意外と簡単な「医療費控除」の申告方法、今回の確定申告からもっと身近に!

2018年02月27日

会社員の場合、「わざわざ確定申告をするのは面倒……」と、「医療費控除」の申告を行っていない人も多いかもしれません。しかし、特に大きな病気や入院をしていなくても、1年間の医療費は意外とかかっている場合も。確定申告をすれば、確実に「戻ってくるお金」ですから、申告しないのは損! また医療費控除の申告をすることで、住民税も安くなるので、活用しない手はありません。

さらに、今回の申告から手続方法の簡略化、控除内容の拡大など、うれしい改正が行われます。そこで、ルールが変わって、より手軽でお得になった医療費控除について、公認会計士の徳光啓子さんにお話をうかがいました。

 

今回の確定申告から、医療費控除はどう変わる?

医療費控除とは、1年間のうちに病院での診察・治療・出産などにかかった医療費を、一部税金から控除することで、実質の金額負担を軽くするためのもの。控除を受けるためには確定申告が必要で、今回の申告から次のように変わります。

① 手続きが簡略化、提出添付書類が2点のみに
今までは申告時に「領収書など医療費の支出を証明する書類」の添付が必要でしたが、改正後は、医療費、通院交通費などをリスト化した「医療費控除の明細書」を提出すればよいことになりました(※1)。

また、健康保険組合などが発行する「医療費のお知らせ」を添付すれば、医療費の合計金額を医療費控除の明細書に転記するだけでいいので、明細への記入の手間を省くことができます。

※1 ただし、税務署から確認を求められた場合に提出できるよう「5年間の領収書保管」は必要。

② 控除内容が拡大、新たに「セルフメディケーション」が対象に
自分自身で健康管理に努め、軽い症状などは病院にかからずにセルフケアする「セルフメディケーション(自主服薬)」を推進するため、かぜ薬など、薬局で購入したスイッチOTC医薬品(※2)も控除の対象になります。特定の成分を含むスイッチOTC医薬品を年間1万2,000円以上購入した場合に限られ、健康診断や予防接種などを受けていることが条件になります。

ただし、この制度は医療費控除の特例で、従来の医療費控除と同時に利用することはできないので、どちらで適用したほうがお得か、検討が必要です。

また、夫婦共働きの場合、夫が医療費控除、妻がセルフメディケーション税制、と別々に利用することもできますので、夫婦間で綿密な打ち合わせが必要かもしれません。

※2 くわしくは、厚生労働省HP「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」を参照。
 

医療費控除で、どれくらいお金は戻ってくるの?

医療費控除が受けられるのは「病院での診療」「治療」「出産」と内容が決められており、1月から12月までの1年間で医療費が10万円(※3)を超えた場合が基本とされています。そして「戻ってくるお金」は医療費控除額に所得税率の5~45%をかけたもので、下記のとおり総所得金額によって変わってきます

医療費控除額=年間医療費-保険金等で補てんされた金額-10万円(※3)

課税される所得……所得税率
195万円以下………………5%
195万円超330万円以下…10%
330万円超695万円以下…20%
695万円超900万円以下…23%
900万円超1,800万円以下…33%
1,800万円超4,000万円以下…40%
4,000万円超………………45%

たとえば、会社員で年収300万円(総所得金額192万円)、医療費を年間15万円支払い、保険金等での補てんがなかった場合、医療費控除額は5万4,000円となります。すると、所得税(5%)、住民税(一律10%)あわせて8,100円分、税金が安くなります(※4)。

※3 年間総所得が200万円未満の人は、「総所得金額の5%」。
※4 一定の条件のもとで計算しています。条件によって金額は異なりますのでご留意ください。
 

どこまでが医療費控除の対象になる?

医療費控除が受けられるのは、基本的には「治療」目的のみであり、「美容目的」のものは対象外と決められています。30代の女性にあてはまりそうな主な内容を下記にまとめてみました。

医療費控除の対象

・出産前後の妊婦さんの定期健診費用
・出産時の分娩費用・入院費用
・不妊症の治療費
・人工授精の費用
・レーシック手術
・通院のための電車・バス利用料金
・花粉症のレーザー治療などの治療費用
・ニキビ治療費用(治療目的)

医療費控除の対象外(美容目的など)
・美容整形手術
・ホクロの除去費用
・脱毛費用(美容目的の場合)
・人間ドックや健康診断
(診断の結果、重大な病気が発見されて治療を受ける場合は対象となることがある)
・エステ費用
・ダイエットのための低カロリー食品購入費用
・妊娠検査薬の購入費用
・コンタクトレンズ購入費用
・ニキビ治療費用(ピーリングなどの美容目的)

 

申告手続きは意外とカンタン!

まず、1年間にかかった医療費の合計金額を把握することが大切です。申告間際になって慌てなくてもすむように、次のような手順で準備しておくと安心です。

(1)年始めに、領収書保管封筒を2枚用意
年始めに「医療費控除(治療)」「セルフメディケーション(予防)」と、それぞれ明記した封筒を2枚用意しましょう。どのような内容でお金を使ったのか把握しやすくするために、領収書を分けて保管しておくのがコツです。診療・通院・手術・入院などにかかった分の領収書は「医療費控除」封筒へ、薬局で対象薬品を購入したときの領収書は「セルフメディケーション」封筒へ。分けて保管すれば、年間の各金額が把握しやすくなります。

(2)通院時などの交通費は、その都度メモをつけて
忘れてはならないのが「通院時の交通費も控除対象」になるということ。交通費は電車やバスだと領収書がない場合もあるため、手帳やカレンダーなどに記録をつけるようにしましょう。

(3)年末の12月に、全明細をまとめてリスト化
申告時に必要なのが、年間に「医療費」「セルフメディケーション費」として、いつ、どのような内容で、いくら支払ったかの一覧です。国税庁のHPに「医療費集計フォーム」として集計用のエクセルデータがありますので、活用するのもよいでしょう。(1)の領収書の内容と(2)の交通費をあわせて、年間の「医療費」「セルフメディケーション費」を集計してまとめます。

(4)3月15日までに税務署へ申告
インターネットで「国税庁 確定申告作成コーナー」と検索してみてください。パソコンで簡単に確定申告書を作成することができるサイトが見つかると思います。あとは、サイトの案内に従って必要事項を入力していくと、確定申告書をパソコンで作成することができます。印刷した確定申告書と添付する資料(※5)をあわせて、管轄の税務署へ郵送するだけで、手続完了です。医療費控除などによって安くなった所得税が、登録した銀行などの口座に振り込まれます。なお、住民税は所得税のように還付という方法ではなく、翌年負担する住民税が安くなります。

※5 源泉徴収票や医療費控除の明細書など。セルフメディケーションの場合は定期健康診断の結果通知など、一定の取り組みを証明する資料も添付する。
 

手順を一度知ってしまえば、申告手続きは意外と簡単です。「どうせそんなに医療費はかかってないから……」と、これまで控除申告をしていなかった人も、控除内容が拡大する今年からは、ちょっとした薬代が対象になることもあるので、この機会に見直してみましょう。

「医療費」「セルフメディケーション費」を日頃から意識して管理することは、自らの健康管理にもつながります。

 

記事監修:徳光啓子
公認会計士。2009年に公認会計士試験に合格。その後、有限責任あずさ監査法人に勤務し、主に国内上場企業の監査に携わる。
2016年から税理士法人タックス・アイズに勤務し、企業の各種税務申告業務や会計・税務コンサルティングを行っている。
同年、茨城大学の非常勤講師として原価計算論・管理会計論の講義を行う。

※この記事は2017年12月時点での情報です。