スペシャルインタビュー 女優 安藤サクラさん
32歳で実家暮らし、無職、ボサボサヘアに小太りな体。そんな“痛すぎる”主人公、一子を演じた安藤サクラさん。奥田瑛二さんと安藤和津さんを両親に持ち、自らも役者として独特の存在感を放つ彼女に映画のこと、仕事のことをうかがいました。
―――言い方は悪いですが、ボクシングを始める前の“だらしない”一子と目の前にいる安藤さんが同じ人とは思えません。
(安藤さん)「そう言ってくれるとうれしいです! 脚本を読んだときに、とにかく体を大きくしようと思って、だらしなく太ることをモットーに頑張りました(笑)。体毛も伸ばすだけ伸ばしたし、歯もガタガタにしようと思ったんですけど、さすがに歯医者さんに断わられまして。なので、せめて歯の色を汚くしてください!とお願いしました」
―――すごいプロ根性ですね!
(安藤さん)「“女優さんが汚い役を演じているんだな”と思われるのは嫌だったんですよ。なんとしてでも本当に汚くだらしなくなりたかった。太っているシーンからボクシングを始めて痩せるシーンを撮影するために10日で体重を落としましたね」
―――安藤さんはいわゆる個性派役者として迷いなく自分の道を進んできたイメージがあります。
(安藤さん)「実は、この作品に出るまでかなり迷っていたんですよ。自分の表現に制限をかけてしまうというか、表現の仕方がわからなくなっていたんです。今まで、個性的とかクセのある役柄を演じてきたことで安藤サクラのイメージが独り歩きしてしまった感じがあって。今回『百円の恋』のオーディションを受けたときも“安藤サクラってこういう役、似合うよね”とか“また、こういう役やるんだ”と思われることが嫌になっていたんだと思います。それで知らず知らずに自分に制限をかけてしまって鬱屈した気持ちになっていたんですよ」
―――それでも『百円の恋』に出演したのはなぜですか?
(安藤さん)「一子さんってがむしゃらなんですよね。周りにどう思われているかとかまったく考えずにがむしゃらにしがみついていく。私も悶々とした思いを抱えている今の状態から抜け出したくて、一子さんと同じように闘ってみようかなと思ったんです。この映画を観た人が“安藤サクラっぽい役”と思っている以上に、驚かしてやればいいんじゃないかなって。マジか、ここまでやるか、と」
―――実際に映画を見て「マジか、ここまでやるか」と本当に思いましたよ。
(安藤さん)「やったー!良かった」
―――ここまでがむしゃらになれる安藤さんの原動力って何ですか?
(安藤さん)「うーん、“こんちくしょう”かな。できなくて悔しいとか、思った通りに進まないとかの負の気持ちをバネに進んでいるのかもしれません。“こんちくしょう”の思いから、じゃあ、自分に何ができるかを考えて、それに向かって頑張っていく。私、ペットボトルの蓋を開けられないほど非力なんですけど、この映画でボクシングをやるから慣れない筋トレを“負けない、“こんちくしょう”の気持ちでやっていましたし」
―――それだけ猛然と取り組める役者というものを安藤さんは仕事だと思っていますか?
(安藤さん)「仕事と思わないといけない、というのが本音ですね。でも、基本は自分がやりたいことをやっている感覚が強いです。私、仕事は選びませんが、今までやりたいことをやれてきたなと思いますね」
―――これからもやりたいことをやり続けていくのが安藤さんの仕事でしょうか?
(安藤さん)「“これから”のことは考えていません。2014年の1月1日に“今年は2014年のことしか考えない”と決めたので(笑)。だって、先のことを考えると今を出し惜しみしちゃうじゃないですか。例えば、今日の夜はカレーを作るから、昼はカレーを食べるのをやめようと思いますよね。でも、夕飯をカレーと決めていなければ、昼に食べたいカレーが食べられるんですよ! 今、食べたいものを食べるほうが絶対いい! そうやって“これから”のことを考えるより、今やりたいこと、やれることを大切にしたいと思うんです」
●Profile
あんどうさくら●1986年2月18日生まれ、東京都出身。2009年映画『愛のむきだし』で第31回ヨコハマ映画際助演女優賞受賞。2012年『かぞくのくに』で第55回ブルーリボン賞主演女優賞を獲得するなどさまざまな賞に輝く。2015年は『甥の一生』『白河夜船』など話題作の公開が続々決まっている。
『百円の恋』
12月20日(土)より全国公開中
32歳にもなって実家で自堕落な生活を送る一子(安藤サクラ)。妹とのケンカをきっかけに実家を出て百円ショップで働き始めるが冴えない毎日。そんな時、ボクシングジムで練習するボクサーの狩野(新井浩文)と出会い、不器用な恋が始まる。
インタビュー・文/中屋麻依子 撮影/八木虎造