スペシャルインタビュー 女優 坂井真紀さん
最新作『スープ・オペラ』では、30代半ばの悩める独身女性を好演した坂井真紀さん。今年40歳を迎え、女優を一生の仕事にしたいと思えるようになったとか。そう思えるようになるまでの20代、30代、そして今の仕事観を伺ってみました。
―――今回の『スープ・オペラ』は、30代・独身女子がひょんなことから男性二人と不思議な三人暮らしを始める、という一風変わった作品ですが、年々個性的な作品に出演されているイメージがありますね。
(坂井さん)「30代になって、やりたいことが明確になってきたんです。だから、関わりたい作品も変わってきました。年齢と共に状況が変わったというのもありますね。20代と30代では求められるポジションが違う。いつの間にか、主役から主役のお母さん役になっていますから。そこにジレンマを感じて“もう、ダメなのかな…”と思ったこともありましたけど、主演云々とかポジション的なことではなくて、やりがいのある役を演じることの愛おしさに気が付きました。そこから精神的にシフトチェンジできたんです」
―――シフトチェンジの大きなきっかけはあったんですか?
(坂井さん)「舞台の仕事に関わるようになって大きく変わりましたね。30代頭ぐらいのときに劇団☆新感線さんの 『髑髏城(どくろじょう)の七人』という舞台に出演したんですが、しごかれたのなんのって(笑)。舞台は、脚本も演出も役者もみんなダイレクトに責任が降りかかってきますから、ダメなところがあると、すぐに周りから指摘されます。みんなの目の前で恥をかきますからね。でも、そのおかげで、自分はお芝居をするということが、何もできていなかったんだと気が付きました。演じることにはいろいろな形があって、まだまだ自分は何も知らないと。そこにぶつかったときに、演じるとは、役柄やポジションではなく、たとえワンシーンでも自分がやりがいを感じる演技をして、それを見ている人へどう伝えるか、ということなのではと思い始めたんです」
―――でも、それなりにキャリアを積んできた30歳で恥をかくほど怒られるのは相当キツかったのでは…?
(坂井さん)「キツいと言うよりも、できない自分自身を情けなく思い、悔しかったです。10年も演じていると“坂井真紀ってこういう感じの女優さん”という認識が浸透してきて、演じていても“坂井さんの演技はこんな感じだからOK”になって、怒られたり、注意されることがほとんどなくなってきていたように思うんです。それが、舞台にあがった瞬間にダメなところを指摘されることは、正しい姿だと思いました。言われない方が不安になりますから、すごくありがたいことだと。役者は、客観的に見られる仕事なんですよね。正直、20代のときは女優を一生の仕事にするなんて思っていなかったので、こういう経験を経て、演じる愛しさと、それと共に年を重ねる尊さを実感しました」
―――女優をやめようと思ったこともあったんですか?
(坂井さん)「浮き沈みの激しい世界ですし、興行的にも結果を求められるシビアな面もあるので、続けられるか不安になった時期もありました。仕事がこなかったらどうしようって。でも、役者は自分の生き方が芝居に反映される仕事だから、人生を大切に生きればいいんだ。その結果、良い仕事ができれば本望だと思うようになってきて怖くなくなりました。そして、先に結果を考えるのではなく、とにかく、一つひとつ目の前のことを一生懸命やる、と考えるようになったらすごく楽になりました。きっと、年をとって図々しくなったのかも(笑)。だから、40歳にして、やっと女優は一生の仕事なんだと思えるようになりましたね」
―――今回出演された『スープ・オペラ』では、ちょっとダメ男だけど、優しくて頼れる年上の男性と、少し頼りないけど熱い年下の男の子と同居する主人公、ルイを演じましたよね。坂井さんご自身は昨年ご結婚されましたが、もし、独身だったらどちらを選びますか?
(坂井さん)「年下の熱い男の子かなぁ(笑)。だって、男の人は年上でも年下でも子どもですもん。それはエラそうな意味ではなくて、尊敬と愛しさをこめて。だったら、熱いほうが面白いかなと思いますね」
●Profile
さかいまき●1970年5月17日生まれ、東京都出身。1992年ドラマデビュー。多くのドラマ、映画で活躍。近年では『ノン子 36歳(家事手伝い)』など個性的な作品で主演をつとめ話題に。今後は、映画『ゲゲゲの女房』(11月20日公開)、舞台、劇団☆新感線 30周年記念興行『鋼鉄番長』(10月4日より東京・大阪・福岡) に出演。
『スープ・オペラ』
10月2日、シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー他全国ロードショー!
・あらすじ
叔母のトバちゃん(加賀まりこ)と古びた一軒家で2人暮らしをしているルイ(坂井真紀)だが、突然、トバちゃんが恋に落ち家を飛び出してしまう。さびしく一人暮らしをしているルイの元に怪しい男、トニー(藤竜也)と康介(西島隆弘)が現れ、不思議な3人暮らしが始まる。美味しいスープとおかしいけど優しい人たちが繰り広げる温かい物語。 監督:瀧本智行
原作:阿川佐和子『スープ・オペラ』(新潮文庫刊)
出演:坂井真紀、西島隆弘(AAA)、加賀まりこ、藤竜也ほか
公式HP:http://www.soup-opera.jp
インタビュー・文/中屋麻依子、撮影/八木虎造、デザイン/河村俊子(studio PAWOZ)
スタイリスト/安野ともこ(YASUNO TOMOKO)、ヘアメイク/赤松絵利(AKAMATSU ERI/esper.)
ピアス:CASUCA※参考商品 株式会社カスカ/03-3797-6844 目黒区目黒4-26-10