スペシャルインタビュー 俳優 加藤和樹さん

2017年03月24日
俳優、ミュージシャンとして活躍する加藤和樹さん。一度は芸能界を辞めた彼が再び、この世界に戻ってきた理由や、オーディションへの心構え、そして仕事への思いなどを、クールな表情からは考えられないほど気さくにいろいろと話していただきました。

――加藤さんが芸能界に入ったのは「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」の応募がきっかけだったそうですが、もともとこの世界に興味があったのですか?

「いえ、あまりなかったんですよ。だから僕もよくある“姉が応募した”パターンで。でも、そんな軽い気持ちで入ったから、自分の意識の低さに打ちのめされてスカウトされた事務所を辞めてしまったんです。それから1年半ぐらいアルバイトをしていました」

――1度辞めた世界に再び戻ってきた理由は?

「19歳の頃に『ザ・ベイビースターズ』の曲を聴いて、自分も音楽がやりたいと思いギターを始めたんです。音楽を始めたことで、自分で何かを表現したい気持ちが強くなってきて、表現できる場所へ戻ってきた感じですね」

――ミュージシャンとしてデビューするだけでなく、俳優、声優としても活躍されていますが、自分がやりたいと思ったことを形にするコツはなんでしょうか?

「ただ、やるだけなら誰でもできると思うんです。でも、形にするとなると自分が心から楽しめて、その理由を把握したうえで自分の中で消化できるかが重要。“消化する”とはやりたいことに対して目標を決めて、その課題をクリアしていくということ。次につながっていくような方法を考えて自分で乗り越えていくと形になっていく気がします」

――ただ、漠然とやるのではなくて目標を決めてクリアすることで、自信がつきますよね。

「そうなんですよ。でも、20代前半の頃は、クリアしようと頑張っても次につながらなくてジレンマを感じたことも多々ありました」

――そこでやめてしまいたくなりませんでしたか?

「10代のときはそれでやめてしまいましたけど、20代ではやめることは考えなかったですね。頑張りがすぐ次につながらなくても、頑張ったことはムダじゃないですから、その思いをバネに再び挑戦しようと考えられるようになったので」

――実際にその考えが実を結んで、今では舞台俳優としての地位を確立したように思えます。

「やっぱり舞台が好きなんですよ。さっき言ったように心から楽しめて次への課題に取り組めるものなので。舞台はお客さまと作り上げていく空気感があるから、同じことをやっていても毎回違う。そのライブ感が自分にとって「生」を実感できる瞬間なんです。なんて言えるようになったのも、ここ数年の話。最初は舞台もミュージカルも恥ずかしくて苦手でした(笑)」

――苦手なものを好きになるのって、何かきっかけがないと変化しないですよね。

「僕は人がきっかけですね。舞台に関しては演出家の白井晃さんと出会ったことが大きかった。それまで演じるときに、与えられた役に対して自分自身を入れることは余計だと考えていて、役になりきることを重視していたんですけど、白井さんはそれを根底からひっくり返してくれました。役を演じるのは僕自身なので、僕の感情や表現を役に投影することが大切だと教えてくれたんです。それから、演じることがものすごく楽しくなってきたんですよ。

そしてミュージカルは山崎育三郎くんに出会ったこと。ミュージカルで彼と共演したときに山崎くんの歌や表現方法に感銘を受けて、この人ともう一度舞台に立ちたいと思ったんです。自分と同世代なのに、こんな表現ができるのかと刺激を受けましたね」

――人との出会いが加藤さんの意識を変えていったんですね。

「よく聞く言葉ではありますが、出会いって本当に大事だと思います。自分の人生を変えてしまうこともあるので」

――4月に上演される舞台『ハムレット』でも豪華キャストと共演することで新たな出会いがありそうですね。

「この出会いは自分にとって最高の刺激になるだろうと思っています。演出家のジョン・ケアードさんとオーディションでお会いしたときに、いままでのハムレットとは違う角度でアプローチしようとしているのが分かったので、これまでにないシェイクスピア作品になるだろうと感じました。ただ、オーディションはとても緊張しましたけどね。ジョンさんから「好きなシェイクスピア作品のセリフを言ってみて」とオーダーがあったり「身体はどれぐらい動くの?好きなように動いてみて」と言われたり。限られた時間の中で自分を最大限に表現することは何度やっても毎回緊張するけれど、楽しみでもありますね」

――オーディションは私たちにとっての面接みたいなものですね。でも、加藤さんのように“面接”を楽しむのはなかなか難しいですが。

「オーディションはまさに面接と同じですよ。僕もオーディションに対して、不安と緊張しかなくて前日から憂鬱になるぐらい(笑)。でも、ある人から「受かれば仕事仲間になる人たちなんだから、決して敵ではないんだよ。仲間になる人たちの前でならリラックスして自分を表現できるでしょ」と言われて納得しました。オーディションというと、審査する人たちに負けないようにしないと、と敵陣に乗り込む気持ちでいましたけど、“仲間になる”という気持ちで向かうと、楽しめるようになってきたんですよね。

だから読者の方の中でも面接で緊張したり、自分を出せなかったりと苦手な方もいると思いますけど、面接官は決して敵ではないので(笑)。相手を仲間だと思う気持ちで向かえば、きっといい方向に進むと思います」

●Profile
かとうかずき/1984年生まれ、愛知県出身。2005年ミュージカル『テニスの王子様』で注目され、翌年CDデビュー。ドラマ『ホタルノヒカリ』、映画『真田十勇士』などに出演するほか、『ロミオ&ジュリエット』『レディ・べス』など舞台でも存在感を放つ。2016年は『1789~バスティーユの恋人たち』で帝国劇場初主演を務めた。
●映画紹介
『ハムレット』
<2017年4月9日(日)~4月28日(金)東京芸術劇場 プレイハウス>ハムレット

数々のシェイクスピア劇を手掛けてきた名演出家のジョン・ケアードが斬新な解釈で取り組む『ハムレット』。ハムレットと決闘を演じるレアティーズを演じる加藤和樹ほか、ハムレット役に内野聖陽、オフィーリアに貫地谷しほり、北村有起哉、浅野ゆう子、國村隼人など豪華俳優が出演。

インタビュー・文/中屋麻依子 撮影/八木虎造 ヘアメイク/宮内宏明(M’s factory) スタイリスト/立山功