77歳まで専業主婦だった86歳の不動産会社社長・和田京子さん「自立して生きている86歳の今がピーク!」
かっこいい先輩に学ぶ!長く働き続ける理由
不動産会社社長 和田京子さん
職歴無しの専業主婦から、なんと79歳で宅建士(宅地建物取引士)の資格を取得、80歳で和田京子不動産を起業し、85歳で年商5億を達成したスーパーおばあちゃんとして知られる和田京子さん。なぜ、80歳を超えてなお挑戦し続けられるのか? その原動力に迫ります。
79歳で訪れた運命の転機
■何故、80歳で不動産業を始められたのでしょうか?
もともと起業を考えていたわけではないのです。そもそも私が宅建の勉強を始めたのは、孫の一言がきっかけでした。当時私は、10年におよぶ介護生活の末に夫を看取ったあと、燃え尽き症候群のようになり、何もする気が起きなくて、寝て起きるだけの生活を送っていたんです。
そんなあるとき、「このままではだめになる」と心配した孫の昌俊が「おばあちゃん、勉強しようよ」と声をかけてくれました。私が子どもの頃は、戦争が始まったために、学校に通うこと、勉強することを途中で諦めなければならなかったので、孫の発案で、「もう一度、学校に通って学んでみたい」という気持ちが湧いてきたんです。
宅建を選んだのは、住宅に関して失敗の歴史が長かったからです(笑)。もともと家の間取りを見たり描いたりするのが好きだったこともありますが、これまでの人生で、夫の転勤に伴って購入した家のほとんどが欠陥住宅で、引っ越すたびに苦労をしてきました。それで、この機会に家の売買のことを学び直したいと思ったのです。
そしていざ宅建を取得してみると、せっかく得た知識を生かしてみたいと思うようになりました。履歴書を書いてはみたものの、実務経験ゼロで歳ばかりとっている社会人1年生を雇ってくれる会社なんて、どこにもないことに気が付いたんです(笑)。ならば自分で会社を起こせばいいと、和田京子不動産を作りました。
■社会人経験ゼロから起業。どんな苦労がありましたか?
専業主婦時代の55年間は、誰ともしゃべらずに一日が過ぎてしまうこともあったので、最初は電話に出ることも怖くて。以前は、フルネームで呼ばれることも名乗ることもありませんでしたから、会社を「和田京子不動産」と名付けたあとで「失敗した」と思いましたね。「和田京子不動産の和田京子です」だなんて恥ずかしくて……(笑)。
私の会社では、買主様からの仲介手数料は無料(※)で取引させていただいていますが、そのことでずいぶん嫌がらせも受けてきましたね。
手数料を無料にしたのは、社会への恩返しのつもりだったんです。戦争中、いろんな人に助けてもらって生きてこられたのに、なんの恩返しもしないで土に還っちゃうのも申し訳ないと思って。でもそれは、同業者の足を引っ張ることだったんです。
本来は同じ土俵の上で戦うべきで、先輩たちには申し訳ないという気持ちはあります。だけど、ほとんどのお客様は、コツコツ貯めた貯金を頭金にして、ローンを組んで家を購入されるので、買う側の立場であれば、手数料は安い方がいいに決まっています。あと100万円あればもうワンランク上の家に手が届くかもしれない。そう思うと、和田京子不動産のような会社が必要だという思いがより強くなり、ここまでやってこられました。
でも、専業主婦の経験が生きることもありますよ。24時間営業・年中無休というのも主婦感覚だから思いついたことです。主婦というのは、自分の住んでいるところが職場でしょう。だから休みというものがないんです。
それから、主婦のお客様や、小さい子連れのお客様とツーカーになれるところですね。ごはんを作ったのに夫が帰ってこないとか(笑)。「和田京子さんのところで家を買いたい!」とわざわざ来てくださるお客様は、そういう私の平凡な主婦の感覚を信頼してくださっているのかもしれません。
24時間年中無休の「いまひとたびの青春」
■京子さんの普段の業務内容や、一日のスケジュールについて教えてください。
お問い合わせから決済取引までのお客様とのやりとりは、すべて私の担当です。車での移動が必要な時は、運転は家族が担当します。53歳の時に家族の反対を押し切って普通免許を取得したのですが、2016年の秋には運転をやめてしまったので。
スケジュールはお客様次第なので、一日一日違います。日中に売買契約や決済などがあれば外に出ちゃいますから、その分、メール処理をこなすのが夜中になってしまったり、翌日の午前中にずれ込むこともあります。和田京子不動産は24時間営業ですので、22時とか、時には24時過ぎにいらっしゃる人もいますからね。
私ね、布団敷かないんです。布団を敷くとつい寝ちゃいたくなるでしょう。そうすると仕事が溜まってしまうので、捨てちゃった。いつも、気が付いたらフッと寝ちゃってるんです。電車の中で立ったまま寝てしまうこともあって、(会社の最寄駅の)小岩で降りられたことはほとんどありませんよ、寝過ごしてしまうから(笑)。そんなふうにして細切れで寝ているのです。自分で意識はしていないのですが、一日の睡眠時間は合計で1~2時間でしょうか。
■ハードな働き方!と思ってしまうのですが、体力的につらくはありませんか? また、その原動力はなんでしょう?
大丈夫じゃないですよ! 「寝るほど楽はなかりけり」。もう少し寝られればシワも減るかもしれないし……(笑)。
原動力は「やらねばならぬ」という気持ちと、「やりたい」という気持ちが半々ですね。やりたいという気持ちのほうが強いかな。「やらねばならぬ」気持ちというのは、お客様の顔を見ると、明日までにメールしておかないと悪いかな、というような自分のノルマ感です。
でも、そもそもこの仕事が嫌いだったら、風邪引いたことにしようとか、言い訳を考えるでしょうね。やっぱり、好きなんですね。だからやっちゃう(笑)。お客様も好きだし、不動産の業務関係も、全部好きです。とりわけ、売主様と買主様双方が合意して売買契約を締結できた瞬間は、本当に嬉しいですね。
今は、働いて報酬をいただくことで、専業主婦生活では味わえなかった“自立して生きている自分”を実感しています。若い頃できなかったことを、今やりなおしている感じでしょうか。「いまひとたびの青春」なんです。
■パソコンもiPhoneも使いこなしていますが、新しいものに抵抗や苦労はなかったのですか?
宅建の勉強は覚えることが山のようにありましたが、一つ新しい知識を得るたびに、学ぶ苦労よりも、「もっと早く知っていれば……」と無知だった自分への後悔が先に立ち、もっと新しいことを知りたいと思うんです。失敗なくやってきた方には、そんな意欲はないでしょうね。
もちろん、新しいことを覚えるとき、みなさんの呑み込みは新幹線でも、私は各駅停車ですから、どうしても遅くなってしまいます。でもやっぱり、新しいものや知識は魅力的ですよね。リアルタイムで生きているなら、その時代の息をしたい。自分だけおいてけぼりは嫌ですから。今はスティーブ・ジョブズさまさまですよ! この人がいなかったら私、とてもじゃないけど不動産の業務なんてできませんでしたね。メールがなかったら、手紙を書いて切手を貼っていちいちポストまで行って……。その手間を思えば、iPhoneやパソコンを習うほうがどんなに楽か。
人生のピーク=若さではない!
■生き方が多様化した中で、どう自分のキャリアを築いていくべきか、U29女子たちにアドバイスをください。
個人的な考えですけれども、明日からでも社会人になれる専業主婦でいること、そして、明日からでも立派な専業主婦になれる社会人でいられること。どちらになったとしても、すぐに動ける人間でいることが大切だと思います。
「仕事に行き詰まったから結婚でもしちゃおう」という人は、いい男が選ばないと思います。最近の男は利口ですから。かわいくて、主婦業もそこそこできて、それはそれでいいかもしれないけれど、それだけだと年をとってから惨めな思いをするかもしれませんよ。社会の心得があり、そこそこお料理もできて稼ぎもある。そういう人は頼りにもなるし、一緒に伸びていける人のほうが魅力的だと思います。
でも、ピンときた人がいたら、仕事が大事だと思ってウジウジしていないで、迷わずGOですよ! そのあとのことは自分で開拓していけばいいと思います。あとで「あの人と結婚しておけばよかったのに」とか、「もし~だったら……」と後悔することが一番もったいないですからね。
今の若い女性は、個性をもち、自分で考え、よく学び、自分を磨くことを心がけていらっしゃる方が多いです。ですから自信をもって生きてください。人にはそれぞれピークがあって、それはイコール年齢(若さ)じゃないと思うの。そういう意味じゃ、私、86歳の今がピーク!(笑) 私を思えば、みなさんのピークは、まだ遥か彼方でしょう。だから、ゆとりをもって、お励みあそばしませ。
和田京子
和田京子不動産株式会社代表取締役社長。1930年愛知県岡崎市生まれ。77歳で夫と死別するまで専業主婦。79歳で宅地建物取引士の資格を女性最高齢で取得し、80歳で起業。24時間営業・年中無休・物件購入者からの手数料無料という三本柱を掲げて、不動産業界の常識を覆した。
(インタビュー/鈴木さや香 構成/風来堂 撮影/清水信吾)
※不動産売買の際は、売主・買主からそれぞれ売買価格の3%+6万円+消費税を上限に、手数料をもらえる決まりになっているが、和田京子不動産では買主からは手数料を取らない。ただし、買主と直接やりとりする物件以外(専任媒介物件・専属専任媒介物件など)は、一律50万円の手数料を設定している。
※iPhoneは、Apple Inc.の商標です。