事務効率化コンサルタントに聞く!【その①】ミスが起こる仕組みを知って、リスクを回避!

2018年03月06日

事務仕事は単純なルーチンワークだと思っていませんか? 疎かにしたり慢心したりすると、小さなミスから大きなトラブルに発展する可能性も。事務仕事の効率化を図るため、職場でぜひ取り組みたいミスをなくす方法について、事務改善・業務効率化のスペシャリスト、藤井美保代さんにうかがいました。

 

ミスはなぜ起こるのか、ロジカルに検証することが解決への第一歩

どんな人間も万能ではありません。普段はミスをしない人でも忙しくてうっかり忘れてしまったり、スキルと経験のある人でも思い込みでミスをしてしまうことがあります。「人間はミスをするもの」という前提で、ミスが起こらない仕組みをつくることが最善の解決策です。では、そもそもミスがなぜ起こるかを考えてみましょう。

ミスが起こる原因は、大きく分けて3つ考えられます。

(1)「人」によるミス
業務に対する知識がない、知識があってもスキルがない、また知識とスキルがあっても意欲がなければ、人はミスを起こしやすくなります。そのリスクを理解して、対策をとる必要があります。

人が行動を起こすプロセスは、「認知→判断→行動」です。認知の段階で正しく理解できていないのか、判断する基準があいまいなのか、行動(オペレーション)が適切でないのか。ミスの原因をできるだけ細かく分析することが、精度の高い改善策につながります。

たとえば、仕事の依頼を受けたときのことを想像してみてください。

まず、「認知」の段階で話をよく聞いていないと、“思い込み・勘違い”が起こり、ミスにつながります。依頼内容を復唱し、わからないことは質問して、正しく理解。内容はメモを取るなど「見える化」をすることで、物忘れ防止にもつながります。

次に、どんな対応をすればいいか「判断」できないとき、自己判断で勝手に進めず、依頼者やその業務に精通している人に相談を。自分は具体的にこうしようと思っている、と確認を取ってから着手しましょう。そして、実際の「行動」=「仕事」は納期を確認し、段取りを立てて取り組みましょう。仕事の流れがイメージできれば、わからないことを事前に確認したり、ヘルプを頼むなどの判断もできます。

(2)「道具」によるミス
事務仕事で日常的に使う道具といえば、パソコン、ペン、電卓、ファイルなどがあります。これらが古かったり、壊れていたら、仕事がはかどりません。パソコンのアプリケーションが使いこなせていない場合も、作業に時間がかかって納期遅れのミスになりかねません。

また、業務の「マニュアル」がない、あるいはアップデートされていなければミスが起こる確率が高くなります。経験値や手順がマニュアル化されていないことは、それだけでも非効率。自分でないとその仕事のことがわからないというのは、何かあった場合のリスクが高くなります。

(3)「環境」によるミス
オフィスの環境として挙げられるのは、まず「コミュニケーション環境」があります。全員がパソコンに向かってシーンとしている職場では、わからないことがあっても質問しづらく、わからないまま仕事を進めてしまいがち。仕事が「共有化」「見える化」されていない閉鎖的な職場ではミスが起こりやすくなります。

もうひとつ挙げられるのが、「整理整頓の環境」です。場の乱れは心の乱れをつくります。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の不備はミスの温床になりますが、単に片づければいいというわけではありません。「いかに効率的に仕事を進められるか」という発想で、机の上の文房具や書類の配置、引き出しの中のレイアウトなどを見直してみましょう。パソコンのデータを常に整理しておくことも忘れずに。
 

一見非効率でも手間と時間をかけることでミスを防げる

ある建設会社で大きなミスがありました。短縮ダイヤルの押し間違いによるFAX送信ミスで、発注元に大事な情報を誤って送ってしまったのです。送信ミスそのものも問題ですが、これまでにも同じような軽微なミスが何度もあったのに、対策をとらなかったことが大きなミスに発展してしまったといえるでしょう。

「ハインリッヒの法則」といって、ひとつの大きなミスの背景には、29の大事故には至らないミスと300の軽微なミス(ヒヤリ・ハット)が潜んでいるという統計があります。アメリカの損害保険会社に勤務していたハインリッヒが、労災事故が発生する確率を調査したもので、重大な事故の背景には必ず数多くの前触れがあることを指摘しています。つまり、小さなミスが起きたときには、すぐに対策を打つ必要があるということです。

前述の会社では、その後短縮ダイヤルを廃止し、FAX番号を二度入力しないと発信されないシステムに変え、さらに送信の際はふたり体制をとるように改善しました。

このように、大事なことには手間と時間をかけることもミス防止には必要です。これだけをやればミスがなくなるという魔法の杖はありません。一見非効率でも見直しを習慣化したり、他の人にも見てもらうなど、ダブルチェック、トリプルチェックをする工夫を、行動プロセスに埋め込んでいきましょう

ただし、チェック体制を強化するといっても、なんでもかんでもチェックすればよいということではありません。すべてを二重、三重にチェックすれば、業務量も増えて、結局形骸化してしまいます。日常業務に落とし込むには、「チェックポイントは2割」と決めて、大事な部分だけをチェックするようにしましょう。たとえば、メール送信であれば、メールアドレス、添付ファイル、日程などの「重要ポイント」を書き出し、それだけは必ずチェックするなど。そうすると負担感が軽減され、ダブルチェックを習慣化しやすくなります。
 

ノーミスで付加価値を生みだす“スーパー事務職”になるには

アラサー世代ともなると、「事務仕事はできて当たり前」と見なされ、小さなミスでも評価を下げかねません。しかし、経験を積んだからこそ、新人の頃より「慣れ」や「思い込み」によるミスも起こりがちに。以下の点を見直して、“ノーミス”を目指しましょう。

(1)思い込み・過信をしない

ある程度経験を積んだ人に多いのは、「思い込み・過信」によるミスです。思い込みをなくすには、「観察」「傾聴」「想像」の3つが大切です。慣れた業務であっても、よく見て、指示する人などの話も流さずに聞きましょう。また、「その業務は何のためにあるのか」「発注した人の意図は何だろう」といったことまで想像できると、自分勝手な解釈も減るでしょう。

(2)目的を明確にする
「目的があいまいな仕事」には無駄が潜んでいます。前任者から引き継いで、ただこなしているだけになっている業務はありませんか? 無駄な業務は「なくす」。なくすことが難しければ「減らす」。減らせないのであればやり方を「変える」というステップで考えてみてください。本来の目的を明確にすれば、おのずとやり方が見えてくるはずです。

(3)仕事のメリハリをつける
「だらだら仕事」もミスのもと。ある金融機関の事務では、50分/10分のサイクルで仕事をまわすことで8年間、ミスがまったくありませんでした。50分間業務をしたら、10分間は別のこと──たとえば、ちょっとした打ち合わせや、忙しい人の仕事を皆で手伝う、といったことを取り入れるのです。このサイクルを習慣化してメリハリをつけることで、集中力が維持できミスがなくなったということです。
 

経験とスキルのあるアラサー世代には、「定型的な仕事をこなす人」から「仕事で付加価値を生み出せる人」にシフトしてほしいと、会社や上司も期待しているはず。日頃の仕事をロジカルに分析・検証してミスがなくなるよう、業務改善に取り組んでいきましょう。

 

記事監修:藤井美保代
株式会社ビジネスプラスサポート代表。人と組織が豊かで幸せになることを実現するための研修・コンサルティングを、これまでに約1000社以上で展開。現在も事務改善・業務効率化コンサルティング、資産価値の高い組織実現に向けての人財開発指導を行っている。著書に『仕事ができて、なぜか愛される女(ひと)の8つの習慣』(SBクリエイティブ)、『「ミスゼロ仕事」の片づけ・整理術 』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

※この記事は2018年2月時点での情報です。