校舎に毎日身を置くようにしている。スタッフとの情報共有にはSNSを活用し、気になる内容については必ず直接話をして現場の状況を把握。

教育に関心を持ったのは、勤務していた会社の新規事業コンテストに応募して採用され、中学生向けキャリア教育事業に携わったのがきっかけだ。
「物事をやる前から『ムリだ』『できない』とあきらめてしまう子どもがこんなに多いのかと驚きました。例えば、作文ひとつ書くにも『どうせ私は小学生のときから国語が苦手だから、書けない』と思い込んでいたり、『僕は勉強が苦手だから、○○にはなれない』と自分の将来を決めつけてしまう子どもが少なからずいる。一方、子どもたちの力を信じておらず、授業の提案をしても『それはうちのクラスの生徒には無理です』の一点張りという先生も中にはいました。人はそれぞれ大きな可能性を持っているのに、学校の成績や大人からの評価だけで自分の力を見限らないでほしい。大人がもっと子どもの力を信じ、子どもが自由に物事に挑戦できる社会になれば、子どもは本来の力を発揮し、自分の力を信じられるようになるはず。そのための何かができないかと考え、仲間と教育支援のNPOを作りました」

学童保育の現場で人と関わりながら、一歩ずつ社会を変えていきたい

赤井さんが立ち上げたのは、学習困難を抱えた子どもたちを大学生が放課後や週末に学習支援するプログラム。
「学校とは別の場所で、学生が子どもの目線に立って勉強を教えれば、『自分はできない』と思い込んでいる子どもも『ちょっとやってみようかな』と思ってくれるかもしれない。一方、参加した大学生を育成することで、将来的に教育現場や社会を変えてく人材を増やせたらと考えました」
赤井さんは運営母体のNPOの初代理事を務め、会社勤務のかたわら活動を続けた。その間に結婚し、08年に長男、11年に次男を出産。子育てをする中で、教育への関心はより深まっていった。
「NPOの活動をする中で自分自身がリアリティを持って取り組めることは何かと考え、一番しっくりきたのが学童保育事業でした。ちょうど長男の小学校入学もあと数年という時期で、個人的にも学童保育に関心を持ち始めていましたし、学童保育事業なら、教育の現場に近いところで保護者や子ども、スタッフなどさまざまな人と関われる。そういう場所で大人には子どもの力を信じる大切さを、そして、子どもには『自由に挑戦していいんだよ』ということを伝えることによって、一歩ずつ社会を変えていけたらと考えたんです」

最初は「2足のわらじ」でもいい。やりたいことがあるなら、一歩を踏み出して

仕事や育児に忙しく、息つく間のない日々。ドライフルーツやナッツ類など体に優しいおやつや、ミント、好きな香りのバームなどちょっとした気分転換ができるグッズを持ち歩いている。

仕事や育児に忙しく、息つく間のない日々。ドライフルーツやナッツ類など体に優しいおやつや、ミント、好きな香りのバームなどちょっとした気分転換ができるグッズを持ち歩いている。

会社を退職し、13年に勝どき・月島校をオープン。起業できたのは、ビジネスパートナーの森博樹さんの存在が大きかったという。
「次男を出産し、ひとりで起業をするのは難しいと考えていたときに学童保育事業の勉強会で出会い、意気投合しました。いろいろと相談ができますし、子どもの病気などで仕事を休まざるを得ないときもフォローをお願いできたりもするので、パートナーがいると心強いですね」
1年に1校のペースで拠点を増やし、現在は3校を運営している。
「設備投資が必要なので経営面では赤字が続き、ようやく上向きになってきたところです。起業して苦労したのは『子どもたちの自分を信じる力を育てたい』という私たちの思いを共有できるスタッフを見つけること。子どもたちをコントロールするのではなく、一人ひとりの心に寄り添ってコミュニケーションできる人材を求めて、採用やスタッフの育成には力を入れてきました。多くの人と関わる仕事なので、日々いろいろな出来事はありますが、子どもたちやスタッフが自分の夢中になれることを見つけて目をキラキラさせ、生き生きと取り組んでいる姿を見るとうれしくなります。起業してよかったと思いますし、会社員時代には得られなかった経験をできています。『起業なんて、自分にはできない』と思っている人も多いかもしれませんが、私もいきなり学童保育を作ったわけではなく、会社の仕事のかたわらNPOの活動をしたり、ビジネスパートナーを見つけたり、少しずつステップを踏んできました。やりたいことがあるなら、最初は『2足のわらじ』で試してみるのもいいし、起業コンテストに応募するのもいい。まずは一歩踏み出してみると、見えてくるものがあると思います」

赤井さんの好きな場所:自然や命が感じられる気がするので、川などが流れている場所が好き。日々の生活でも、ビオトープがあるところを意図的に通っている。
編集部より>>
民間学童保育「キンダリーインターナショナル」は都内に勝どき・月島校、豊洲校、明石・日本橋校の3拠点を展開。学生スタッフやボランティアも募集している。
※詳細はHPでご確認ください。
http://kindery.net

文:泉彩子 撮影:刑部友康

※ タウンワークマガジンより