プラバンアクセサリーで人気のNanaAkuaさんが語る、人のふれあいの場までデザインする“モノづくり”の理想形とは?
憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
デザイナー NanaAkua(ナナアクヤ)さん
プラスチック素材のうすい板“プラバン”を使って、立体的で鮮やかなアクセサリーを作り出すNanaAkuaさん。
プラバンアクセサリーをはじめ、かわいらしく、ときにユニークな作品のほかにも、ワークショップも大人気
だというNanaAkuaさんに、作品が生み出される背景や“場”を作る面白みについてお聞きしました。
「作りたい」という衝動から生まれた立体プラバン
■プラバンについての本を単著で6冊も出版されていますが、以前からプラバンの制作が好きだったのでしょうか?
小さな頃から、モノを作るのが好きで、家にある布の端切れで人形の洋服を作ったり、いろいろしていました。でも、プラバンに関しては、本を出す以前から熱心に制作していたわけではないので、単に運がよかったんだと(笑)。
あるとき、ふと作り始めたプラバンの作品を、皆にぜひ見てほしいと思ってネットに次々とアップしていたら、それを偶然見つけた出版社の編集者の方が「本を出しませんか」と声をかけてくださったんです。
それまでは、プラバンといえば平面的なものしかなく、私のように花びらを重ねたりする立体的なものを作った人はいなかったようなので、編集者の方にとっては衝撃的だったのかもしれませんね。この1冊目が、立体プラバンを紹介した初めての本だったこともあり、好評だったようで、その後、立て続けに本を出すことになったんです。
■立体プラバンの第一人者といわれていますが、どのようなきっかけで誕生したのでしょうか?
私は、「うわ、これ素敵だ!」と思うものに出会うと、それを手元に置きたくなり、かつ、自分で作りたくなってしまうんですね。
2011年の夏に居酒屋で“のれそれ”という魚と出会ったときもそうでした。高知あたりの名産のアナゴの稚魚なんですけど、その透明な美しさと美味しさに魅了されて、創作意欲が湧いてきたんです。
美大でいろいろな素材や画材を扱っていたこともあり、何かを作りたいと思った瞬間にだいたい「どう作るか」というアイディアも浮かんできます。そのときは、「この透明感を出すには、プラバンがいいかも」と、ピンときて。そして、幼い頃以来初めてプラバンを使って、お魚のアクセサリーを作ったんです。
その2年後、今度はホタルイカ(笑)を作ろうとしたときに、再びプラバンの存在を思い出しました。ちょうどその頃、消しゴムハンコの制作にハマっていたので、「ホタルイカの消しゴムハンコを作り、プラバンにスタンプしてピアスにしたら、キラキラしてかわいいかな」と思って。
その制作の過程、プラバンをオーブントースターで温めている最中に、細い足の部分がグニョグニョと曲がったんですよ。それを見て、「温めて柔らかいうちなら、自分の手でも曲げられるはず。それなら、花びらも作れるかも!」と、立体プラバンを思い付きました。
それまでプラバンをあまり使ったことはなかったし、作り方の本なども見たことがなかったので、固定観念がなかったのもよかったのかもしれませんね。
“モノづくりをする場”も作るデザイナーとして活動
■プラバンアクセサリーの制作のほかには、どんな活動をしているのでしょうか?
実は、いろいろしているんです。自身の創作活動として信州伝統野菜の消しゴムハンコやちくわそっくりの認め印というようなちょっと面白系の作品を作ったり。
仕事としては、印刷物やグッズなどのグラフィックデザイン、イベントの企画運営などをやったり。名前は表に出てないけれども、ショッピングモールのイベントポスターが実はNanaAkuaのデザインだったり、なんてこともありますよ。
もちろん、プラバンに関しては、本を作ったり、キットをプロデュースしたり、全国各地でワークショップを開催したりしていますが、基本的にご依頼があればプラバンに限らず何でもやります! だから、単なるプラバン作家とは言えないのかなって。
肩書は、デザイナーとしていますが、これは“グラフィックデザイナー”だけの意味ではありません。私は、モノをデザインするだけではなく、人が心地よく過ごす場や空間、つまり、人と人とのコミュニケーションもデザインしていきたいと思っています。
そういう意味では、心惹かれる対象を見つけてモノを作り、それをネットなどでたくさんの人に見てもらい、その制作の感動や喜びをワークショップで共有する。この全てをやることが、私のモノづくりの理想形なんです。
■NanaAkuaさんのワークショップは、いつも大盛況だとお聞きしましたが……?
以前は消しゴムハンコのワークショップもしていましたが、今はプラバンのワークショップを全国各地で年10回ぐらい開催しています。老若男女、いろいろな方が参加してくれますね。
ワークショップって、「こうしなきゃいけない」というものは意外となくて、自分で考えて “自分だけのもの”を作る楽しさ、その中で得る発見などを伝えられたらと思っています。
あと、ワークショップには、周りの人とすぐに仲良くなれちゃう不思議な力があるんですよ。最初は友達でも何でもなかったのに、「それ、写真撮らせて!」「今度、その色、使ってみようかな」とか、どんどんコミュニケーションが生まれて、もうLINEの交換でもしそうな勢いで仲良くなっていく。「プラバンのワークショップで、世界平和に貢献できるかも?」と思ってしまうほど(笑)。実際、モノを作っているときは、幸せな気持ちに包まれて、意地悪な考えなんて湧いてこなくなるんです。
ワークショップは、私が一方的に教える場ではなく、皆で作っていく場なので、こんな色使いがあるんだと驚かされたり、私自身もいろいろなことが吸収できます。一緒に作品を作っていく中で、皆さんがどんなところを疑問に思うのかも明確にわかるので、それを本に反映できるのもうれしいですね。
■グラフィックだけではなく、ワークショップなどの“場”のデザインにも興味をもったきっかけはなんでしょうか?
武蔵野美術大学の短大を卒業後、バイト生活を経て、1年間カナダにワーキングホリデーに行き、その後、紆余曲折の上、フリーでグラフィックデザイナーをしていました。でも、大学は空間演出デザイン専攻だったので、フリーで仕事をしていくには、何となく心許なかったんです。
それで、知識を深めるために、武蔵野美術大学の通信制3年に編入したんですが、そこで出会ったのが人と人のコミュニケーションをデザインする「コミュニケーションデザイン」という概念。その勉強を通して、まちづくりなどにかかわっていくうちに、人・コト・モノを繋ぐということに興味をもつようになりました。
数年前まで、地元で暮らす留学生を支援・交流する団体の副理事長を務めていたんですが、幼い頃からずっと両親と一緒にその活動に参加していたので、今思えば、ワーキングホリデーで英語を勉強したいという気持ちや、コミュニケーションデザインへの興味が芽生えたのは、活動を通して人との交流の楽しさを知っていたからかもしれませんね。
“本気で楽しむ”精神が、未来を拓く
■さまざまなお仕事をしている中で、何かモットーとされていることはありますか?
無駄を楽しむこと!(笑)私の作っている作品は、世の中にとって「絶対に必要」というものではないですよね。でも、そんな無駄なモノを作ることを、本気で楽しみたいと思っています。
私は、いろいろな場で、「自分はこういうことができますよ」とアピールをすることはありますが、営業活動は特にしていません。それでも、私の作ったモノを気に入ってくれて、仕事に繋がることがあります。それは、私がモノづくりを本気で楽しんでいることが伝わったからだと思うんです。
それから、作品は、基本的に売らないことにしています。販売用の作品に時間を費やすよりかは、その時間で新しいモノ、新しい作り方を生み出して、それを楽しく伝えたり、教えたりしたい。皆で作る場を提供することが、私がモノづくりで目指している形です。
あと、無理をしないというのも、モットーです。あれもこれもやって頑張りすぎてしまうと、一番大切な「何かを作りたい」という欲求がなくなってしまうので、そうならないように気をつけていますね。
■プラバンアクセサリーだけでなく、いろいろなものをデザインしているNanaAkuaさんですが、10年後はどのようになっていたいですか?
こうなりたいというのは、特になくて。周りに求められていることをやっていけば、自然に何かになっていくものだと思っています。10年前も自分がプラバン作家と呼ばれるようになるなんて想像もしていなかったので、10年後も何を作っているのかまったく想像できません。ただ、これまでの経験上、「これは大変そうだな」と思ったことでも、そこに少しでも楽しみが見つけられそうなら、やってみたほうがいいのかなと。
もちろん、プラバンについては、たくさんの方にここまで支持されているので、責任をもってやっていかなくちゃと思います。NanaAkuaの作品が特別ではなく、「プラバンは、立体的に作るのが当たり前だよね!」と、誰もが思うぐらい世の中に広まるようになれば本望ですね。
NanaAkua
長野県松本市出身。フリーランスで活動するデザイナー。2013年『プラバンでつくる本格アクセサリー』(日東書院本社)を出版し、立体プラバンの第一人者に。全国でプラバンなどのワークショップも開催。普段は印刷物やグッズのグラフィックデザイン、各種イベントの企画運営なども手がけている。
(インタビュー/高山和佳 構成/風来堂 撮影/清水信吾)