スペシャルインタビュー 俳優 北村有起哉さん

2016年07月15日
テレビ、舞台で実力派俳優として数々の作品に出演している俳優、北村有起哉さん。映画『太陽の蓋』で長編映画初主演を務めました。ターニングポイントとなる作品と出会った思いや、好きな仕事を続ける秘訣などを伺ってみました。

北村有起哉さん

――東日本大震災が起きた3月11日からの5日間を描いた映画『太陽の蓋』を拝見しましたがとても素晴らしい作品でした。北村さんはこの作品で、キャリア18年の中で長編映画初主演を務めましたが、率直な感想を教えてください。

「“勉強になった”この一言に尽きますね。この作品をきっかけに日本と原発の歴史やそれに対する哲学など様々なことを勉強しました。10年後、20年後、僕の子どもに胸を張って紹介できる作品になったと思います」

――北村さん演じる鍋島は原発事故を追う新聞記者ですが、仕事への使命感にあふれた男性です。北村さんも使命感をもって俳優の仕事に向き合っていますか?

「僕の場合は使命感というより、好きである気持ちで向き合っていますね。好きだからこの仕事を選び、最低限の責任感をもって務めている。そんなところでしょうか」

――北村さんは20代前半、レンタルビデオ店でアルバイトをしながら30歳までには俳優で独り立ちをする、と決めていたそうですね。その間に、夢を諦めそうになったり、挫折しそうになったことはないのですか?

サブ2「不思議と将来に悪いイメージを持たなかったんですよね。“なりたい”じゃなくて“なれる”と思っていましたから。ただ、悶々とはしていました。自分と同世代の俳優がどんどんテレビや舞台で活躍をしているのを見ると、自分と比較して考えることはありました。でも、絶対にこの仕事で食っていくという気持ちがありましたから、食っていくためにどうすればいいのかを考えるようになりましたね」

――どう考えたのですか?

「この世界は弱肉強食で、仕事も取り合いです。いい芝居をすれば仕事が増えるし、たいした芝居をしなければ仕事は減る。まずは自分の芝居を見てもらわないと話しが始まらないので、とにかく人脈を作るようにしました。舞台を観に行ったら、積極的にスタッフや関係者に話しかけて、自分を知ってもらい、いい芝居ができるような環境を作るようにする。それと同時に多くの舞台や映画を観て自分の居場所を探したんです。“脇のこのポジションが空いている”とか“ここにこんなキャラクターの俳優がいれば映えるんじゃないか”とか。そのポジションと自分の個性がマッチすれば、他とはかぶらない俳優になるので」

――他にはないポジションが自分の個性で確立すれば仕事はきますよね。

「俳優にはマニュアルもないし、会社の方針もないので、自分が経営者みたいなものです。自分で自分の売り方や在り方を打ち出していかないと仕事はこないですから。道がないところから自分の道を作り上げてきた感じがあります」

――好きな仕事をするにはある程度の策略がないと続かないのかもしれませんね。

「それは俳優の仕事だけではないと思うんです。ひとりでする仕事なんてほとんどないですから、自分の個性を確立することと同じくらいに大切なのは周りの空気を読んで行動すること。このバランスを保つことが大切な気がします」

――北村さんがこの仕事を続けている理由は何でしょうか?

「一生、満足できないからでしょうね。常に課題が残るし、新たなハードルが出てくる。だからこそ、またやろうと思うんです。そして、ひと仕事終わって、みんなで飲むお酒はとても美味しい(笑)。演じて、良いお酒を飲んで、新たな課題に取り組む…その繰り返しだと思います」

――最後にやりたいことが見つからない人や仕事に対して楽しさを見いだせない人に対してアドバイスがあれば教えてください。

サブ1「僕が仕事を選ぶときには、何かひとつやりがいを探すんですよ。たとえば、あまりいい劇場ではないけれど、脚本家さんが好きだからやってみようとか、あまり面白い脚本ではないけれど、共演する女優さんがカワイイからやろうとか(笑)。すべてを好き嫌いでくくらないで、ここはイマイチだけど、ここはおいしいじゃん!みたいな目で仕事を捉えれば何かしらのやる意義は見いだせると思うんです。会社員の方であれば、仕事はつまらなくても社食が安くて美味しいとか、ひとりだけ尊敬できる先輩がいるとか。改めて、楽しさを探ってみてはどうでしょうか。人は働かないと食っていけないですから、働いている意味が何かひとつでもあればいいと思います。そこから、もうひとつ、もうふたつと増えていければ尚、いいですよね」

●Profile
きたむらゆきや/1974年生まれ。98年舞台「春のめざめ」(串田和美演出)と映画「カンゾー先生」(今村昌平監督)でデビュー。舞台「CLEANSKINS/きれいな肌」(栗山民也演出)では朝日舞台芸術賞寺山修司賞、読売演劇大賞優秀男優賞、ドラマ「トッカン 特別国税徴収官」(NTV)ではザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。
その他の主な出演作として舞台「道元の冒険」(蜷川幸雄演出)、「ザ・ダイバー」(野田秀樹演出)、「十一ぴきのネコ」(長塚圭史演出)、ドラマ「赤めだか」(TBS)、「ちかえもん」(NHK)、映画「駆込み女と駆出し男」(原田眞人監督)などがある。7月9日より舞台「BENT」(森新太郎演出/世田谷パブリックシアターほか)、に出演。また映画「オーバー・フェンス」(山下敦弘監督)が9月17日より公開。
●映画紹介
『太陽の蓋』pub
<7月16日(土)渋谷ユーロスペースより全国順次公開>
2011年3月11日、東日本大震災が発生。日本全国が混乱をきたす中、福島第一原発では全電源喪失の事態に陥る。菅直人首相(三田村邦彦)、枝野幸男内閣官房長官(菅原大吉)をはじめとする官邸での動きを追う新聞記者の鍋島(北村有起哉)は情報収集に奔走。あの日、福島で、官邸で、報道の現場では何が起こっていたのか、真実に肉薄するドキュメンタリードラマ。

取材・文:中屋麻依子