モデルから女優への転身は最近のスタンダードな流れですが、水原さんもゆくゆくは女優を目指していたのですか?
水原さん 「いえ、まったく! だから監督からオファーがあったときは驚きましたね。演技なんて一度もしたことがなかったですから」
ゼロからの挑戦ですよね。演じた緑は主人公のワタナベと恋に落ちるという大事な役どころでしたし、相当、大変だったのでは?
水原さん 「撮影が本当に長くて、永遠に終わらないんじゃないかと思っていましたよ(笑)。役作りなんてしたことがないですから、とにかくモデルの仕事がないときはトラン監督と会って本読みをしたり、コミュニケーションをとるようにしました。監督の演出はすごく細かいのでそれも最初は戸惑いましたね。『ここを見て、次にここを見て、そして台詞を言いながらコップを持って』というように。もちろん、OKなんて全然出なくて、1日1シーンだけしか撮れないことも普通でした。撮影中は毎日逃げ出したかったですよ(笑)」
なぜ、逃げ出さなかったんですか?
水原さん 「逃げ切れなかったんですよ。こんなに大勢の役者さんやスタッフさんが動いている中で、私だけ逃げるなんて不可能ですから(笑)。でも、だからこそ乗り越えられた。私が数え切れないNGを出してもずっと待っていてくれる監督やスタッフさんをはじめ、松山さん(ワタナベ役)の大きい心も支えになりましたし。言うならば、みんながハシゴをかけてくれて壁を乗り越えていった、そんな感じです」
トラン監督との出会いは水原さんにとって大きなものだったんですね。
水原さん 「とても大きかったです。今まで培ったモデルの表現方法を全部つぶして、白に塗り替えられましたから。モデルはいかにカッコよくだったり、スイートだったり、洋服そのものやヴィジュアルなどを美しく見せる、つまり、外面を重視する仕事ですけど役者は内面から出るものが必要とされる。それまで私は『何が素敵で、何がモードで』と外面を飾ることしか考えていなくて『これは違う、それは好きじゃない』と頭でっかちな部分があった。でも、それは自分の主張を通すことで、それ以外の意見を取り入れないようにしようと守りに入っていたんですよね。その殻を割ってくれたのが監督だったし、演技をすることでした」
殻を割られてどう変わりましたか?
水原さん 「頭が柔らかくなったことと、失敗して傷つくことを恐れない、当たって砕けろ精神が芽生えた。だからこそ、自分の気持ちに正直になれるし、強くなった気がします。それはモデルの仕事にもすごく影響していて、演技を経験したことで感情の表現が写真にも出るようになったことは大きな変化でしたね。言い方は悪いかもしれませんが、女優という肩書を使ったことで憧れのフォトグラファーに撮ってもらえたり、海外の有名スタッフと仕事ができたりして、モデルとしての経験の幅も広がりましたし」
その話を聞くと、やはり水原さんは「モデル」なんですね。
水原さん 「モデルの仕事はエンドレスに楽しい。最近は自分を押し出すタレント性の強いモデルも多いですけど、私はクレイジーにもエレガンスにもなれる、求められたカラーに染まれるモデルになりたいんです。私の中でモデルの仕事は、例えるならダンスを踊っているときのような感じで、気持ちよく自分を表現できるストレスフリーな状態。でも、まだ女優は0歳なので、何をやるにも緊張するし考え込んでしまう。それに1日1シーンしか撮影できない役者なんて、テレビドラマじゃありえないでしょうから、私はまだ女優ではないんです」
今回演じた緑は、ほかに好きな女性がいる男を待ち続けますが、水原さん自身はそんな恋愛をどう思いますか?
水原さん 「ありえません!(即答)。自分のほかに好きな人がいる男性なんて許せない。恋愛って好きな人のことを想像しているだけで心が満たされるじゃないですか。そして彼が“こんなことがあってね”なんて話してくれたり、私を頼りにしてくれたときが本当に幸せ。愛はお互いがお互いに向き合ってないと。なんて強く言いましたが、私、恋愛が本当に下手で…。だから、緑のワガママなんだけど忍耐強さも持ち合わせている部分は学ばないといけないかなと、思ったりもします(笑)」