オフィスワークからフラワーデザイナーに転身!「変化のない毎日を変えたい」そう思った彼女が開いた新しい扉とは?
憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
フラワーデザイナー 田口セツコさん
雑誌などでも活躍する人気フラワーデザイナーの田口セツコさん。20代で商社での事務職からフラワーデザイナーに転身し、30代で独立したその背景について、お話を伺いました。
人生のシーンを花で彩るフラワーデザイナーというお仕事
■まずは、田口さんのお仕事内容について教えてください。
「アトリエ アンダンテ」というお花のアトリエで、主にブライダルの装花を行っています。花嫁のブーケやヘッドコサージュ、テーブルや会場の装飾など、結婚式を彩るお花全般のコーディネートですね。ほかに、雑誌やカタログの撮影でお花のスタイリングをしたり、新築住宅の内覧用にフラワーコーディネートを提案したりしています。
■一般的には、フラワーデザイナーになるために必要な資格や条件はあるのでしょうか?
私たちの年代では、フラワーアレンジメントのレッスンに通って、その延長でお花のお仕事に就いた方が多いのではないでしょうか。資格については、「フラワー装飾技能士」という国家資格をはじめ、いろいろな資格・検定があります。でも、ある程度のことができるという目安になるものであって、必ず持っていなければいけないわけではありません。資格がなくてもやっていらっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。結局、お花屋さんで働き始めても、最初は、荷物を載せる台車さえうまく押せないんですよ(笑)。車でお花を運ぶときも、揺れても崩れないような載せ方のコツがある。そういった、実際にお花を仕上げること以外に覚えなければいけないことがたくさんあるんです。それは、フラワーアレンジメントの教室では教えてくれないので、経験しながら覚えていくしかないわけです。
目標がないまま就職…転機のきっかけは電車から見た看板
■子どもの頃からお花が好きだったのですか?
もともとお花に興味があったわけではないですね。高校時代にバスケットボールをやっていて、スポーツ推薦で短大に進学したのですが、その先の大きな目標を見つけられないまま過ごしていました。印象に残っているのは、短大2年生の夏、アメリカのシアトルに留学をしたときにたまたま訪れた、カナダのビクトリア。街にはお花があふれていて、「ブッチャート・ガーデン」という大きな庭園があるんですが、すごくたくさんのお花が咲いていました。でも、日本に帰ってからも特に「この仕事に就きたい!」というものが見つけられないまま、ご縁があった商社に事務職で就職したんです。
■商社勤務から、なぜフラワーデザイナーの道に進むことになったのでしょう?
就職後は、何を目指すでもなく、伝票の処理や書類作成などの事務処理を淡々と日々こなしていました。1年もたつと、特に変化もなく同じような毎日が続くことに、物足りなさを感じるようになったのです。朝は満員電車で通勤、出社したら決められた通りの手順で事務処理をして、定時になったら会社を出る。「私、このままでいいのかな? やりがいのある仕事をしてみたいな。」と思い始めた頃、通勤電車の中から「フラワーアレンジメント教室」の看板が目に入って。当時、フラワーアレンジメントが流行り始めていたんですね。直感で、「私にもできる!」と思ったのです(笑)。作品をつくることは、やりがいにつながるんじゃないかと考えたのです。なんといっても、変わり映えのしない、同じことを繰り返すだけの日々から脱出したかったですから。趣味にとどまらず仕事にもできると知り、これはやるしかないと教室に通うことに。
実は、同じ頃、他にもいろいろな習い事をしていました。書道や茶道、エレクトーンとか。でもフラワーアレンジメントは、一輪の花が自分の手で新しい作品になることに感動を覚え、「これは仕事として打ち込めるかも」と思ったんですね。そこからは真剣モードです。商社で働きながら週に2~3回、約1年半レッスンに通って、お花屋さんに転職しました。
20代後半に出会ったブライダル装花が運命の仕事に
■転職活動はスムーズにいきましたか?
花屋といっても様々あります。通っていた教室からも何社か紹介していただきましたが、規模の大きな仕事にチャレンジしたいと考えていて、自分でも雑誌などを見て調べていました。あるとき、企業やデパートのディスプレイなど大きな装花を主に扱っている会社に、募集をしているか直接電話で問い合わせをしてみたのです。すると、フラワーデザイナーの募集はあるけれど、事務的な業務も担当してもらう前提だという説明があったのです。私には事務経験がありましたから、これはチャンスだと思い応募。無事に採用となったわけです。事務もできる人、という条件だったことはラッキーでしたね。直感というか、なんとなくここがよさそうというインスピレーションで電話をしたのですが、今考えると運命だったのかもしれないです(笑)
■どうやってお花の経験を積んでいったのですか?
日中は伝票作成やお花の発送手配などを行い、一通り業務を終えた後にお花を扱う仕事をするスタイルでした。最初は、お花の手入れや資材を準備するなど、下働き的なことからスタートしました。とにかく、どんなことでも経験して覚えていこうと取り組んでいるうちに、その姿勢を認めていただけたのか、上司の方たちがお花を活け込む現場に連れて行ってくれるようになりました。商業施設のディスプレイは、営業時間終了後に行うことも多く、諸々の業務を終えてから現場に入ることができるからという理由もあったと思います。私も、この機会を逃すまいと、積極的に現場に出ることを志願しました。12月25日の夜中にデパートのディスプレイをクリスマスからお正月仕様に変えたり、多くの経験を積むことができました。その後、上司が独立して、いろいろな企業でフラワーアレンジメントのレッスンを行うことになって、そこで講師をやらせていただくことになりました。20代半ばの頃です。今思うと、まだ経験も浅いのに(笑)。当時は講師として教えながらも、まだ、自分も著名なフラワーアーティストの方のレッスンを受けたりもしていましたね。
■独立して「アトリエ アンダンテ」をオープンされることになったきっかけは何だったのでしょう?
当時、レストランウエディングがブームだったのですが、知り合ったウエディングプロデュース会社の社長が、私がアレンジしたお花を見て、ブライダルの装花をお願いしたいと声をかけてくださったんですね。そこからブライダルの仕事が増えていきました。その頃に、一緒にやってきた方がお花の仕事から退くことを決意されて。私は、独立してお花の事業を引き継ぐか、それとも違うお花屋さんに転職するか、もしくはお花の仕事を辞めるのか選択をしなくてはなりませんでした。そのときは悩みましたね。迷いを断ち切ってくれたのは、お付き合いをしていたパートナーの一言。私のアレンジする花を「好きだ」と言ってくれたのです。最高の褒め言葉で、背中を押してもらった気がしました。私のつくる花で人を幸せにできる、そういう思いを強くしました。ブライダルの仕事が軌道に乗っていた状態だったこともあり、独立して続けようと決心。それから15年ほど経ちますが、大きく迷ったのはその時くらいですね。
お客さまには見えない裏の作業を効率的に
ブライダルの装花は、お客さまにとっては一生に一度、高い金額をかけて依頼される思い入れの強いもの。でも、直接打ち合わせができるのは1回だけということも少なくありません。短時間の中でも、「お客さまが何を一番大切にされているか」をピンポイントで汲み取って差し上げることが大事ですね。イメージを共有して、具体化して膨らませていく。その過程で、「お任せします」の言葉をいただければ、信用していただけたということですよね。だからこそ、作る過程では「仕方がない」と考えることは絶対にあってはいけないと思っています。例えば、お花は天候に左右されるものなので、花材が思うように手に入らないこともあります。そういうときに「手に入らないのだから、仕方がない」と私が諦めると、そこで終わってしまう。無理だと思っても市場に掛け合って探してもらうとか、より良くなるような提案をして差し上げるとか、できるだけの努力はしなければならない。そこはお客さまに伝わりますから。
■お仕事をされていて、嬉しいことと、逆に大変なことを教えてください。
やっぱりお客さまから「ありがとう」という言葉をいただくことが一番うれしいですよね。市場の方や生産者の方にも、どれだけ素敵に仕上がったかを写真などお見せすると、やはり喜んでくださいます。
でも、圧倒的に大変なことが多いです(笑)。1週間に1日休みが取れればいい方で、連休はまず取れない。仕入れがある日は早朝から市場に行きます。今日も朝4時から仕事しているんですよ(笑)。体力がないとできない仕事ですね。そういう点では、学生時代にバスケットボールをやっていたことが活かされているのかなと思います。
それから、この仕事は、ほかの仕事でも同じだとは思いますが、一人だけではできないんですね。生産者の方や一緒に仕事をするスタッフなど、様々な人の力が集まって、完成するわけです。私は、お花に関わっている人たちとの「チーム」で仕事をしているんだと、常に意識しています。チームワークよく仕事ができれば、個々のパワーが結集して、大変なことがあっても乗り越えることができると実感しています。そういった経験ができるのは、仕事の面白みでもありますね。
■一見華やかですが、本当に大変なお仕事なんですね。忙しい毎日を乗り越えるために、心がけていることはありますか?
私たちにとっては、お花を素敵に仕上げるのは当たり前のことなんですね。それでお金をいただいているわけですから。その裏側をいかに効率よくやるかが重要です。それは手を抜くということじゃなくて。
例えば、お花を活けるのに器を使ったら、面倒でも、その場できれいに洗ってから片づけます。そのとき「とりあえず、そのあたりに置いておこう」で済ませてしまうと、結局次に使う前に時間をかけて洗わなければならず二度手間になりますから。一回で完結できる方法を選ぶのです。
些細なことですが、お花を活ける以外の一つひとつの作業をできだけ効率よくやって、体力やコストをできるだけ抑える。そうすることで、お客さまとのコミュニケーションやお花に力を注げるんです。どんなお仕事でも、それはとっても大事なことだと思うんですよ。
■田口さんのこれからの目標をお聞かせください。
仕事って、スタートは人から習って、そのうちに仕事ができるようになると、今度は自分が人に教えるようになる。でもさらにそこを超えると、また人に教わりたくなるんですよ。新しい知識を得たくなる。私も今になって華道をやってみたいなとか、海外に行って勉強したいという新たな欲が出てきました。
実は一昨年、スウェーデンを訪れたとき、たまたまノーベル賞の授与式のタイミングで、受賞者のパーティで使用するお花の準備をしている現場に遭遇したんです。そのとき、「この仕事をやりたい!」って思ったんですね。チャンスがあれば、海外でそういう大きな仕事がしてみたい。でもそれにはコミュニケーションがとれないとできない。だから今、英会話に通っています。欲の塊なんです、私(笑)。まだまだ新しいことにチャレンジできる、もうひと花咲かせたいなって思いますね。
フラワーデザイナー、「アトリエ アンダンテ」主宰。短大卒業後、商社勤務を経て、フラワー業界へ。2001年、東京港区に「アトリエ アンダンテ」をオープン。ブライダルの装花をはじめ、様々なシーンに応じたフラワーデザインを手掛ける。著書に『オリジナル花ウェディング』(アシェット婦人画報社)がある。アトリエ アンダンテ:http://www.a-andante.com/