OLからの転身、人気スタイリストへ! 亀恭子さんが今だから言える「試練は次のステージに行くために必要なこと」
憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
スタイリスト 亀 恭子さん
ファッション誌を中心に、スタイリストとして活躍中の亀恭子さん。コーディネートだけでなく、ブランドとのやりとりから最新の流行情報の収集まで、ご自身で何でもこなす亀さんに、お仕事の魅力や、転職を経て得た仕事観について聞かせていただきました。
自分の足で情報を掴み、「半歩先のトレンド」を提案する
■現在はどのようなお仕事をされていますか?
フリーランスなので毎月本数はバラバラですが、ファッション誌やテレビでのスタイリングのお仕事をはじめ、ファッションブランドやジュエリーなどの商品を開発するお仕事をしています。季節の変わり目には、百貨店が企画するイベントでのトークショーなどもありますね。今はちょうど、アパレルメーカーのウェブページ制作にも携わっています。
スタイリストの仕事といっても、ファッション誌でコーディネートを組むお仕事だけではなく、すごく幅があっていろんなステージがあるんですよ。
■華やかなイメージがあるスタイリストのお仕事ですが、具体的にはどんなことをするのでしょうか?
例えばファッション誌の場合だと、まずは編集者から発注を受け、打ち合わせをします。そこで「こんなテーマでスタイリングを見せてほしい」「こんな雰囲気で撮影したい」「こんな女性像を打ち出してほしい」といった希望を聞いて、テーマに沿ったスタイリングを提案します。ページの企画段階から関わることもありますね。
それからブランドのプレス(PRや商品のリースなどの窓口)にアポイントを入れてリースの手配。「こういう媒体の何月号でこんなテーマなので、こういうものを探しています」と、なるべく詳細に企画意図を伝えます。
アポイントを入れたら、プレスルームに足を運んで商品を借りて回り、撮影の準備です。袋から一つ一つ洋服を出し、コーディネートを組んで編集者とチェックしたり、靴が汚れないように底にテープを貼ったり、クレジット(商品情報)を作成するために記録用の写真を撮ったり。クレジット作成もスタイリストがやるんです。何十枚もある伝票を全部見直して……間違えてはいけないので結構大変です。スタイリストというと華やかなイメージを抱かれますが、地味な作業も多いんです(笑)。
■ブランドにアポイントを入れたり、靴底にテープを貼ったりといった作業もお一人でこなすのですか?
そうです。アシスタントを付けていた時期もありましたが、今は全て自分でやっています。もちろんアシスタントを付けている人も多いですが、私は、自分で動いてナンボだと思っているので。
何を求められているのかを把握しているのは自分なので、直接やりとりしたほうが話が早いということもありますが、実際にプレスルームに足を運んで商品を見ることで得られる情報ってたくさんあるんです。
納期の関係で、行くたびに少し商品が入れ替わったりするので、いろんなプレスを回ることによって、「今年はどこのブランドでもこういうタイプのサンダルが入っているんだな」などという情報を得ることができます。
私を育ててくれた師匠からは、「半歩先のトレンドを提案できる人になりなさい」と教わってきました。一、二歩先では読者の共感を得にくい。だからその雑誌が読まれる頃のトレンドを押さえて、これから真似したくなるコーディネートを提案する、ということです。そのためにはトレンドを肌で感じることが必要だと思っています。
プレスに顔を出すことから生まれる付き合いも大切です。いつもやりとりしている信頼関係があれば、例えば、急に発生したオーダーやスケジュール変更などにもお力添えを頂けることが多いです。そういった、自分で動くことで得られる情報や信頼関係があるので、基本、アポ入れからスケジュール管理まで自分でやっています。
■ご多忙なお仕事に加え、一児の母になった亀さんですが、一日のスケジュールはどんな感じですか?
リースのためにプレスルームを回る日であれば、朝7時くらいに起きて、自分の支度をしながら子どもを起こして、子どものお風呂や朝ごはん、着替えを同時進行させ、8時30分ぐらいまでに保育園に送り届けます。それから9時30分ぐらいに家を出て、朝から夕方まで30分刻みでみっちりプレスルームを回り、18時には子どもを迎えに行く。
家に戻ってきてそこから子どもにごはんを食べさせ、寝かしつけます。まだ1歳だから、21時頃までに寝てくれるのが理想なのですが、元気が有り余っていて22時を回ってもなかなか寝てくれない日もあって、そういう時は寝室で根気強く頑張ります(笑)。日にもよりますが、それから元気があれば、クレジット作成などに手をつけます。
早朝に撮影があったり、どうしても外せない撮影準備があったりすると、子どもの送り迎えが難しくなるので、主人や主人の母、シッターさんにお願いをすることもありますね。周りの人に助けてもらってこそのお仕事もできる環境で、感謝しています。今は特に子ども中心のスケジュールなので、自分的には、言われるほど忙しい感じはしてないです。
■亀さんが中心となって子育てをされているんですね。
もちろん、そうしています。子どもが生まれてからは、少しでも一緒にいられる時間を多くできるように、仕事をやりくりしています。子育てしながら働くことは大変だと思いますが、私の場合、時間に制約ができたことで、タイムスケジュールにメリハリがついて、逆に楽になった部分もあります。
以前は自分のために100%時間を使い切っていました。お話を頂いた仕事はほぼ全て受けて、寝不足でクタクタでも友達とのごはんにはもちろん行って(笑)。1日24時間では足りない感じの日々でした。
その頃、様々な現場で学んだことや色々な場所で出会った人たちとの時間が、今の自分を作っています。
今は少しだけアクセルを緩めて、家族と子どものことを考えて、お迎えの時間までに仕事を終わらせようとしたり、できることはなるべく家でやったりしていたら、効率よく時間を使えるようになりましたね。
「何かやってみたい!」という気持ちで、OLからスタイリストへ
■まさに天職という印象を受けますが、スタイリストになったきっかけはなんでしょうか?
もともと、5歳上の姉の影響でファッション誌を読むことは好きだったのですが、ふんわりと憧れを抱いていたファッションの世界に進み、自分がスタイリストになるとは全く想像していませんでした。
この仕事に就いたのは、会社員の時にたまたま雑誌の読者参加型企画に協力した際、のちに師匠となる編集者の方に「スタイリストに向いていると思うので、やってみませんか?」と声をかけてもらったことがきっかけです。師匠は、その時に私が書いたアンケートを読んで電話をくれたみたいですね。
アンケートに書いたのは、名前・住所と職業、今シーズン何を買ったか、それをどうやって着たいか、どんなテイストが好きか……だったかなぁ。ファッションについて答えるのが楽しくて、結構びっしり書いてましたね。それを読んだ編集者の方が「(スタイリストに)向いていると思った」というのは後から聞きました。アンケートで何を語っていたのかは、もはや遠い記憶ですが、ファッションが好きな気持ちが届いたのかな。
それから会社に勤めながらスタイリストについて少しずつ勉強させてもらい、半年ほどでフリーのスタイリストとしてやっていくことを決意しました。短大を卒業して就職し、会社員3年目の23歳の時です。
■安定した会社員からフリーランスという不安定な環境に飛び込むことに不安はなかったのでしょうか?
不安よりも、「何かやりたい」「私に何ができるだろうか」という気持ちが強かったですね。やらないで後悔するより、やって後悔したかった!
私のいた会社は航空関係だったのですが、ポジティブな理由で転職していく同僚が多かったんです。語学を学び直すために留学するとか、現場でお客様と接したいからCAに転職するとか、全く違う業界にチャレンジしていった子もいました。そうやって羽ばたいていった同僚たちに刺激を受けましたね。
だから不安よりも、やってみようかなって気持ちの方が強かったんです。もしできなかったらできなかったで、それはその時に考えようと。私の場合、あんまり悩みすぎたりするとダメなんですね。周りの人にも相談はしましたが、あくまで自分で決めないと、やらないことを誰かのせいにしちゃうんで、それはちょっとカッコ悪いかなって。
当時は実家暮らしだったので、周りに親や地元の友達がいたことはとても心強かったです。金銭的な面だけでなく、相談ごともできるし、近くに頼りになる人がいたというのは大きかったと思います。ちなみに両親には会社を辞める気持ちが固まってから、報告しました。反対されると揺らいでしまう当時の自分の性格を自覚していたので。
つらかったことは、次のステージに行くための試練だった
■読者参加型企画からの抜擢、という異例の経緯で始まったスタイリスト人生。一人前になるまでにどんな苦労がありましたか?
スタイリストになるには、人によっては服飾系の学校に通って学んで、スタイリストに弟子入りして、アシスタントを経て独立というコースが一般的です。私の場合は下積み(勉強する)時代を経験せずに、いきなりフリーランスのスタイリストになり、編集者である師匠に手取り足取り指導してもらいながら実務に入りました。
愛の鞭もそれはたくさんくらいましたよ(笑)。30体コーディネートを組んだら、ダメ出しされて全部作り直しということもありましたね。師匠も、プロとして納得いかないものを世の中に出したくないから、真剣です。
そうやって現場で鍛えられて、初めて一人前になれたと思えたのは、フリーになってから3年目ぐらいの頃、師匠のアドバイスなしで自力で組んだコーディネートが、読者アンケートで好きなコーディネート1位に選ばれた時でした。
やっぱり、この仕事の一番のやりがいは、結果が目に見えて返ってくることですね。読者から好きなコーディネートとして支持されたり、提案したものが世の中のトレンドとなったり、街を歩いている子が、私たちの作ったものを着てくれているのを見たりすると、本当に嬉しいです。
■スタイリストの仕事を辞めたいと思ったことはありましたか?
2年目ぐらいの時に行き詰まってしまったことがありました。コーディネートに自信がもてず、師匠からは怒られるし、悪循環にはまってしまって。
でも、うまくいかないから辞めるのはどうにも納得がいかなかった。どうせ辞めるなら山口百恵さん方式がいいと思ってたんです(笑)。絶頂期で、みんなに惜しまれつつ、次に自分がやりたいことが見つかった時に辞める。
そうやって私がすごく落ち込んで悶々としている時、友達から「神様は乗り越えられない試練を与えないから」と励まされました。自分が一歩成長するための、必要な試練なんだと思って、その言葉にとても救われました。
今だからこそ言えることかもしれませんが、「何のために働くのか?」を考えた時、私はこの仕事を「ライスワーク」ではなくて「ライフワーク」として続けていきたいと思っているんです。ある人が言っていたことですが、文字通り「ライス(ご飯)ワーク」は食べていくための仕事、「ライフワーク」は人生を豊かにするための仕事、という意味です。
だから、ダメだったら次行って、またダメだったら辞めて、というよりも、試練は次のステージに行くために必要なことだと思って、乗り越える努力を惜しまない。そんな働き方が理想的ですね。
亀恭子
1998年に短大卒業後、約3年間のOL生活を経て、2001年から女性ファッション誌「Can Cam」のスタイリストへ。シンプルでありながらトレンドを巧みに取り入れたスタイリングは、有名モデルからも支持されている。イベントでのトークショー、ブランドとのコラボレーションで商品開発など幅広く活躍中。1歳の男の子のママとして育児と仕事を両立させている。
(インタビュー/鈴木さや香 構成/風来堂 撮影/清水信吾)