建設業で活躍する女性“けんせつ小町”がカッコイイ!変化する業界の先頭を走るキャリア10年の工事主任
意外な業界・職種で活躍! イマドキ女子の多様なワークスタイル
大成建設 田縁優依さん
建設業界では2014年から、建設業で活躍する女性技術者・技能者を“けんせつ小町”と名付け、女性の活躍促進を図ってきました。より女性が働きやすい環境へと現場が変わりつつある中、大成建設ですでにキャリア10年目に突入した、工事主任を務める田縁優依さん。2年前に結婚、家庭を持ちながら仕事に打ち込み、“けんせつ小町”のロールモデルとなるべく奮闘中です。実際仕事は大変なの? 仕事のやりがいは? 建設業界のリアルに迫りました。
人の手による「モノづくり」に感動して建設業界へ
■なぜ建設業界を選んだのですか?
きっかけは高校生のとき、オーストラリア・メルボルンに留学した際に受けた、ビジュアルコミュニケーションという授業です。
カフェを新規オープンするとしたら、という課題で、一年かけてコンセプトを固め、店舗・広告・名刺やメニューなど一連のデザインに取り組みました。これがとてもおもしろかったんです。
また、ステイ先のホストファミリーのお父さんが大工さんで、お母さんもDIYが好きな方でした。自分たちで自宅を建てていて、それがとてもステキな家だったんですね。それで建物に関心を持つようになりました。
建築のことを学べる大学へと進学して、始めは意匠設計(発注者のニーズに応じて、デザイン性、実用性の観点から、建物の外観や内観、間取りなどを決定する仕事)に関心があったんですが、優れたデザインをする学生がたくさんいて、「自分は才能ないなぁ」って(笑)。そう思いつつも勉強するうちに、建物の見た目や空間をデザインする意匠設計ではなく、建物を一から構築する建築施工にも興味を持つようになっていました。
そこで、大成建設のインターンシップに応募。日本を代表する大手ゼネコンで、たくさんのプロが働く建設会社を見ておきたかったからです。
インターン中は、実際の工事現場の見学もさせてもらえて。現場は、クレーンなどの重機で建物を造っているイメージが強かったんですが、とてもたくさんの人たちが働いていて、「実は人間の手で造っているんだ!」と衝撃を受けたんですね。これこそ「モノづくり」だと感じました。
最終的に、施工の道に進もうと決心し、どうせやるなら大きな建築物を手掛けたいと思い、大成建設に入社しました。
■現在の仕事内容を教えてください。
私は、施工管理職として入社しました。現在の部署、渋谷CSセンターに異動したのは2年前です。
施工管理職とは、足場の組み上げや鉄骨を建てる鳶職、建物の骨組みを造る躯体(くたい)業者である鉄筋、大工、土工、仕上げ業者である塗装、左官、内装屋さんなど、現場で働くさまざまな職種の人たちをまとめる仕事。スケジュールと品質を管理しながら、安全・快適に作業を進め、契約工期までに、基準を満たした建物を完成させるのがミッションです。
今の部署は、比較的小規模・短期で完了する改修工事がメインです。渋谷区・世田谷区の顧客担当で、オフィスビルや個人宅兼貸しビルなど、当社が手掛けた元施工物件を含む4~5棟を受け持っています。入社8年目で一つポストが上がって工事主任となり、この部署初の女性社員として配属されました。
現場に出る日と、打ち合わせなど人と会う仕事が多い日は、半々くらいですね。
私が入社した年は、会社としても、事務以外の仕事を幅広く女性に任せていきたい、というタイミングでした。ですから、女性の先輩が少なくて。自分がロールモデルとして道を切り開かなければならないので、また新たなステージに進んだなと思っています。
■渋谷CSセンターに配属される前は、どのようなお仕事をされていたんですか?
入社後1か月の研修を経て、5月から工事担当として新築の工事現場へ毎日出ていました。それから5~6年の間、現場をまとめる仕事をしていました。
今の改修の仕事と違い、1日に関係者が1000人近くも働く大規模な新築現場ばかり。上下作業着でヘルメットに安全帯をつけて、とフル装備でした。今のようにお客様と接することも少なかったので化粧もせず、夏は汗だくです(笑)。
さまざまな職人さんたちからの問い合わせと、上司からの細かな確認で、携帯電話がひっきりなしに鳴って。それらの対応に追われてあっちへ走り、こっちへ走りといった感じでしたね。
確かに私は現場監督という立場ですが、実際に建物を造っているのは職人さんたちなので、信頼関係がなければ、指示を聞いてはもらえず、良い建物を造ることができません。だから問い合わせには迅速に、そして正確に対応する。当たり前のようですが、そういうことを体で覚えていきました。
図面の寸法が変更になったのに、私の確認不足で間違った寸法で型枠ができてしまって、叱られながらやり直してもらったという失敗もありましたが……。
周囲に励まされながら、「地図に残る仕事。」を目指す
■やはり女性にとっては大変な仕事ですか?
確かに大変なことはあります。入社試験のとき面接で仕事の流れについてや、体力を使う仕事だということを聞いていたので、覚悟はできていました。それでも、やはり体のつくりが男性とは違いますから、重い物を移動できなかったり、体力的につらくなったりすることはあります。
でも、それ以外で苦労した、女性だから損をした、と感じたことは一度もないんです。逆に「得をした」「成長できた」と思うくらいで。
職人さんに同じ指示を出すにしても、男性社員より私のほうが聞いてもらえたり(笑)、すぐに名前を覚えてもらい「たぶっちゃん」とよく声をかけてもらえたり。「朝礼が上手くなったな」なんて、小さなことで褒めてもらえるのも嬉しいです。よくも悪くも、女性は現場で目立つので、注目を浴びることが多いですが、みなさん温かいです。
■このお仕事の魅力は何でしょう?
関わる人が多い分、人との出会いがたくさんあることです。
入社後、初めての現場で出会ったベテランの鳶さんが、「女の人が現場に入っても、なかなか続かない。でも、たとえ今の会社であろうが、転職してようが、がんばってこの業界を5年続けることができたら、どこかの現場できっとまた会う。だからそのとき、『よくがんばったな』って言わせてくれよ」と、言ってくれたんです。
その言葉が強く心の中に残り、つらいときも励みになって、仕事を続けることができました。
その鳶さんとはそれ以降、現場で会うことはなかったのですが、実は、私はその鳶さんの下で働く人と結婚しまして。主人の上司ですから、当然結婚式にご招待しました。現場ではなく、結婚式で再会したんです。そこで、やっとお礼を言うことができました。「結婚してもまだまだ、がんばります!」って(笑)。
また、仲のよいパートナー企業のリーダーの方からは「2本線のヘルメットをかぶっているところを見せてくれよ。そうしたら、お祝いするよ」と励まされたこともありました。
2本線のヘルメットは、1本線のヘルメットである工事担当から、工事主任に昇格した証し。やはりその期待に応えたいと思ってがんばりまして、入社8年目で主任になることができました。もちろん約束通りヘルメットを見てもらって、お祝いの言葉をいただきました。
どこにおいても女性が少ないので、「がんばって!」と温かく応援してもらえます。そうした応援を励みに、これからもがんばっていきたいと思います。
■10年のキャリアの中で、特に思い出に残っている仕事はありますか?
入社数か月後で、初めて着工から竣工、引き渡しまで関わった銀座の商業ビルですね。中央通り沿い、きらびやかな銀座のど真ん中に建てた12階建ての新築物件で、ちょうど京都に住む母が仕事で東京に来ていたので、ビルが完成して引き渡す前に、中を案内することができました。
母は「今までがんばってきた一番のご褒美だね!」と、とても感動してくれて……。母は、私が建築デザインの道に進むと思っていて、まさか施工の道で男性に混じって現場で働くとは思っていなくて。だから無理をしているのではと、入社以来ずっと心配していたようです。
自分が携わったものが形として残る。まさに当社のスローガンでもある「地図に残る仕事。」ができて、親を感動させることができるなんて、最高の仕事だなと思いました。
■今後の目標を教えてください。
必要とされる人間として、できる限り長く建設業界で仕事を続けることです。
私は大規模な新築現場から、内勤を経て、小規模工事の改修部門へと、いろいろな経験を積みながら、途中で結婚もしました。
これから出産・育児も経験するかもしれませんが、身近に見本となる女性の先輩がいないので、どのように両立していけるかは未知数です。でも、そのとき自分なりに何ができるかを考えて、また周囲と相談しながら、やっていければいいなと思っています。
職場に女性が少ないとはいえ、私が入社して以来、少しずつ女性が増えてきました。後輩たちには、建設業界における働き方は一つじゃないし、女性でもライフステージに合わせて、辞めずにキャリアを積むことができることを伝えていきたいです。
1984年生まれ。2008年、理工学部建設都市デザイン工学科卒業。同年、大成建設東京支店入社。工事担当としてオフィスビルや商業施設の新築工事を手掛け、工事部工務の内勤を経て、2015年7月、工事主任となり城北文京CSセンター勤務。9月に渋谷CSセンターへ異動、改修工事に携わる女性社員第一号となる。一級建築施工管理技士。建設関係者の夫と2年前に結婚。
(インタビュー/兼子梨花 構成/風来堂 撮影/三坂修二)