無気力な大学生から農業女子へ転身しバラを栽培・加工・販売「バラが自信をくれた」ROSE LABO代表・田中綾華さん
意外な業界・職種で活躍! イマドキ女子の多様なワークスタイル
ROSE LABO代表 田中綾華(あやか)さん
バラに魅了され、弱冠22歳で農薬不使用の食用バラ栽培の会社を設立した「ROSE LABO」代表の田中綾華さん。2期目は年商3000万円を達成する見込みで、海外からも注目を集めるまでにビジネスを成長させました。気鋭の「農業女子」の素顔に迫ります。
何気ない会話の中で気づいた、自分の可能性
■「ROSE LABO」のお仕事について教えてください。
埼玉県深谷市にある自社施設で、農薬不使用で食用バラを栽培し、化粧品やサプリメントの元となるエッセンスの加工販売、バラを使ったジャムやクッキー、美容液などの製品を企画・販売しています。生産者が加工・販売までを行う、いわゆる「6次産業」と呼ばれる形態ですね。
食用バラは日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、海外ではジャムなどにしてバラを食べる習慣があるんです。実は、バラにはポリフェノールが赤ワインの約10倍も含まれていて、血液をサラサラにするケルセチンは玉ねぎの約2倍、ビタミンCはレモンと同じくらいと、とても美容と健康にいいんです。
ほかにも、バラの匂いを嗅ぐと記憶力がアップしたり、バラを食べると汗がバラの匂いになるなどの研究結果も出ており、ものすごいパワーが秘められているんです。
そういったバラの可能性を引き出し、たくさんの人に魅力を伝えていくのが、私の夢なんです。
■なぜ、「食用バラ」に着目されたのですか?
直接のきっかけは、母との何気ない会話でした。
大学に入ったばかりの私は、夢もない、趣味もない、無気力な学生生活を送っていました。進学した理由も、「みんな行ってるから」「推薦で受かったから」という消極的な理由。好きな科目ややりたいことも見つからずに、だんだんと何のために大学に入ったんだろうと思い始めて、目標を失って毎日悶々としていたんですね。
そんな大学1年の頃、母が「食べられるバラがあるんだって」と教えてくれたんです。
もともと私は、起業家の大先輩でもあるひいおばあちゃんの影響で、幼少の頃からバラが大好きでした。ひいおばあちゃんは、夫を亡くしてから一人で7人の子どもを育てつつ、靴やカバンの製造・卸を行う事業を営んでいたパワフルな人で、いつもバラのモチーフの服やハンカチなどを身に着けていたんです。
「なんでそんなにバラが好きなの?」と聞いてみたら、「バラを身に着けていると、バラのように強くなれる気がするから」と、ひいおばあちゃんが答えて。彼女が大好きだった私は、それ以来、自分を強くするお守りとして、バラに特別な思いを抱くようになったんです。
それほどバラに思い入れがあったのに、食べられるバラがあるということを知らなかった。母の一言で、バラの知らなかった可能性を知ったとき、「見方を変えれば、ものごとにはいろんな可能性が見えてくるんだ」と、これまでの価値観がひっくりかえるほどの衝撃を受けたんです。
食用バラの農家をインターネットで検索し、近くに移り住んで修業
■20代前半での起業、いろいろと大変だったのでは?
最初は全く起業のことは頭になく、ただ自分でバラを育ててみたいという気持ちだけで、2年生のときに大学を辞めて大阪の食用バラの農家に修業に行きました。しかも大学を辞めたことは、親には事後報告で(笑)。
大学の学部も農業とは全く関係のない分野で、農家の親戚もいなければ、農業系の人脈も誰一人なかったので、不安はもちろんありましたよ。
でも、そこでもやはり、ひいおばあちゃんの座右の銘が後押ししてくれました。「自分の人生は自分が主役」と、彼女はしょっちゅう言っていたんです。それを思い出して、一度きりの人生なんだから自分が好きなことをやってみようと、思い切って行動を起こしました。
まず、インターネットで食用バラの農家を検索して、求人も出ていなかったのに連絡を取りました。当然「農業経験は?」など聞かれましたが、「ありません! でも、どうしてもバラを育ててみたいんです。バラ栽培の技術を私に教えてください!」と、猛アピール。熱意が通じたのか受け入れてもらえ、近くに移り住んで働きながらバラの栽培法を教えてもらいました。
初めて体験した農業は、やはり厳しかったですね。植物の状態はすぐに変わるので、常にバラのことを考えていなければならない。荷物を運んだり、力仕事も多いですし。バラはトゲがあるので、収穫作業のときは手が傷だらけ。
それでも、育てる喜びのほうが大きかったです。最初は栽培できるだけで満足していたのですが、仕事を覚えていくうちにバラの美容や健康などへの効果を知り、「バラのパワーを人に伝えたい!」という気持ちが生まれ、ビジネスプランを考え始めました。
そうして1年ほどの修業を終えたのち、祖父母に資金援助をしてもらって深谷の農場にビニールハウスを建て、2015年9月に「ROSE LABO」の前身となる「Flowery(フラアリー)」を設立したんです。
■いきなりビジネスを始めて失敗はなかったのですか?
1年目のとき、バラが全く咲かないという事件が起こりました。咲いてもすぐに枯れてしまったり……。大阪の農家でいろいろと学んだつもりだったのですが、甘かったんですね。
このままではいけないと、農業を理論的に学び直すために、「アグリイノベーション大学校」という社会人向け週末開講の農業経営スクールに通い始めました。
学校では、農薬の化学的な知識や、農地法などの農業に関する法律など、それまで全く知らなかったことを学ぶことができて、本当に役に立ちました。原価計算の仕方などもとても丁寧に教えてもらえたので、経営改善にも繋がったと思います。
それに、周りに新しく農業を始めようとする仲間がいる、ということも心強かったですね。商品を試作した際は同級生に試してもらい意見を聞いたり、先生にもたくさんアドバイスをもらいました。
最初に入った大学とは、ぜんぜんノリが違いましたよ。みんな「絶対、授業料の元を取ってやる!」ぐらいの気持ちで毎回授業に臨んでいたので(笑)。やっぱりそれぐらいしないとダメだったんですね。今では約1000坪の農地から最大27万輪のバラを収穫しています。
バラ栽培の難しさもあったのですが、販路を開拓するのにも苦労がありました。
「女だから」「若いから」といって、話をまともに聞いてもらえなかったこともあります。けれど、そういう対応をされるということは、自分が未熟な部分もあったからだ、と思ったんです。
最初は正直、若さをウリにしていた部分もあったのですが、そういう甘えは捨てて、自分が男でも女でも、若くても歳をとっていても、通用するような専門知識と立ち振る舞いを必死で身に付けました。
母や知人に相手をしてもらって、プレゼンや商談の練習をしたり……。たくさん練習して場数も踏んだことで、今は自信を持てるようになりました。その結果、2期目終了の2017年8月には年商3000万円を達成する見込みです。
バラがネガティブな自分を変えてくれた
■この仕事のやりがいや、起業して良かったと思うことは何ですか?
やっぱり、自分の好きなものに関わっていることが、一番のやりがいになっていますね。それから、自然に囲まれて栽培する喜びを感じられるのは、農家ならではのやりがいだと思います。
起業して良かったことは、大変なことを乗り越えた達成感以上に、人の温かさに触れられたことですね。
安いから、美味しいから買うのではなく、ROSE LABOの理念に共感して、多くの人が応援してくださるんです。それまで私の人生、応援されることなんて特になかったので(笑)、すごく嬉しくて、それに応えたいと思っています。
■起業してから自分の気持ちに変化はありましたか?
実は私、昔はものすごくネガティブで、自分の意見が言えないイエスマンだったんです。「何食べたい?」と聞かれても「なんでもいい」、「どこ行きたい?」と聞かれても「どこでもいい」みたいな。自分のポジションを意識してしまって、友達と話すのもものすごく気を使ったり。
ずっと、そんな自分を変えたいと思っていたときに、食用バラに出会ったんです。
思い切った行動ではありましたが、夢中になれるものを仕事にして、仕事の成果が自信に繋がって、今は自分が大好きだと思えるようになったし、明日が来るのが楽しみでしょうがないんです(笑)。
田中綾華
ROSE LABO株式会社代表。農林水産省「農業女子プロジェクト」メンバー。大学を中退後、大阪の食用バラ農家で修業、2015年9月には前身となる「Flowery株式会社」を設立。埼玉県深谷市で、農薬不使用の食用バラの栽培、加工品の企画販売に取り組む。2016年、さいたま市ニュービジネス大賞女性起業賞受賞。Global Student Entrepreneur Awards日本大会にて日本代表に選出。
(インタビュー/鈴木さや香 構成/風来堂 撮影/氏家岳寛)