緒川さんは、あまり私生活や生い立ちが見えにくい方、というイメージがあるのですが、昔を振り返るとどんな子どもでした?
諮さん 「これは今でも変わらないのですが、好き嫌いの激しい子どもでしたね。好きなものにしか丁寧になれない。でも、好きなことばかりやっていると“ダメな子”だと思われるのも子どもなりにわかっていましたから、その辺のさじ加減が難しいなぁ、と思いながら大人になりました(笑)。でも、大人になると、自分が何が好きで、何に一生懸命になれるかが明確なことが、生きる上で重要と気づきましたね。そうやって自分をよく理解すれば、好きなことを活かせる仕事に就けたりするだろうなと」
それで緒川さんは自分を理解して、女優という仕事に就いた…。
諮さん 「この仕事に就いたものの、ずっと向いていないと思いながらやってきましたね。すごい人見知りでしたし一人でいることが大好きでしたから、大勢の人と関わりながら足並みをそろえて何かを一緒にすることが重荷に思えてしまって。でも、その半面、与えられた役に対して、想像したり空想したりすることはとても好きでしたから、プラスとマイナスとバランスをとりながら、今までなんとか続けてこられたという感じです。でも、これぐらいの年齢に差し掛かると、経験上マイナスの部分に対して体当たりで頑張っても、あまり良いことがないとわかるから(笑)、そーっと臨もうとか、当たり方を工夫するようになって楽にはなりましたね。それでも、もう続かないかなぁ、と思ったこともありましたけど」
それは、役者を続けたくないということですか?
諮さん 「“やる気がなくて続かない”という意味ではなくて、仕事の仕方ですね。私、そんなにたくさんの仕事をこなしてきたわけではないんです。がむしゃらに何でもやってきたという感じではなく自分にできる範囲…つまり、ごく狭い範囲からジワジワ広げていく仕事のやり方しか性格的にできなくて。でも、もっと根をつめてお仕事されている方もたくさんいる中で、こんなゆっくりとした仕事の仕方だと、この世界では続かないだろうなと思ったんですね。それがちょうど30歳ぐらいのとき」
でも、それから9年経った今も女優を続けてらっしゃいますよね。
諮さん 「舞台と出会ったことが大きいのかもしれません。それまでトークショウとか生放送とか、人前に出る仕事は苦手だったので舞台なんかとんでもない!と思っていたのですが、いざ稽古に入るとひとつひとつ積み重ねていく工程に魅せられたのと、健全さに救われたんです。初舞台では、いのうえひでのりさんが演出家だったのですが、とても細やかに指導してくださって、舞台への恐怖心を取り除いてくれた。自分の中の蓋を取ってもらった気がしましたね。それから舞台に立つだけでなく、よく観に行くようにもなって。私劇場や演目、演出家の違いによっていろいろな面を見せる役者に対して“同業の目”というより、いちファンになってしまうんですよ(笑)。でもその感情はすごく心が健全になるし、健康的な気持ちになる。だから舞台は私にとって精神を安定させる場所なんです」
そして、また『黒い十人の女〜version100℃〜』で舞台にあがりますね。市川崑監督映画の舞台化ですが、緒川さんは生前の監督とお仕事をされているんですよね。
諮さん 「はい。PVを撮影していただいたのと『娘の結婚』というドラマでお会いしていて、崑監督の呼吸間やお好きでいらっしゃる世界観を肌で感じられたのは貴重な経験でした。私のこと“たまきさん”と言ってくださって『僕、たまきさんにやってほしい役があるんだ』なんておっしゃってくださってたんですけど、叶わなくて。だから、今回、聖域に踏み込むようで緊張しているのですが、そのまま舞台化するわけではないので、新しいものに取り組んでいる気持ちもある。このカンパニーならではの作品になればと思っています。そして舞台は青山円形劇場!」
360度客席の円形舞台ですよね。
諮さん 「円形はもう、好き!大好き!(満面の笑み)。お客さんが近すぎると言われる方もいますが、逆に私はそれがうれしくて。初めて円形の舞台に立ったときは、お客さまが私と一緒に舞台の空気を担ってくれている気がして、なんて頼もしいんだろうと思わず目の前にいるお客さんの膝に手を置きたいぐらい(笑)。だから、今回も『もっとそばにいらっしゃって、頼りにしているから』…と言いたいところですが、あまりお客さんに甘えすぎてもいけませんね(笑)」