スペシャルインタビュー

女優 鈴木 杏さん
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すずきあん1987年4月27日生まれ。東京都出身。1996年ドラマ「金田一少年の事件簿」でデビュー。その後、確かな演技力を武器に映画、舞台で活躍し、2003年は映画『Returner』で第26回日本アカデミー賞新人俳優賞と話題賞をダブル受賞する。主な作品に『花とアリス』『吉祥天女』など。
『奇跡の人』
2009年10月23日(金)〜11月8日(日)Bunkamuraシアターコクーン ほか 仙台、名古屋、大阪公演もあり
『奇跡の人』カット
家庭教師、アニー・サリヴァンと三重苦の少女ヘレン・ケラーとの愛と涙の奮闘を描く。サリヴァンとヘレンが繰り広げる壮絶な格闘シーンと奇跡のラストシーンは、観る者の心に新たな感動を呼び起こす。
天才子役から演技派女優へ。着実なステップを踏んできた鈴木杏さん。しかし、仕事を始めて14年、しんどい時期もあったと振り返る。その時期をどう乗り越えたのか、そして、これから、どう進んでいきたいかを聞いてみました。

8歳のとき、ご自身の意思で今の事務所に入ったんですよね。

鈴木さん「ドラマに出たい!と思ったのがきっかけです。両親が映画やドラマが大好きだったので、一緒によく見てたんですよ。それで自分も出たいなと。親は“また、この子変なこと言い出した”と思ったみたいですけど(笑)」

それから10代は仕事ひとすじ、というイメージですね。

鈴木さん「そうですね。幼いながらに仕事だからきちんとやらなきゃ、と思いつつも楽しいからやっている、という気持ちが大半でしたね。毎回出会う作品が違うから、常に新鮮だし飽きない。それまでに自分が演じたことのない役や、表現したことのなかった感情を表現できた瞬間に、すごく強い快感があるんですよ。ただ、子役からのスタートだったんで、常に明るくいい子でいなきゃいけない、という気持ちが強すぎて、デビューして10年ぐらい経ったころ、少しずつキツくなってきたんです。自分で言うのも何ですが、すごく気を使う性格なので、サブカット周りを不快にさせちゃいけないということを常に思っていましたね。例えば、インタビューのときも、自分の言いたいことを伝えても、幼いがために“生意気だ”なんて言われたり。そんな事が続いていたら、溜まった気持ちをどう発散すればいいかわからなくなっちゃったんですよ。外に出るのも嫌になった時期もありましたね」

その時期をどうやって克服したんですか?

鈴木さん「20歳のときにニューヨークへ留学したんですよ。語学勉強が目的だったんですけど、どこかで気持ちをフラットにしたいと思うところもありましたね。それまでの考えた事や、今まで演じてきた作品のイメージとかがニューヨークへ行ってふっきれたんですよ。誰も自分の事を知らない土地で、自分の気持ちを改めて見つめ直したんです。だから、日本に帰って来たときはすごくニュートラルになっていましたね」

留学以降、役者として成長した部分はあったんですか。

鈴木さん「帰国してすぐ『sisters』という舞台をやったんですが、松たか子さんと派手にケンカ…というか対決に近い形で争うシーンで自分でも、今までに聞いたことのない声が出たんですよ。“関係ないでしょ、あんたに”ってセリフなんですが、こういうスイッチが入るんだと新たな発見でしたね。こんなことあるんだなと。でも、どんな作品でも壁には毎回ぶち当たります。当たって打破して、当たって打破して…これの繰り返し。3月に出演した『ムサシ』の舞台稽古のときは、演出家の蜷川さんに、かなりキツイダメ出しをされて本当にへこみましたね。もう稽古場に行きたくないなんて思っていたら、起きられなくてまんまと遅刻しちゃったり。でも、逃げられないですからね。公演日は決まっているし、チケット買ってくれているお客さんがいるし…。このときは、きちんと狂言を習いに行ったり、常に発声をしたりと、練習して練習して徐々に役柄へ近付いていけるように努力しましたね。結果、蜷川さんから何も言われなくなったから、とりあえず最低のラインは超えたんだろうなとは思うけど、あくまで最低のラインでしかないですからね。厳しい目で見れば見るほど、結局、自分の演技に満足いったという瞬間はないですね。でも、前の作品の自分を確実に越えていかないと、次に続かないというすごくはっきりした仕事なんで」

これから、鈴木さんが越えなければいけない作品はどんなものでしょう?

鈴木さん「この秋に『奇跡の人』という舞台でアニー・サリヴァンを演じます。この作品は、6年前にヘレン・ケラー役として出演したのですが、今回は教えられる役から教える役として舞台にあがるんですよ。サリヴァンが実際にヘレンに出会ったのは20歳のころ。今の私の年齢とも近いし、彼女の生き方や人物像は興味深いので、すごく楽しみでもサブカットあります。ヘレンに言葉を教え、伝えていく事と同様に、私も舞台からサリヴァンとして、お客さんにどう伝えるかが課題になってくるかなと思っています。6年前に初舞台を踏んだ作品に再び別の役で戻って来たことは“もう一歩前に進め”って言われているような気がするんですよね。だから、今回も壁にぶち当たると思うけど、進んでみようと思うんです」

インタビュー・文/中屋麻依子、撮影/新見和美、デザイン/河村俊子