「日本の伝統と美意識が息づくきらびやかな世界で、自分を磨いてもっともっと美しく」花街で働く舞妓・小はるさん
憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
舞妓 小はるさん
あでやかな振袖にだらりの帯。愛らしい舞妓さんの姿に憧れて飛び込んだ古都の花街。15歳でこの世界に入って以来、日々、舞や唄、三味線など芸事のお稽古に励む小はるさん。京都の春の風物詩、宮川町の「京おどり」では“センター”で踊る19歳の小はるさんに、知られざる舞妓さんの世界についてお聞きしました。
中学三年生の夏休み、見習い体験を経て舞妓修行に
■なぜ舞妓さんになろうと思ったのですか?
母が美容師で、お客さんの着付けをしたり、母自身も着物をよく着ていたので、子どもの頃から着物には親しみがあったんどす。中学校の修学旅行で京都を訪れた時、舞妓さんを直接目にして、ああ、きれいやなあと。その美しい姿に憧れるようになったんどす。
旅行から戻ってからも、いろいろ舞妓さんのことを調べてみると、お稽古ごともそうやし、いろんな京都のええもんに触れられるのも、魅力的やなあと。
舞妓になるには、中学卒業と同時に修行に入らんといかんのどす。京都以外の地方出身でも舞妓さんになれる、ということも知って「それやったら、チャレンジしてみたいなぁ」という気持ちになったんどす。
■ご両親の反応はどうでしたか?
母は心配もあって反対しましたけど、父はしばらく考えて、「自分が本当にしたいことなのだったらやってみれば」と言うてくれはりまして。それからインターネットでいろいろ調べてみたんどす。
見習い体験をさせてくれはるところは幾つかあったんどすが、「しげ森」というこちらのお茶屋さんが一番、自分に合いそうでええなあと。お茶屋さんいうと、門戸が狭い印象がありますけど、こちらはいろんな取材も受けてはったり、よその人でも受け入れてくれるんやないかなと、感じたんどす。
思い切って連絡して、中学三年生の夏休みに、見習い体験をすることになったんどす。住み込みで一週間、置屋の日常やら、お稽古やらを見学させてもらったりしたのが、「しげ森」とのご縁の始まりなんどす。
■見習いを経て、どういう風に採用が決まるのですか?
一週間の間に、お茶屋のお母さんが、適性があるかどうかを見てくれはって、ご連絡をくれはるんどす。住み込みになりますさかい、他の人と一緒に暮らさなあきまへんし、特殊な世界どすさかいに、お母さん、おねえさん方から教わらなあかんことがたくさんあります。お店の気風に合う、合わへん、ということも大切かもしれまへん。
うちの場合は、見習いの後で正式に修行に入る前、中学三年の年末にも、「仕込みさん」としてしばらく京都で暮らしてみました。
その後、地元に帰ったときに、友達がみんな、「おねえさんたちにいじめられたりしなかった?」と心配してくれはって(笑)。ちょうどその頃、テレビのドキュメンタリー番組で、なかなか厳しい場面を映した番組を、みんな見てはったらしくて。やっぱり京都を離れると、京都の花街や舞妓さんのことなんか、リアルには知らへんのどすなぁ。
「どこから見てもきれい」な所作は修行のたまもの
■実際にお座敷に出るまでは、どのぐらいかかるのですか?
一番初めの「仕込みさん」と呼ばれる修行期間には、舞妓デビューを目指して、舞や唄などのお稽古事に励みます。10か月くらい経った頃に、舞の試験のようなものがあるんどす。それに通ったら、晴れて舞妓になれるんどす。
仕込みさんの間に7曲の舞を習うんどすけど、そのうちの2曲を審査していただきます。えらい緊張しましたけど、お座敷に出たら、もっと大変どすなぁ(笑)。
■楚々とした「舞妓さんらしさ」は、すぐに身に付くものですか?
ふすまの開け方から座り方まで、立ち居振る舞いを一から厳しく仕込まれます。着物を自分で着るというのもそうどすけど、洋服を着て、今風の家で暮らしてきた、それまでの生活とは何かにつけて勝手が違うんどす。
初めのうちは何か物を取ろうとして、着物の袖をひっかけたりとか、いろいろと大変どした。今どきは、家でそんなに厳しく叱られるようなことはめったにありまへんさかいに、そのあたりのことでつまずいたり、くじけたりしてしまう子もいてはりますね。
ちょっとした所作も、どこから見てもきれいに見えるように意識せなあきまへん。自分の癖などを直していかんとあかんのどすけど、無意識にしてきた日常的な動きなどは、そない簡単に直せるものやおへん(ありません)。
せやけど、そういうことを乗り越えていかはったおねえさん方を見ていると、まるで別人のように、どんどんきれいになっていかはります。日頃からそういう姿を見てますので、「自分もそんなふうになりたいなぁ」と、辛い中でも励みになるんどす。
■晴れて舞妓さんになると、1日はどんな感じですか?
朝のお稽古は10時から始まりますので、それに間に合うようにお仕度をせなあきまへん。お稽古のときの着物は自分で着ますから、その時間も見ておかないとあかんのどす。慣れへん頃は、髪を整えるんも合わせて、1時間くらいかかってました。
うちとこのお茶屋は、とくに芸事のお稽古に熱心な店で、舞のほかにも、三味線、お琴、長唄・小唄、鳴り物、太鼓、お茶といろいろな芸事を習わせてもうてます。毎日2つか3つ、お稽古をかけもちして、帰ってくるのがだいたい午後の14時か15時。
それから家でごはんをよばれて、衣装を着けて、お座敷へ出ます。舞妓には門限がありますさかい、夜の24時までには帰ってきますえ。
お休みの日も、どうしても外せない宴会があったりするときは、それが優先されたりもしますなぁ。お休みの日は、髪の結い直しのタイミングやったらどこへでも行けますけど、日本髪のままでは、洋服で出かけるわけにもいきまへん。
将来は、芸事以外の京文化にも携わっていきたい
■同級生とは全く違う道を選んだことは、よかったですか?
はい、そうどすな。今「しげ森」では、舞妓が5人、芸妓が3人で、芸妓さん2人以外の6人で共同生活をしてます。
15歳でなんも知らん状態でこの世界に入って以来、お茶屋のお母さんやおねえさんたちにいろいろなことを教わってきました。
舞妓になったことで、礼儀作法とか、周りへの気の使い方とか、ためになることをたくさん教えていただきました。普通の大学生ではまず見ることのできない世界を見て、学校では教わらへんことを教わって、ほんまに恵まれてるな、貴重な経験をさせてもろてるなと思います。
■これから先の目標や夢はありますか?
舞はもちろんのこと、唄も楽器も好きなので、もっともっと精進して、地方(じかた、舞台やお座敷で三味線などの舞の伴奏をする人)もできる芸妓になるのが目標どす。
もうすぐ舞妓は卒業して芸妓になるんどすけど、この世界は、そこでようやく一人前。育ててもろうた恩返しとして、後輩に教えられるようにならんと、と思います。
それから、これはずっと先の夢ですけれど、せっかく京の伝統に直に触れる世界におりますし、着物をデザインしたり、芸事以外にも携わっていけたらええなぁ、と思うてます。
小はる
埼玉県出身。中学卒業後、京都・宮川町のお茶屋「しげ森」にて16歳で舞妓に。4月1日(土)~16日(日)に宮川町歌舞練場で開催される「第68回京おどり」に、立方の一人として出演する。
(インタビュー/今田壮 構成/風来堂 撮影/清水信吾)