スペシャルインタビュー 監督 河瀨直美さん × 女優 長谷川京子さん
人生をリセットするため、タイに降り立った主人公・彩子、30歳を演じるのは、自身もも同じ年齢を迎えた長谷川京子さん。女優として、一人の女性として、多くの成長を実感できたと話す彼女を支えたのは、数々の輝かしい受賞歴を誇る女性監督の河瀨直美さん。二人にとっての大きなチャレンジとなった今回の映画作りを通して、次に見えてきたものは何だったのか?
―――30歳の女性を描こうと思ったきっかけは?
(河瀨監督)「まず主役が長谷川京子さんに決まったとき、等身大の長谷川さんの姿をリアルに描ければいいなと思って。私自身も含め、30代の女性は今すごく悩んでいるんじゃないかなと思うんです。20代でとりあえず夢や希望は見えてきたけれど、30代はもう少し内面的なものが必要になってくる。でも、今は情報が非常に多いので、表面的なものを追い求めるあまり、本当の自分とかけ離れてしまったり、無理をしていたり、すごく疲れているんじゃないかなと。この作品はそんな人たちにとって、本当の自分を見つけるきっかけになる映画だと思います」
―――長谷川さんも主人公・彩子と同じ30歳ということで共感する部分はありましたか?
(長谷川さん)「私もやはり30歳を迎えるにあたり、20代後半の漠然とした不安というものを感じていました。20代で一通り仕事はこなせるようになって余裕もできたけれど、次のステップアップを考えたとき、じゃあ何をすればいいのだろうと。特に今の女性は向上心があって、情報も豊富で、いろんなことができるはずなのに、どこに向かって行けばいいのか、立ち位置がわからない。この映画の彩子もそんな漠然とした不安を抱えながら、タイに旅立ったんだと思うんです」
―――気持ちの動くままに演じるという河瀨監督ならではの演出方法はどうでしたか?撮影時には1枚のメモが渡されるだけで、台詞も役者同志の関係性もわからなかったそうで…
(長谷川さん)「これまでは台本通りに演じる役柄が多かったので、最初は確かにとまどいました。自分が感じたままに感情や言葉を表現しなくてはいけないし、声のトーンひとつをとっても、どうやってしゃべればいいのだろう?と。でも、そういう現場を経験したくて出演させていただいたので、私にとっては絶対に必要なチャレンジだったし、撮影を終えて感じたのは、ありのままの自分を受け入れられるようになったこと。以前は細かい部分にとらわれすぎて迷うこともあったけれど、自分自身を押し通すパワーが大切なんだと思いました」
(河瀨監督)「撮影現場での長谷川さんは軽やかでしたよ。タイという異国の地で一人で電車にも乗っていたし(笑)。俳優だからといって人形になる必要はないんです。役者自身が自分で感情のヒダを作っていって、それが堂々としていれば、見る人も納得し、共感してくれる。私はそういう映画の作り方をしているので、そこがリアルであればいい。この映画の中でも長谷川さんのリアルな経験が物語として昇華されたと思いますね」
―――長谷川さん自身、今回のチャレンジを通じて発見したことは?
(長谷川さん)「タイという異文化の中で、これまで自分がいかに甘えていたかを実感しました。新しい環境に身を置くと、自分の立ち位置が明確に見えてくるんです。例えばタイでは危険と隣り合わせで生きている人もいるのに、日々危機感を持っているからこそ本当の幸せを知っている。かたや自分は情報過多の国にいて何でもできるはずなのに、『あれができない』『これがうまくいかない』と悩んでいる。そんな自分がすごく甘えているなと。でも、今起こっているすべてのことは、自分が巻き起こしたこと。自分を変えれば人も環境も変わるんです。もちろん30代になれば責任も重くなるけれど、それも含めて自分で変わることを恐れず楽しんでいきたいですね」
●Profile
かわせなおみ●1969年生まれ。1989年大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業。1997年、『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少受賞する。2007年、『殯の森』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞。作品多数。
はせがわきょうこ●1978年生まれ。1999年、女性ファッション誌の専属モデルとしてモデル活動を本格的に開始。2000年、女優デビューを果たし、現在は映画、ドラマ、舞台などで活躍中。現在、TBSドラマ「SCANDAL」(日曜夜9:00~)に出演中。
●映画告知
『七夜待』
人生をリセットするため、日本を旅立ちタイに降り立った彩子(長谷川京子)、30歳。タイの街中からタクシーでホテルに向かうはずが、気づくと人気のない山道を車は走っていた。身の危険を感じ、車から飛び出した彩子は、フランス人の青年・グレックに助けられ、タイ人の親子と祖母の暮らす家に案内される。そこでタイの古式マッサージに出会い、固く閉じていた心を開いていくのだが…
監督:河瀨直美
脚本:狗飼恭子
キャスト:長谷川京子、グレゴワール・コラン、村上淳
インタビュー/木村さとみ、撮影/根田拓也、デザイン/河村俊子