80歳でパソコン・タブレットを使いこなす「葉っぱビジネス」の達人おばあちゃん「100歳まで仕事を続けたい!」
かっこいい先輩に学ぶ!長く働き続ける理由
「いろどり」(つまもの)農家 西蔭幸代さん
徳島市の中心部から南西に約40km。四国山地の険しい山々に囲まれ、美しい棚田が広がる上勝町は、料理のいろどりに添えられる葉っぱ「つまもの」の産地として知られています。上勝町を全国的に有名にしたのは、その名も「葉っぱビジネス」という仕組み。そして葉っぱビジネスの主役は、パソコンもスマホも器用に使いこなす、地元のおばあちゃんたちです。その1人、一日約2ケースのつまものを出荷するというスゴ腕の西蔭幸代さんにお話をうかがい、働き続けることの醍醐味を語っていただきました。
毎朝の注文取り競争で1日のスイッチをオン
私の1日は、朝8時の注文取り競争から始まります。「柿の葉10ケース」「南天の葉10ケース」など、農協を通して入る注文は毎日変わります。値段は相場に合わせて日々決まっていますが、注文自体は、各農家に自動的に振り分けられるのではなく、早いもの勝ちなんです。
入札には、パソコンやタブレットを使います。事前に注文は確認できるので、8時前にはパソコンの前に座って、目星をつけておくんです。200軒ほどの農家さんが登録しているので、人気の注文はあっという間に取られてしまいます。朝寝坊なんてしていられない(笑)。
各農家が入札できるのは、8~10時に1ケース、10~11時に1ケース。入札で注文が取れなくても、その後のセリに出せますが、それだと高く売れないんです。だからみんな、気合いを入れて臨むんですよ。
8時になったら、すぐに注文ボタンをクリック! 旬の人気商品は単価が高い分、狙っている人も多い。「早いもの勝ち」と言っても、ほとんどみんな、同時なんじゃないかしら。成功すると画面に大きく丸印と「成功」の文字が出るんですが、これが本当に嬉しくて。ドキドキしつつ、楽しみながらやっています。
需要が高まる時期から逆算し、一日約2ケースもの「つまもの」を出荷
無事、注文が確定したら、さっそく出荷の準備をします。切り出した枝や葉っぱをパックに詰めていきますが、見栄えが大事。センスよく丁寧に並べるのには、コツがあるんです。こういう作業はやっぱり男の人より女の人のほうが上手ですよね。だからおばあちゃんが活躍しているんじゃないかしら。評判がいいと、入札ではなくお客さんからの「指名」をもらうこともできるんです。
冬は梅、春は桃と桜、夏から秋は紅葉が、季節物の商品として人気。でも梅や桃、桜など、花がつくものは、出荷の時期、普通はまだツボミの状態なんです。だからいつも、「このくらいから注文が来るだろう」というのを予想して、早めに枝を切っておく。そしてビニールハウスの中で温度調整をしながら、ツボミの膨らみ具合をコントロールするんです。「葉っぱビジネス」って簡単そうに思えますが、結構頭も技術も使うんですよ。
パソコンもスマホも、ドローンもウェルカム!
「歳を取ってから、パソコンやスマホの操作を覚えるのは大変だったのでは?」とよく聞かれますが、私だけでなく、上勝町で葉っぱビジネスに参加している人たちはみんな、使いこなしていますね。パソコンとスマホの2台持ち、なんて当たり前ですよ(笑)。
個人的に、タブレットを持つようになって良かったと思うのは、写真を撮る趣味が増えたことです。出会った人との記念写真や、家の周りの風景など、タブレットで気軽に撮れていいですよね。Facebookもやっていて、夜寝る前にチェックするのが日課なんですけれど、撮った写真をアップしています。
今、いろどりではドローンを使って、荷物の運搬をできるようにする計画があるんです。上勝町は山が険しく、傾斜地が多いので、ドローンで出荷できるようになったら便利ですよね。導入は少し先になりそうですが、実証試験に協力したりもしていますよ。
みかんが全部枯れてしまうピンチがきっかけで「葉っぱ」の出荷を開始
私は4人姉妹の長女として生まれ、生まれてからずっと上勝町で暮らしています。実家は米農家だったため、小さい頃からよく母や祖母の仕事を手伝いました。戦争で父を亡くしたため、力仕事のできる男性がおらず、大変な時期だったんです。
23歳で結婚して、実家の米農家を継ぎましたが、出産後には米から柿とみかんの栽培に切り替えました。3人の子どもを育てながら、畑仕事もしていたんです。ところが1981(昭和56)年、大寒波の影響でみかんが全部枯れてしまって。上勝町全体が大打撃でした。
それからしばらくして、打撃を受けた分の生活費を稼ぐため、また子育ても一段落したことから、社会に出てみたいという気持ちもあって、縫製工場に勤め始めました。
そして工場勤務にもすっかり慣れた頃、同じ町内に住む知人から、「葉っぱビジネス」のことを教えてもらったんです。最初は「葉っぱなんか売れるの?」と半信半疑。でも、ちょうど自宅で栽培していたアジサイが旬で「ちょっとやってみるか」と。そうしたらなんと、1パック1000円で売れたんです! 本当に驚きました。
100歳まで葉っぱビジネスを続けたい!
葉っぱビジネスを始めて、23年が経ちますが、辞めたいと思ったことはありません。仕事をしていることで、思いもかけないような人と出会える。それが楽しみになっているんです。
葉っぱビジネスは、海外にも注目されていて、バングラデシュやブータンなど、あちこちからインターン生や視察の方が来てくれます。一緒に作業したり、お話しするうちにすっかり仲良くなってしまいますね。もちろん国内からも多くの方が訪ねてきてくれますよ。高校生や大学生もいれば、なかには80歳のおじいさんまで。
上勝町の外で暮らしたことのない私にとって、そんな出会いはどれも新鮮。それぞれの方が地元に帰った後もFacebookで友達になったり、お礼のプレゼントを贈ってくれたり。ずっと繋がっている人もたくさんいますよ。
それから、このビジネスの話を基にした映画に出演できたことも、葉っぱビジネスをやっていて良かったと思うことの一つです。ダメ元でオーディションに挑戦してみたんですけれど、見事合格! まさか人生で映画に出られる日が来るとは思いませんでした。
実は、畑もまだまだ拡大中。もっとたくさんの人に出会いたいですし、新しいことにもどんどんチャレンジしたい。続けていたら、なんと映画女優にもなれたし(笑)、100歳までは元気に葉っぱビジネスを続けたいですね。
西蔭幸代
1937年生まれ。徳島県上勝町出身。梅や桃をはじめ、南天、椿、柿、もみじ、ゆずり葉など、年間を通し、100種類以上のつまものを出荷している。葉っぱビジネス歴は23年。注文時に農家さんを指名できる制度が導入されてからは、度々指名が入るほどの人気。2012年公開の『人生、いろどり』、2014年公開の『佳歩』の2本の映画にも出演している。
農家と農協と株式会社いろどりが共同で進める「彩(いろどり)事業」。いわゆる「葉っぱビジネス」と呼ばれる取り組みの指揮を執っている、いろどりの大畑さんに、スタッフから見た農家のおばあちゃんたちの印象をうかがいました。
年配の方が大活躍中の「葉っぱビジネス」
上勝町は、かつてはみかん作りと林業が主要な産業でしたが、1981(昭和56)年、異常な寒波に見舞われ、みかんの木は枯死してしまい、ちょうどその頃、林業も海外からの輸入材に負け衰退。高齢化も進み、働き手が減っていく、どん詰まりの状況でした。
そんなときに町の経済を立て直そうと、弊社代表の横石が目をつけたのが、「つまもの」の販売。上勝町にはもともと、花木で生計を立てている農家さんが何軒かあったので、土台はあったのですが、最初は4軒の農家さんと始め、今では200軒を超える農家さんが登録してくださっています。米や野菜と違って軽いので、高齢者の方でも続けやすいというのも、大きなメリットだったと思います。
ITおばあちゃんたちの元気の源は「競争心」と「商売人気質」
農家の方に対して驚いたのは、IT機器に対する反応の良さです。いろどりがこの事業を始めた当初、入札は電話やFAXで行っていましたが、登録農家さんが増えたためネットに移行。とはいえ農家さんはおばあちゃんが多いので、上手くいくか心配していたんです。
ところが、あっという間に使い方を覚えちゃって。パソコンもタブレットも、みんな器用に使いこなしています。おかげで今ではアクセスが増えてサーバーが重くなってしまい、システム改良中です(笑)。
ネットに移行してから気付いたこともあります。田舎は都会より近所同士の付き合いが密で、独特の人間関係がありますよね。上勝町もそうでした。ネットで売り上げランキングを公表するようにしたところ、ご近所同士に良い意味でライバル関係が生まれ、「あの家には負けたくない!」と売り上げが伸びるようになったんです。
それから、これは関西圏だからなのかもしれませんが、もともとみなさん商売人気質なんです。いろどりでは毎日、ブログ形式で商品に関する情報を更新していますが、タイトルの頭に「見たら得する情報」なんてつけると、さっそくみんなチェックしてくれる。好奇心には年齢なんて関係ないんですね。おばあちゃんたちのバイタリティーにあふれた反応に、我々も日々、元気をもらっています。
株式会社いろどり
大寒波で大打撃を受けた上勝町の農業を立て直すため、当時農協職員だった横石知二さんの発案により、1986(昭和61)年に「つまもの」の販売を開始。1999(平成11)年、法人化。現在はインターンや視察の受け入れ、セミナーにも力を入れている。
(インタビュー/南雲恵里香 構成/風来堂 撮影/内山政彦)
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