スペシャルインタビュー 俳優 松山ケンイチさん

2016年11月17日
役に対して変幻自在なイメージのある俳優、松山ケンイチさん。今回、映画『聖の青春』では伝説の棋士、村山聖を演じ、一見、松山さんとは分からないほどの姿でスクリーンに登場しています。「どうしても村山聖をやりたかった」という彼の役にかける熱意や仕事への思いを聞いてきました。

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――映画『聖の青春』で松山さんは、体重を増やし、驚くほどの肉体変化をしていますが、そこまでしても自らがやりたいと手をあげた作品だったそうですね。

「僕自身、将棋が好きですし、将棋を題材にした作品があまりないことに惹かれました。でも一番の理由は村山さんが人間としてとてもキレイで僕にとって魅力だったことです」

――村山さんは天才棋士と呼ばれる反面、大酒呑みでギャンブル好きという破天荒な生き方をしていたそうですが、松山さんが“キレイ”と思われた理由は?

「村山さんは幼い頃からネフローゼという腎臓の難病を抱えて入退院を繰り返しており、僕が過ごしてきたような一般的な青春は送ってきていません。大人になっても1年のうち350日は寝ていたぐらい体調が悪かったにも関わらず、将棋という勝負事の世界で生きていた。酒を飲みすぎてぶっ倒れたり、ケンカしたりと命を縮めるような生き方をしていましたが、すべてにおいて純粋で汚れがない人なんです」

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――汚れがないとは?

「僕が思う“汚れがない”の意味は、私利私欲で生きていないということ。一回の対局に自分の人生をかけて、自らの欲求や過去や現在の状況など、そんなもの何ひとつ考えずにすべてをそぎ落として将棋に向かっている。その姿に、村山さんの純粋さを強く感じ、キレイだと思いました。まるで、自分の汚れが洗い流されるような気がして」

――人間、どうしても私利私欲で生きている部分がありますからね。

「やっぱり自分の現状とか将来のこととかいろいろ考えるじゃないですか。でも、村山さんにはそれが一切ない。村山さんの生き方を見ていると、安定して長生きすることだけが人生じゃないというか、お金や社会での立ち位置なんかよりも“将棋が好き”という思いで生きるということはもっと崇高なことなんじゃないかと思うんです。僕も将棋が好きなので、対局シーンを演じているときは、好きに勝るものはないなと思っていましたね。好きな気持ちがあればどこまででもいけるなと」

――松山さんにとって俳優の仕事も“好きに勝るものはない”と思っていますか?

「好きでやっていることではありますが、俳優の仕事は生活のためだと思っています。僕はあまり仕事を神聖化したくないので。でも、好きなことができる職業ではありますね。まぁ、嫌いなこともいっぱいありますけど、一部がとても好きだから続いているのだと思います」

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――嫌いなこととはどんなことですか?

「それを言ったらいろいろやりづらくなるから秘密です(笑)」

――確かに(笑)。劇中で東出昌大さん演じる羽生善治が、村山棋士に「あなたに負けたことが死にたいくらい悔しい」という印象的なセリフがありますが、松山さんが仕事において悔しいと感じることはありますか?

「自分を過信して思い切り失敗するときですね。自信を持ちすぎて、隙があることに気が付けず失敗をしてしまったときは本当に悔しい。だから、常に準備を怠ってはいけないと肝に銘じています。ただ、失敗をすることは悪いコトではありません。失敗があってこそ、悔しい思いをしてこそ、自分にとって良い教訓になりますから。

そして、監督の要求に対して応えられないときも悔しい。だから、どんなに厳しい要求がきても折れたくない気持ちは強いです。もちろん、できないこともありますけど、自分からさじを投げることは決してしません」

――松山さんが仕事をするうえで一番大切にしていることを教えてください。

「俳優の仕事はすごく幅が広い。自分がどんな作品に出会うかもわからないし、観客の方がどこで感動するかも分からない。この仕事に正解はなく、すごく曖昧な部分が多い職業だと思うんですよ。そんな曖昧な中で仕事を続けるには精神面でも肉体面でも健康に気を付けることが一番重要だと考えています。極端な話、健康であればセリフを覚えていなくても、現場で怒られて頑張って覚えればいいわけですから。でも、心身ともに健康でなければセリフを覚えることはできません」

――基本すぎて忘れがちですけど、健康に気をつけることは仕事をするうえで一番大切なことかもしれませんね。

「どんな仕事も健康でないとできませんよね。ですから、体調管理は常に心がけています」

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――最後に映画のタイトルとかけて、松山さんの青春時代はいつ頃でしたか?

「今も青春時代だと思っていますよ。人は年をとる度に“これがかっこいい”とか“これがおもしろい”とか自分の物差しが変わってくるじゃないですか。その物差しが変わり続けている間は青春だと思うんですよね。落ち着いてしまったら青春じゃなくなる気がして。常に新しい感覚を探して見つけようとしている限り、青春は続くと思っています」

●Profile
まつやまけんいち/1985年生まれ、青森県出身。2002年ドラマ『ごくせん』で俳優デビュー。2005年映画『男たちの大和/YAMATO』で注目を集め、2006年『デスノート』『デスノート the Last name』で話題に。代表作に『デトロイト・メタル・シティ』『マイ・バック・ページ』、近年では『怒り』などに出演。
●映画紹介
『聖の青春』
<11月19日(土)全国ロードショー>告知
“西の怪童”と呼ばれる新世代のプロ棋士、村山聖(松山ケンイチ)。幼少時より「ネフローゼ」という腎臓の難病を患っているが、病気と闘いながら将棋界最高峰のタイトル「名人」を目指している。しかし、聖の前には同世代の天才棋士、羽生善治(東出昌大)が立ちはだかっていた。将棋にすべてを懸け29歳の若さで亡くなった実在の棋士、村山聖の生涯を描く。

インタビュー・文/中屋麻依子 撮影/桑原克典(TFK)