自分がやりたいことをできる環境を追求したから、産休・育休から復帰後、転職も叶えた
「自分を変えたい」と思ったとき、みなさんはどんな行動を起こしますか?
引っ越してみる、いつもとは違う友だちに会ってみる、職場を変えてみるのも一つの方法かもしれません。でも、転職にはなかなか勇気がいりますよね。
そこで、さまざまな理由で過去に転職をした先輩女性に、一体なにを変えたかったのか、そして転職により、なにが変わったのかを伺います。みなさんの迷いを解決するヒントが見つかるかもしれません。
今回お話を伺ったのは、靴・バッグの専門店で靴のデザインのお仕事をしている宮川良江さん。前の会社でも靴のデザインや企画などのお仕事をされていたときに第1子を妊娠。産休・育休を経て、今の会社へ契約社員として転職を実現したそうです。そして、現在は第2子を妊娠中で産休に入ったところなのだとか。
初めてのお子さんを出産し、慣れない子育てをしながら、13年も務めた会社を辞めて転職を実現した宮川さん。さまざまな苦労をどうやって乗り越えてきたのでしょうか。
【宮川さんから学ぶ成功の秘訣】
・家族や職場の方の協力を得ること
・職場復帰への不安は「無理して焦らず」というスタンスで解消すること
・「やりたいことができないから」という理由だけで転職しないこと
前の会社には産休・育休制度がなかった!?
–初めての出産ということもあり、不安や現場での苦労があったのではないでしょうか?
子どもを授かったことがすごくうれしかったので、あまり不安はありませんでした。ただ、通勤時間が片道1時間半かかるので、安定期を迎えるまでは体力的な心配がありましたね。会社は社員が20人程度のとても小さい会社で、妊娠するまでは残業もしていたのですが、職場の方が体を気遣ってくれたこともあって妊娠後は早く帰宅するように心がけていました。
男性の靴職人さんが多い職場だったので、子どもを産んでからも働き続ける女性がこれまでいなかったのですが、私が妊娠したことを機に、すぐに産休制度や育休制度を作ってくれました。それは本当にありがたかったですね。
–どのタイミングで産休に入られたのですか。
里帰り出産だったので、ちょっと早めに予定日の2カ月前から産休に入りました(グラフ:a)。
–ご主人にはどのように協力してもらっていたのですか?
主人は計量機器のカスタマーサポートの仕事をしています。24時間体制で動いている部署なので、遅番・早番があったり、夜勤が月3回あったりと、勤務時間がまちまち。それでも出産前から今もかなり協力してくれます。家事や洗い物もやってくれるし、子どもとも遊んでくれるし。平日休みのときは保育園の送迎や、夕飯作りもしてくれるので助かりますね。
「無理して焦らず」というスタンスで、職場復帰への不安をとりはらう
–宮川さんは、もともと出産後も仕事を続けようと思っていたのですか?
靴の仕事が好きで、ずっと携わっていきたいと思っていたので、それをやめる気はありませんでした。欲張りかもしれないけど、子育ても靴に携わる仕事も両方頑張りたいんです。
–産休・育休中は子育てで精一杯だったとは思いますが、仕事復帰に向けての不安はありましたか?
デザインの仕事に関わっているので、やはりセンスが鈍っていないか、トレンドをとらえられるかが心配でした。子どもが生まれてからは外に出かける時間も減っていたので、最近の流行を肌で感じるのが難しかったです。
でも、仕事に復帰すれば自然と情報も入ってくるので、無理して焦らずにいようと思っていました。ただ、妊婦として、ママとして、今の自分が気になるものはチェックするようにはしていましたね。
–具体的にはどんなことをされていたのですか?
例えば、生活が変わって高いヒールの靴が履けなくなったときに、どんな低いヒールの靴があるのかを調べていました。履いていて楽なものやメンズライクなものはすでにたくさんあったのですが、もともとエレガンスシューズの企画をしていたので、妊婦でも子どもがいても素敵に履けるエレガントな低いヒールの靴がほしかったんです。でもなかなか見つからなくて…。そんな中、少しでも気に入る靴を見つけたら、資料をパソコンに保存しておくようにしました。
そしたら、復帰後に「ママさんのための靴がほしい」という話が出たんです。実際に企画したときは、カッティングのラインを工夫して、低いヒールでも足がきれいに見えるカットにしたり、木型(靴を作るための原型となる木製の型)や中敷などで履き心地の良さも追求したりしました。産休中に保存していた資料も大いに役立ちましたね。
転職を決意したのは「仕事と子育ての両立が可能な環境で働きたい」という思い
–出産後、育休を経てどのくらいで職場復帰されたのですか?
ちょうど1年ですね(グラフ:b)。
–お子さんの保育園探しは大変でしたか?
子どもは12月生まれなので、1年間育休を取得して翌年の11月から仕事復帰することが決まっていました。ただ、11月は年度途中の入園となってしまうため、どの保育園も入園できる枠がほとんどなかったのです。保育園に入れたくても中途半端な時期だったため、認可保育園に入れるのは難しいと考えました。
そこで認可外の認定保育施設に翌年の4月まで通わせ、その後認可保育園に通わせることにしました。認定保育施設に少しの期間入れておくと、認可保育園入園の選考基準のハードルが下がるというメリットもありますからね。
とはいえ、認可外ならどこでもいいというわけではなく、子どもを安心して預けることができるかどうか、先生たちの雰囲気はどうかなどをチェックしながら13カ所くらい見学して納得できる認定保育施設を見つけました。一番気に入ったところがたまたま自宅からも近く、希望通り11月から入園できたのでラッキーでしたね。そして、予定通り4月から認可保育園に転園することもできました。
–仕事に復帰後、“転職しよう”と思ったのはどういうきっかけがありましたか?
復帰後、1年くらいは前の会社で働いていましたが、やはり大きなネックになったのは片道1時間半の通勤ですね。子どもが熱を出してもすぐに迎えにいけないし、時短勤務とはいえ、保育園に迎えに行くと午後6時を過ぎてしまうので、子どもも待ちくたびれてしまい、ぐったりしていました。
また、13年間勤務して、この職場でやれることはやりきったという思いもありました。本当に居心地のいい会社で、働き続けようと思えば続けることができたかもしれないけど、転職したほうが子どものためにも自分自身が次のステップへ進むためにもよいのではないかと考えました(グラフ:c)。
–今の会社へはどういうきっかけで転職されたのですか?
今の会社はもともと前の会社の取引先なんです。担当の方に辞める話をしたところ、「だったら、うちの会社でデザインをしてみないか」と声をかけてもらいました。家からも職場が近くなるし、靴に携わる仕事以外は考えていなかったので、とてもありがたかったですね。
–子どもがいる中での転職を不利に感じることはありましたか?
子持ちで転職して同じように働いている友だちもいるので、あまり不利に感じていませんでした。ただ、子どもがいると遅刻や早退が多くなってしまうので、腰を据えて働くことはできないのではないかという不安はありました。
契約社員として転職。現在第2子を妊娠中
–いまの職場に転職されたのはいつですか?
2014年の10月です。
–転職してみて前の会社との違いを感じることはありますか?
下町の工場から都会のオフィスに転職したようなものなので、環境や会社の規模はもちろんですが、一番は仕事において「見るべきポイント」が異なることですね。
前の会社では靴ごとに「工場で生産しやすいか」「材料や工程などをどう工夫したらよいか」などを見ていました。ただ、今の会社ではそれに加えて「店舗にどういう靴をどのタイミングで並べるか」「お客さんの反応はどうか」などについても見ることが必要になりました。そういった意味では、与えられた職務の幅は広がっていると思います。
–正社員ではなく、契約社員として入社されたんですよね。なにか理由があるのでしょうか?
私が働いている部署は、正社員は出張も多く、デザイン職でありながらときにはお店のセールの手伝いをすることもあります。しかし、私は「時短勤務」と「出張なし」の働き方を希望していました。正社員と同じ待遇で、「時短勤務」「出張なし」の働き方をさせてもらうのは、他の正社員に申し訳ないし、私自身も居心地が悪くなると思ったので契約社員での入社で納得しています。
この業界は契約社員の場合だと1~2年で契約を切られてしまうことがよくあるのですが、今の会社は契約社員も正社員と同じように腰を据えて仕事をしてほしいという方針なんです。だから、契約社員でも安心して長く働けるので、子育てと仕事をうまく両立できるのではと思いました。
–現在第2子を妊娠中とのことですが、前の会社で産休をとったときとの違いはありましたか?
前の会社とは違って、すでに産休・育休制度がありましたし、職場にも産休・育休をとって働いている人もいたので、その点は安心でしたね。ただ、「転職したばかりなのにお休みすることが申し訳ない」という気持ちにはなりました。それでも、女性が多い職場なので、みなさんが私の体や子育てを気遣ってくれるのがうれしいですね(グラフ:d)。
U29女子へのアドバイス「『やりたいことができないから』という理由だけで転職するのはやめよう」
–では、最後にU29女子にアドバイスをお願いします。
最初に就職した会社は「靴のパターン作りができる職場で働きたい」という思いで入社したのですが、思っていた環境ではないことに不満が募って1年足らずで退社しました。そして、転職した次の会社でも同じような思いに駆られる時期を迎えてしまったんです。でも、そのときに「ここでまた会社を辞めたら、また同じことを繰り返すのでは」と思い、辞めるのを思いとどまりました。それから自分の実力をつけていったところ、その会社で自分がやりたかった仕事も任せてもらえるようになり、結果として現在の会社への転職の道も開かれました。
「今の職場では自分のやりたいことが思うようにできない」ともどかしい思いをしている人も多いと思います。その環境を変えるためには、もちろん転職という道も一つの手。でも、うまく転職できたとしても、次の職場が満足できる環境であるとは限りません。「やりたいことができないから」とか「今の環境が嫌だから」といった理由で、転職しようと考えるのではなく、まずは自分のやりたいことがこの職場では本当にできないのかを見極めることが大事。もしまだ環境を変える余地があるなら、すぐに辞めてしまうのではなく、自分が変わるように努力することからはじめてみましょう。
(大井あゆみ+プレスラボ)