自分の「使命」を見つけたウェブ制作ディレクター

2015年08月05日

自分の辛い経験を生かして、クリエイターと企業の架け橋に

愛用のマックに向かってテキパキと仕事を進める坂本由起子さん。坂本さんはウェブ制作チームをまとめるディレクターだ。ウェブ業界の就職難を自ら体験し、いつかこの状況を変えたいと思うようになった。現在の職場と出会ってから、その目標を達成するための道を歩み始めることになる。
坂本さん

Profile:福岡県出身。大学卒業後、住宅メーカーに就職。その後、数回の転職を経て2015年4月「クリエイティブセンター福岡」に入社。ディレクターとしてウェブ制作チームを束ねる役目を担っている。家族構成は夫と中学生の娘さんが一人。

大好きと言える仕事に就きたい

「この仕事が大好き」
胸を張ってそう言える職場を坂本さんは探し続けてきた。大学卒業後は憧れのインテリアコーディネーターになるために、住宅メーカーへ入社。喜んだのもつかの間、現実の壁にぶつかる。空間をデザインする華やかな世界を思い描いていたが、実際には資材を運ぶこともあり、体力勝負の仕事だった。「希望通りの会社に入って、望む仕事に就いたと喜んでいたのですが。わずか1年で退職してしまいました」

転職先で事務員として3年間働き、結婚を機に退職。その後、子育てがひと段落したところで働きたいという気持ちが強くなった。

自分が思い描いていたイメージとの乖離から、何度も苦い経験をした。だからこそ、クリエイターを下支えする仕事に使命感をもっている。

家庭と両立できる職場を探したところ、時短勤務で働ける地元のIT企業が見つかり就職。家からも近く、週4日の勤務で16時に退社。日々、家事と育児に追われていた坂本さんは、仕事内容よりも働きやすさを重視していた。しかし7年後、会社が遠方に移転することが決まる。働きやすい職場だったので本当に残念でした。でも、だからこそ今度は働きやすさで選ぶんじゃなくて、心から『大好き!』って思える仕事を探したいと思ったんです」
そのときに思い出したのが、あるクライアントのウェブ制作に携わっていたときのこと。自分の作ったものが形になるおもしろさを感じていた。ウェブ制作について本格的に学んだことはなかったが「これだ」と思った。すぐにウェブデザインのスクールを探し、通い始める。半年間のカリキュラムを終え、いよいよ就職活動を開始。新たな一歩を踏み出し、わくわくする気持ちを抑えられなかった。しかし、そんな坂本さんを待ち受けていたのはまたしても厳しい現実だった。

求職者と企業のギャップ

「20~30社に応募しましたが、どれだけ頑張っても就職先は決まりませんでした。募集はたくさんあるのに、即戦力で働ける人を求めているので実務経験を積んでいないとそこで落とされてしまうんです」
せっかく勉強をしても経験を積む場所がない。散々もがき続けたあげく、ようやく1社だけ内定の返事をもらうことができた。とにかく、この業界でやっていけるように経験を積もうと覚悟を決めて働いた。いざ制作現場に来てみると、あれだけ自分が就職で苦労したのにも関わらず人手不足が続いている。その状況に疑問を抱き、何とかしたいと思うようになった。

2年後、そのチャンスが訪れた。ふとしたきっかけから、知人が立ち上げた事業の話を耳にする。そのコンセプトに驚きつつも、深く共感した。
それが現在、坂本さんが所属する「クリエイティブセンター福岡(CCF)」。仕事をしたいクリエイターと、仕事を頼みたいクライアントのマッチング事業とクリエイター育成事業を行っている。「はじめに会社のコンセプトを見たときに、『これはまさに、ずっと私がやりたかった仕事だ』と思いました」

メールで伝わらないときには電話でフォローしたり、facebookのメッセンジャーでこまめに連絡を取ったりもすることも大切。

ディレクターである坂本さんは、複数名のグロースハッカーを束ねる存在だ。グロースハッカーとは「サイトの閲覧数をあげたい」「サイトのページを見られるだけでクリック数が少ない」などの企業の悩みを分析し、解決の提案を行う仕事。坂本さんは企業の悩みが書かれたオーダーシートを受け、グロースハッカーに割り振りをする。その後、グロースハッカーが各自で課題を読み解き、デザインを改善するのだ。ディレクターはデザインの指示をするのではなく、それぞれのクリエイティビティを発揮してもらうようリードしていく。

メンバーは外部スタッフなので連絡はメール、電話でのやり取りが基本だ。「一度も会わずに仕事を進めるのは気を遣います。最初はどんなテンションでメール書けば良いのか悩んでいましたが、今ではもうなれなれしいくらいですね(笑)」メンバーとは、SNSでも繋がっている。そこで互いの近況を知り、普段のメールでもプライベートな会話もできるのだ。「もちろん、ビジネスライクにしたい方には私もそうしています。相手に合わせて距離をつめたり保ったりということを大事にしています」

ウェブ制作に挑戦したい人をサポート

一緒に仕事をするグロースハッカーのみなさんの最大の喜びは「ABテスト」(A案とB案のどちらがよいかサイト上でテストを行うこと) で結果が出ること。このテストで高スコアを出すことができれば、自分が提案したデザインが、クライアントの課題を解決できたと分かるのだ。「ある結婚式場のサイトで、デザインを改善したところよい改善スコアがでました。それまではビジュアル重視のサイトでしたが、メンバーの一人から割引訴求を大きく見せてはどうかと提案があったんです。チャレンジしてみたら大成功で、クライアントにも喜んでいただけました。私もうれしかったです」

メンバーは全員が福岡県在住だが、担当するのは日本全国の企業が対象だ。海外からのオファーもあるそうだ。「福岡にいながらにしてナショナルクライアントの案件に携われるのは、グロースハッカーとしての経験を積む絶好のチャンス。本来、フリーではなかなか受けられない内容ですからね。実績にもなるし、何より本人の自信につながります」

働く時間と場所を柔軟に決められることもグロースハッカーの魅力だと坂本さんは言う。「日中、他の仕事をする人や、フリーで動く人もいます」家庭と仕事を両立したい女性にも、条件が合う。「私自身、子育てをしているときには時間の制限がありました。グロースハッカーは納期を守れば自分の裁量で働くことができます。子どもが急に熱を出したり、学校から呼ばれたりと予測できないこともありますが、そういったときには調整して他のメンバーに対応してもらうこともできるので無理をお願いすることも少ないですね」

ウェブ業界で仕事がしたい。だが、チャンスがない。そんな悩みを抱える人の力になるのが坂本さんの夢だ。「現在、一緒に仕事をしているのは経験者の方ばかりですが、初めての方にも経験を積んでもらえる仕事をお願いして、次の仕事につながるステップを作ってほしいと思っています。就職で苦労した私だからこそ、今悩んでいる人の役に立つことができます。今では『この仕事が大好き』と胸を張って言えるようになりました」