スペシャルインタビュー 女優 門脇 麦さん

2016年06月24日
デビューから5年、映画『二重生活』で初の単独主演を射止めた女優、門脇麦さん。プロのバレエダンサーを目指していた彼女が俳優に転身した理由。そして、仕事に対する独自のスタンスなどをお話ししていただきました。

門脇麦さんメイン写真

――門脇さんはプロのバレエダンサーになるという夢を持っていたそうですが、そこから俳優の道に進んだきっかけはなんだったのでしょうか?

「プロのバレエダンサーになれるのは一握りなんですよね。簡単にいうと、その一握りになれる才能がなかったんです。それなのに、また狭き門と言われる芸能界を選んしまって…。懲りていないですよね(笑)」

門脇麦さんサブ2――数ある職業の中で、なぜ狭き門である俳優を選んだのでしょうか。

「自分で何かを表現したいという気持ちが強かったんです。もともと映画が好きだったので“俳優にしよう!”というノリと衝動で事務所に履歴書を送ってしまいました。ですから、深く考えて選んだというよりは、自分が興味のあるほうへ勢いで流れていったというのが当てはまっているかもしれません。でも、ひとつ言えるのは、バレエをやっていたから自らで表現する仕事に興味を持ったので、これまでの経験があるからこそ選択した仕事ではあると思います」

――ノリと衝動で選んだ結果、実際に仕事をしてみてどうでしたか?

「あまりにも自分が平凡で、周りに対して何も提示できるものがないということが分かりました」

――個性やオリジナルな表現を求められる仕事で、それを自覚するのはツラいのでは? それでも、なぜ、門脇さんは続けてきたのでしょうか?

「考え方を変えたんです。自分が何かを表現するよりも監督が表現したいことを形にできたらと思うようになりました。監督がしたいことを俳優の身体を通して体現するという役割でなら参加できるかもしれないと思ったんです。監督のために、作品のために、現場のために頑張ろうと。そうするとすごくラクになったんですよ」

――ラク…ですか?

「居場所ができた気がしたんです。発信できなくても受け身で居続けるというやり方なら私もこの仕事に関われるかもと思って。自分が平凡で才能がないという自信のなさを他人にのっけているというか、他人に甘えていたんです。でも、それにもだんだん限界を感じるようになってきて…」

――他人のために動くということがですか?

「はい。“他人のため”という原動力では足らなくなってきたのでしょうね。それよりも自分が好きだからやるという、自分のための原動力のほうが頑張れるなと。まだまだではありますが、この仕事を続けるうちに少しずつ自信もついてきたこともあって、甘えるのはやめてストレートに仕事と向き合うようになりました。でも、不思議とそのほうが監督のために、作品のためにという思いが昔よりも何倍も強くなったんですよね」

――きっと、自分が好きなことをやって周囲に認めてもらえるほうが自信がつきますよね。

「この仕事は好きではあるんですが、演技をすること自体は楽しいと思ったことがないんですよね」

――ええ!? 俳優は演じることが大部分の仕事ですよね。

「まだまだ演技をするときは苦しいと思うことのほうが多いです。でも、苦しい現場が終わったら、また新しい作品に関わりたいと思う…。なぜ、こんなにもこの仕事に惹かれているのか、何に魅了されているのかを探し続けながらここまで来た気がします。これからその答えが見つかるかも分からないですし、一生分からなさそうな気もしています」

門脇麦さんサブ1――分からない答えを見つけるために、俳優の仕事を続けるということですか?

「私、分からないという言葉はマイナスだと思っていなくて、その先の好奇心があるときに使う言葉だと考えています。今、自分が理解している先にもっと何か新しいものがあって、それに惹かれているというか。だから、分からないから怖いのではなく、分からないからやってみたいんですよね」

――門脇さんは、分からないからこそワクワクするし、先に進んでみたいと考えるんですね。

「きっと、すべてが分かり始めて演技が楽しい!と思ったら、私は俳優の仕事をしなくなるかも。仕事は自己満足してしまったら、そこで終わってしまうような気がします」

●Profile
かどわきむぎ/1992年生まれ、東京都出身。2011年デビュー。東京ガスのCMでバレエを披露して話題になる。2014年映画『愛の渦』でヒロイン役に抜擢され、第36回ヨコハマ映画祭日本映画個人賞最優秀新人賞、第88回キネマ旬報ベストテン新人女優賞などを受賞。NHK連続テレビ小説『まれ』、『闇金ウシジマくん Part2』。映画『太陽』『オオカミ少女と黒王子』、Netflixオリジナルドラマ「火花」など多彩な作品に出演。
●映画紹介
『二重生活』
(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ

(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ

<6月25日(土)新宿ピカデリー他、全国ロードショー>

大学院の哲学科に通う珠(門脇麦)は担当教授の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材にひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する“哲学的尾行”の実践を持ちかけられる。その対象として選んだ近所に住む編集者、石坂(長谷川博己)の理由なき尾行をはじめ、禁断の人間模様を覗き見することになる。

取材・文:中屋麻依子/撮影:八木虎造