スペシャルインタビュー 俳優 渡辺 謙さん

2016年04月29日
10代で役者を志し56歳の現在まで世界中で演じ続けている渡辺謙さん。どうすれば好きな仕事を続けられるのか。そして、世界が認めるような仕事ができるのか。そんなシンプルな仕事への思いを飾らない言葉とチャーミングな笑顔で語ってくれました。

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――10代で役者という仕事について50代まで走り続けていらっしゃいますが…。

「倒けつ転びつですけどね(笑)」

――倒れても転んでも立ち上がる理由はなんでしょうか?

「おもしろいからですよね(即答)。こればっかりはもう、おもしろいとしかいいようがない。これ以上に楽しい趣味もないし、自分が達成感を得られるものがないので。だから立ち上がるし、同じことで転ばないように努力もします」

――“おもしろい”と即答でしたね。どうしたら渡辺さんのように、心から“おもしろい”と思える仕事に出会えるんでしょう?

「おもしろいって、苦しいとかしんどいとか、もう辞めたいとか全部ひっくるめての“おもしろい”ですからね。昨年、ブロードウェイで『王様と私』をやったときは、いままで感じたことのないような苦しみがありましたよ。歌や演技、プレッシャー…。あのときの僕の状態を見せたら、きっとみんな「そんなツライことやめなさい!」っていってくれるはず(笑)。それでも翌日には何事もないような顔をして劇場に行くんですよ。それはどこかしらツラさをおもしろがっている自分がいるんですよね」

――ツラさをおもしろがる…ですか?

「僕も年齢を重ねてコントロールができるようになったんです。ツラさやしんどさを“おもしろさ”に転換させて、別のアングルから見るようにしておもしろがれるようになりました。でも、20代、30代の頃は転換がなかなかできなくてもがいていましたね」

――今の20代、30代の若い人たちも、仕事探しややりたいことが見つからず、壁に当たっている人も多いと思います。渡辺さんはどのようにしていつも壁を乗り越えてきましたか?

sub_CA6W7042「僕が思うに、やりたい仕事は見つけるものではなくて、やり続けているうちにどんどん好きになっていくものだと思うんでよね。僕も俳優を続けてきておもしろさや奥深さが分かるようになってきた。ですから、何事も続けることが大事だと考えています。

その中で壁にぶつかったときは、水面下で足ひれを絶え間なく動かしているような状態。とにかく動き続けて乗り越える方向に進んでいきました。タイミングよく乗り越えられるときもあるし、違う縁があったり、運がよかったり。その時々で方法は違うけれど、決して動きは止めない。つまり、壁を乗り越えるまでは諦めないということです」

――動きを止めなかったから、今も役者の仕事を続け、世界中からオファーがくる俳優になったのでしょうね。

「あとは、どの作品でも必ずいままで身に付けたものはすべて脱ぎ捨ててフレッシュな気持ちで向かい合います。そうしないと、脚本を読んでいても、その中に隠された宝物に触れられないんですよ。

先ほどいったブロードウェイの舞台も、すべてを脱ぎ捨てて向かったから成果がありましたし。今回の成果は、ただ自分の達成感だけでなく、いろいろなことを与えてもらいました。俳優として、この年齢でもまだまだ鍛えられるんだとか、乗り越えられるんだとか」

――渡辺さんとお話ししていると、物事をとてもフレッシュな感覚で見ていることが分かるような気がします。

「精神や心根がフレッシュだといろんなことに対応できるんですよ。いろんなものを素敵だなと思える感覚を持つことは俳優としてでなく、誰にとっても大切なことです。“いままでのキャリア”とか“自分のやりたいこと”に捉われてしまうと余計なことを抱え込んでしまうので」

――渡辺さんが出演された映画『追憶の森』を観させていただきましたが、改めて「幸せとは何か」を考えてしまう内容でした。渡辺さんご自身は「幸せ」とは何だと思いますか?

sub2_CA6W7073「“幸せ”は普遍的なものではないと思うんですよ。今日幸せだと思ったことが、明日幸せと思うかは分からない。僕自身が長い病を患って病室にいたとき、『追憶の森』でマシューと共演するとかブロードウェイの舞台に立っているとか想像もつかなかったですし。病室にいた頃と今では幸せの感じ方は確実に違います。だから“幸せとは何か”を考えるよりも、“幸せを感じることができる”ほうが意味があると思います。幸せはそのときそのときに感じるものだから。ちなみに僕は今、幸せですよ(笑)」

 
 

●Profile
わたなべけん/1959年生まれ、新潟県出身。1981年に俳優デビューし演劇集団 円を経て、1989年NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で注目される。2003年に『ラスト・サムライ』でハリウッドデビュー。その後、『硫黄島からの手紙』『インセプション』などの海外作品をはじめ2009年『沈まぬ太陽』では第33回日本アカデミー大賞最優秀主演男優賞を受賞。2015年にはブロードウェイミュージカル『王様と私』でトニー賞にノミネートし、今年再演を果たした。
●映画紹介
『追憶の森』
<4月29日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー>

(C)2015 Grand Experiment, LLC.

(C)2015 Grand Experiment, LLC.

人生に絶望したアーサー(マシュー・マコノヒー)は自らの命を絶とうと日本の青木ヶ原樹海に訪れる。しかし、樹海の中で怪我をおった男、タクミ(渡辺謙)と遭遇し、出口を探しながらもいつしか2人の間に交流が生まれ、アーサーはここに来た理由について語り始める。名匠ガス・ヴァン・サントがおくる愛と感動のミステリー。

インタビュー・文/中屋麻依子 撮影/八木虎造