社会全体の防災意識を高める仕組みを作りたい/防災ガール 田中美咲さん
東日本大震災の復興支援を通して、社会全体の防災意識を高める仕組みが必要だと感じた/任意団体「防災ガール」 田中美咲さん【私の仕事Lifeの転機】
いざというときに「動ける」のは若者。だから“ダサい”防災のイメージを変えたかった
東日本大震災で大きな被害を目の当たりにしても、まだまだ防災意識が低い人たちが多いことに愕然として、田中さんが立ち上げたコミュニティが「防災ガール」だ。「とくに若い世代は防災を『ダサい』『面倒』と敬遠しがち。でも災害があったときに子どもやお年寄りを助けることができるのは元気な若者たちなんです。若者の防災意識を高めるために、『防災ガール』という若者に関心を持ってもらえそうなネーミングのサイトを作り、活動を始めました。サイトではわかりづらい行政からの情報をインフォグラフィックや写真を使って、理解しやすいよう工夫。世界中のおしゃれな防災グッズの紹介も行っています」
実は田中さんが「防災ガール」を立ち上げたのは起業前。「被災された地域に役立つ仕事がしたくて、助けあいジャパンに転職し、福島に引っ越して働いていました。やりがいはありましたが、組織にいると自分のやっていることが被災された方々に役立っているのかがわかりづらく、もっと直接的にアプローチをしたいという気持ちが強くなって。防災担当として全国の防災対策業務を行っていても、自分を含め周りで防災対策をしている人は少ないという現実も。そこで仕事とは別に、ボランティアで『防災ガール』を始めました」
すると田中さんの取り組みはメディアでも注目され、取材を受けることも増えた。「独立するなら注目されている今がいいタイミングかもと起業を決意。会社員として仕事を続けながら、起業の準備をし、『防災ガール』を立ち上げてから9か月後にフリーランスになりました」
女子向けのオシャレ防災グッズ“SABOI”を作って
起業してからは、高知県のトータルプロデュースを行う会社「トレードマーク高知」と共同でオシャレな防災グッズ「SABOI」の開発にも挑戦。「防災ガールの取り組みに興味を持ってくださった高知の企業から連絡があって、商品の共同開発のお話をいただきました。高知県は南海トラフ地震が起きたときに大きな被害が予想されるエリアなので、防災ガールとしても、高知を中心として全国の方の防災意識を高めることにも役立つならやってみようと思ったんです。そして防災ガールの20~30代の女性たちが案を出して、女性に必要なものをセレクトした防災ポーチと、スムーズに避難するための携帯できるポケッタブルシューズ、緊急時に使える知恵をイラストでのせた手ぬぐいや、非常食としてのグラノーラを制作しました。役割分担が大変だったり、売れるかわからない中で開発するのはやはり不安がありました。でも販売後は、メディアに取り上げられたり、『ロハスデザイン大賞』に最終ノミネートされるなど話題となって、ちょっとホッとしています」
起業後の収入は会社員時代の4分の1。今はまだ種をまいている時期
現在は約70人のボランティアの協力で運営しているという「防災ガール」。「仕事場は自宅やコワーキングオフィス、カフェ。パソコンを使って仕事をしていて、事業への初期投資はとくに行っていません。起業後の収入は会社員時代の4分の1くらいですが、まだ種をまいている時期ですので仕方ないですね。一人暮らしから実家暮らしに切り替えて、今は支出を抑えるようにしています。今年の3月11日には任意団体の『防災ガール』を社団法人にする予定なので、今後はもっと大規模な活動もでき、収益もアップしていきたいと思います」
また、1月に開校した『Nicotama International School』を設立したり、NLPコーチングを活用したメンタルデザイナーとして活動するなど、複数の顔を持つ田中さん。「防災に限らず、少しでも多くの人が自分の幸せを定義・再定義でき、幸せであれる社会を創るためのプロジェクトであれば、今後も積極的に関わっていきます。自分のやりたいことができているので、仕事を始めてから今が一番楽しい。もちろん大変なことも多いですが、個人で仕事をしていても、社会起業家の仲間たちが周りにいれば、迷ったときに的確なアドバイスがもらえて心強いです」
「防災ガール」では、全国で毎月定期的に「次世代版避難訓練TOLAF」を実施。いつどこで誰に災害が起きてもおかしくない日本だからこそ、まずはアクションを起こしてほしい。そんな思いから誰でも無料で参加できる、本当に必要なスキルを身につけることができる避難訓練です。ぜひ朝の1時間だけでも参加してみてくださいね!
http://new-hinankunren.strikingly.com/
文:垣内 栄/撮影:刑部友康
※ タウンワークマガジンより