今回、主人公を演じた倫子は25歳で田舎へ戻り、心機一転「かたつむり食堂」を開店させますが、柴咲さんが心機一転した年はありますか。
柴咲さん「私の場合は19歳と25歳がポイントでしたね。19歳は厄年ということもあって、身内に死があったりと辛い時期だったけど、そこからいろんなことが動き出して、仕事がうまくいき始めた勢いのある年、辛いものがエネルギーに変わる年でした。25歳は初めてライブをした年で、たった2日間でしたけど、今まで築き上げてきたものが自信になって、きちんと表現することに手を伸ばせた年ですね」
歌手活動を始めて4年後に初ライブをしたんですよね。随分、時間がかかったように思いますが。
柴咲さん「歌手活動を始めたきっかけがラジオの企画で、歌詞も公募で決めるというものだったんです。歌を歌うことは素敵なことだと思ったけど、どうもやらされている感が大きくてスローペースになっていましたね。あとは、人前で歌うことに抵抗感があったのも理由のひとつ。それまでドラマや映画で映像には慣れていたけど、舞台に立ったことがなかったので、直に人から見られるのが恥ずかしかったんですよ。でも、やってみたら、なんて素敵な場所なんだ!と。CDを作ることは、キレイに仕上がった完璧な状態で聞いてもらうひとつの形であって、ライブは表現そのものだと感じたんです。そして、表現することが自分にとって一番大事なことだとも併せて気付きましたね」
その気付きによって、柴咲さん自身が変わったことは?
柴咲さん「虚勢を張らなくなったし、自分を大きく見せなくなった。前々から人に対して壁を作るところがあったんですけど、それは意味のないことだとわかったので」
なぜ、壁が崩れたのでしょう?
柴咲さん「だって、舞台に生で立ったら虚勢を張っていてもバレちゃいますから。もちろんハートマークな瞳で見てくれている女の子もいますけど、冷静な目で見ている人は見ているし。そんなお客さんたちを目の当たりにして、壁を作ったり、カッコつけたりしたら、そっちのほうが恥ずかしい。ステージの上で丸裸になっちゃいましたね。まぁ、寝るときに下着をつけるかつけないかみたいなもんです。慣れると何もつけないほうがラク…みたいな(笑)」
倫子が開いた食堂は「美味しいものを食べてほしい」という気持ちにあふれていて、食堂=仕事とは思っていない感じがするんですが、柴咲さんにとっては女優=仕事だと思いますか?
柴咲さん「お芝居することは仕事だと思っています。芝居はその作品の中で活かされているわけで、監督の持ち物という感じがしますね。自分本位で動けるなら仕事という枠を超えられると思うけど、その中で活かされているのでやっぱり仕事ですよね。歌を歌うことも仕事だけど、詩を書いたり曲の制作をしているときは、ライフワークで仕事は超えていると思います。仕事ってお金を稼ぐこと、つまり生きるための術じゃないですか。でも、詩はお金貰えなくても書いていると思うし、きっと書き続けちゃう」
柴咲さんにとって、仕事を選ぶ基準は何ですか?
柴咲さん「自分の性格に合うかどうかですね。自分のクセや短所、長所をふまえて仕事は選ぶべきだと思います。お給料がいいとか条件がいいからだけで合わないものを選んでも無理が生じる。日々の“気持ちいいな”や“楽しいな”がない仕事は嫌なので。ちなみに私は、ずっと誰かと一緒にいるのが苦手なので、長距離トラックの運転手になりたかったですね。ひとりでいる時間が長いし、きちんとスタートとゴールがあって、荷物を運ぶという目的もはっきりしている。だから、自分には合うと思っていました。仕事を選ぶにしろ、人と付き合うにしろ、自分の性格をわかっていないと周りに迷惑かけますからね。仕事選びに迷っているなら、まずは自己分析を始めることかな」