スペシャルインタビュー 女優 ペ・ドゥナさん
10代からモデル、女優として人気を博し、日本では映画「リンダ リンダ リンダ」で好演するなど、韓国のみならず国境を越えて活躍する女優 ペ・ドゥナさん。常に真摯に役に取り組む彼女の仕事への姿勢をうかがってみました。
―――今回『空気人形』という、今まで演じたことのない、人間以外の役に挑もうと思ったきっかけは?
(ペ・ドゥナさん)「初めてシナリオを見たときに、明らかにこの役は大変だろうと思いました。それは人形を演じるための肉体的表現や、精神的な部分などで。だからこそ、挑戦のしがいがあるなと感じたんです。簡単なことをするより難しいことをするほうが、できたときに自分の中で感じる喜びは大きいでしょうし。それに、誰もやっていないことをやるってすごくワクワクする。誰かがやっていることは、やりたくないなと思うタイプなので。それに、ただ“心を持った人形”を演じるだけではないストーリーに興味を持ちました。もともと命のないものが、命を与えられ生きていくことは子どもと同じ。初めて世界を知って、いろいろなことを感じ、習い覚えて、人と出会う…。つまり、人の一生と同じなんですね。それを“人形”という視点を通して、人生を縮約した形で見せることは面白く、魅力的だなと感じたんです」
―――“誰もやっていないこと”に挑戦して、女優として何か得たものはありました?
(ペ・ドゥナさん)「一作品ごとにいろいろと学ぶし、自分自身が強くなっていくなと感じますが、この役をやることで、本当に強くなったと思いましたね。人形のように見せる息を殺した動きは肉体的に大変でしたし、難しい役への取り組みは精神的に辛いときもありましたから。でも、これを越えて満足いく形で完成できた今、すべてを受け入れられる感受性がより深くなったと思いますね。そして、今までも想像力を働かせて演じるということはしてきましたが、今回は無生物への想像を働かし、演じることができたのは自分自身、新しい発見でもありました」
―――女優という自分の仕事対して、常に進化を求めていますが、昔から高い志を持っていたのですか?
(ペ・ドゥナさん)「昔はまったく…。写真を撮られるのも嫌いでしたし(笑)。もともとは、街でモデルにスカウトされて“お小遣い稼ぎにやってみるか”という感覚だったんですよ。でも、いざ撮影となると表情が作れず全然うまくできない。カメラマンにすごく怒られましたね。でも、そのときに気付いたのは自分が相当、負けず嫌いだったということ(笑)。怒られれば怒られるほど“絶対にやってみせる!”とやる気が出てしまって、根性でカメラに向かっていきましたね。そこから、徐々にモデルやCMのお仕事が増えてきたんですが、できなくて悔しいから立ち向かうだけで、本当はカメラの前にいることも、大勢の人の前に立つことも好きじゃなかったんですよ。もともと、人と交わるよりもひとりでいるほうが好きなので。でも、ある日、演技をするお仕事でスチールカメラではなく、フィルムのカメラを回されたときに、なんだか空を飛んだような心地よい浮遊感というか、新鮮な楽しさみたいなものが自分にわき起こってきたんです。なんなんだろう…説明するのは難しいんですが、今までにない自分に気付いたというか、新たな感覚を知ったというか。それからですね、女優という仕事が自分の天職だと思ったのは。“これが天職だ!”って気付くのって細かい理由はいらなくて、感覚なんじゃないかな。もちろん、それは自分自身にしかわからないものですけど。それに気付けたのが20代前半でしたね」
―――今年の10月で30歳を迎えますが、30代は仕事とどんなふうに向き合っていきたいですか?
(ペ・ドゥナさん)「女性というのは30代から成熟した美しさがでると思うんですよ。若いころは、ただ単に若いだけでキレイですが、本当の美しさがでてくるのは30代だと思います。女性としてのセクシーさや色っぽさ、そして今までの生き方が顔に出てくる。女優も同じで、顔から良い人生が見えてくれば、より魅力ある役者になっていくのではないかと。だから、空気人形を演じたのも、この役ができる歳になったからだと思うんです。きっと、若いときだったらできなかったと思う。30代に近づいて、自分の中でやり遂げられるんじゃないかと、今までの人生の経験が後押ししてくれたんですね。今後、ますます演じられる役が増えてくる、そんな30代に期待しているんです」
●Profile
ペ・ドゥナ●1979年10月11日、ソウル出身。モデルデビュー後、女優の道へ。2006年女子高生のバンドストーリーを描いた『リンダ リンダ リンダ』で日本映画に出演し話題となる。『グエルム 漢江の怪物』など話題の映画、テレビドラマで活躍。
是枝裕和監督最新作 映画『空気人形』
・あらすじ
独身の秀雄(板尾創路)と暮らす空気人形(ペ・ドゥナ)。ところがある日、空気人形が心を持ってしまい、ビデオレンタルで働く男性(ARATA)に恋心を抱くように。恋をする楽しさと、心を持ってしまったゆえの切なさを丁寧に描いたラブファンタジー。第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門、正式出品作品。
公式サイト:http://www.kuuki-ningyo.com/
インタビュー・文/中屋麻依子、撮影/新見和美、スタイリング/伊藤佐智子、ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON)、デザイン/河村俊子