スペシャルインタビュー 俳優 中村倫也さん
柔和な笑顔と、ふと隣にいるような親近感が魅力の中村倫也さん。実は役者デビュー10年のベテランなのです。10年の間、役者を続けてこられた理由、つらくてやめたくなったときの仕事への向き合い方などを教えてもらいました。
――中村さんは昨年で役者デビューして10年となりますが、その間に大きな迷いを抱えたことはありますか?
「ありますあります!何度もありますよ(笑)。特に24、25歳ぐらいのときは一番迷っていました。5年ぐらい役者をやってきたけど、結局自分は何がしたくて、この先どうなりたくて仕事をしているのか分からなくなって。5年分の身に付いた経験もあるけれど、それが邪魔になったり自分のサビになっているなと感じたんです」
――経験がマイナスになるということですか?
「売れる・売れないとか、仕事がある・ないとか、いい役ができる・できないとかがとても分かりやすい仕事なので、ある程度経験がついてくると周りと比べて、自分が思い描いている姿に追いついていないと思うわけです。経験がないときはそんなこと考えず、自分が持っている力だけで勝負していたのに。そのもどかしさから、改めて自分がどうなりたいかを見つめ直したというか」
――見つめ直して、何か答えは出ましたか?
「結局、仕事や人生を豊かにするには自分で考えて動くしかないなと。誰も自分の代わりにはなれないので。はそう考えて経験とか外側についたものではなく、内側にあるもので勝負をしようと思うようになりました。内側とは僕の場合「何にワクワクするか」ということを見つめ直したんです」
――ワクワクする気持ちって、年齢を重ねると忘れがちですよね。
「そうなんですよね。それで“初心にかえる”じゃないですけど、改めて自分が何をしているときに一番ワクワクするのかをもう1度探し直しました。その答えは楽しい仲間と楽しいことをしてメシを食っていければ一番いいなと」
――それが役者の仕事だったんですね。
「つらいし大変だし、年に1回はほとほと自分の才能のなさに嫌気がさしてやめたいと思うんですけど、やっぱり楽しいんですよね。正直、役者はエンターテイメントですから世の中で必ずしも必要とされる職業ではないかもしれません。だからこそ、この世界で自分を必要としてくれる人がいて、その職業でご飯を食べられるのって幸せだと思うんです」
――つらくて大変で嫌気がさしたときに、自分でテンションをあげる方法ってありますか?
「何事においても答えはいろいろあると考えていて、ダメと思っても別の方向から見たら成功への何かヒントがあったり。だから嫌なことも糧にすればいいと思っているんです。たとえば失敗して落ち込んでも、その失敗をどう自分に還元するかを考えることでテンションはあがりますよ。失敗が成功の過程になるわけですから。あとはやっぱり、落ち込んでいる時間よりも笑っている時間が長いほうがいいですしね。そのあたりの切り替えは早いです。鈍感だからすぐ忘れるし(笑)」
――多少鈍感ではないとポジティブにはなれない気がします。
「そうそう。でも大切なのは鈍感だという自覚を持つことですよ。僕が忘れるのが早いのは必要以上に何かに捉われるのが一番良くないと思っているからです。たとえば、後悔や失敗に捉われていると抜け出すのに時間がかかるじゃないですか。ならば、鈍感になって忘れると決めれば、次に早く進める」
――なるほど。賢さゆえの鈍感力ですね。
「賢いってほどではないですが、ポジティブな方ではあると思います」
――中村さんのように「楽しいことをしてメシを食える」ようになるにはまず何をすればいいでしょうか。
「まずは自分が楽しいと思えることを探ることだと思います。自分が何でワクワクしているかを探しなさいとニーチェも言っていたような気がするし(笑)。とはいえ、楽しいことが見つかったとしても、やりたくないことは必ず出てくるので、それも“好きなことをやるための経験にできる”と思えばやりたくないことじゃなくなります。仕事を楽しくするには“気の持ちよう”が大事だと思いますね」
●Profile
なかむらともや/1986年生まれ、東京都出身。2005年、映画『七人の弔い』でデビュー。2014年にはNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』に出演するほか『アオイホノオ』『ファーストクラス』『下町ロケット』など話題作に登場。現在KTV/CX系「お義父さんと呼ばせて」(火曜夜10時)が放送中の他、WOWOW「双葉荘の友人」が3月19日(土)夜9時放送、映画「日本で一番悪い奴ら」(6月25日公開)、劇団☆新感線『Vamp Bamboo burn~ヴァン・バン・バーン~』(8月~公演)に出演。
『星ガ丘ワンダーランド』
3月5日(土)全国ロードショー星ガ丘駅の駅員として働く温人(中村倫也)のもとに20年前に姿を消した母親の訃報が届く。駅近くにある星ガ丘ワンダーランドという遊園地で自殺したと聞いた温人は疑問が湧き調べはじめるが、そこで義理の兄弟である七海(佐々木希)と雄哉(菅田将暉)に出会う。そして真相を探るため、ずっと疎遠だった兄(新井浩文)を訪ねるが。母の死をきっかけに、それぞれの家族がつながり過去が明らかになっていく至極のミステリー。
インタビュー・文/中屋麻依子 撮影/八木虎造