スペシャルインタビュー

女優 麻生久美子さん
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profile
あそうくみこ●1978年6月17日生まれ、千葉県出身。10代より芸能活動を行い、1998年に映画『カンゾー先生』でヒロインに抜擢。この作品で第22回日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞を受賞するほか、数々の賞を受け注目を集める。その後も精力的に映画出演を続け、2007年には『夕凪の街 桜の国』で第50回ブルーリボン賞・主演女優賞を受賞し女優としての確固たる地位を築く。ドラマ「時効警察」ではコミカルな演技を披露し幅広いファン層を獲得した。
『おと・な・り』
2009年5月16日より恵比寿ガーデンシネマ、梅田ガーデンシネマ伏見ミリオン座、シネ・リーブル神戸 先行上映、 5月30日より全国順次公開
映画カット
©2009 J Storm Inc.
あらすじ
人気モデルの専属カメラマンとして忙しい日々を送る聡(岡田准一)と、フラワーデザイナーを目指し花屋でアルバイトをする七緒(麻生久美子)。古いアパートの隣同士に住む2人は、顔を合わせたことはないが、壁越しに聞こえてくるお互いの生活音に安らぎを感じ、惹かれるようになっていく…。美しい映像の中、30歳を迎える2人の仕事への思いや気持ちの揺れ方がリアルに描かれる。
公式サイト
http://www.oto-na-ri.com/
コミカルからシリアスまで、その豊かな演技力で様々なジャンルの映画に登場する麻生久美子さん。今回、『おと・な・り』で30歳という節目を迎え、仕事や恋に悩みを抱える等身大の女性を演じた彼女に、ご自身の仕事観を伺ってみました。
今回演じた七緒はフラワーデザイナーを目指す30歳の女の子。まさに、麻生さんと同世代ですよね。

麻生さん「そうなんですよ。だから自分と重なる部分がわりと多くて。七緒は花屋でアルバイトをしながら、フラワーデザイナーになろうと資格を取ったり、留学しようと仕事で前向きに頑張っている女の子。私も10代から仕事を頑張ってきたので、悩む部分とかすごくわかりますね。20代ってけっこう、頑張るじゃないですか。ここで走らないと、いつ走るんだって感じで。でも、30歳を迎えて、ふと走ってきた速度をゆるめる瞬間があるんですよ。その瞬間が、この映画には描かれていると思いますね」

20代で走ってきて、つまずいたこともありますか?

麻生さん「えぇ、何度も(笑)。もう、自分の演技を見たくないって思う程、落ち込んだときもありました。それも誰かに怒られたとか、大きな失敗をしたとか、そんな決定的なきっかけがあってドーンと落ち込むんじゃなくて、じわりじわりと落ちていくんです。でも、それってすごくリアルな感情ですよね」

どうやって克服したんですか?

麻生さん「落ちている原因が仕事なので、結局、仕事に救われたんです。それ以外のことで解決なんてできないと思うし。仕事をしている自分が嫌で落ち込んでいたわけですから、仕事をしている自分を好きにならないと解決はできないんですよ。そこを無視したら、ずーっと落ちたままだから、なぜ今、仕事が嫌なのかを一回直視して乗り越えたほうがいいんですよね。ちなみに、私が克服したきっかけは、いい作品に出会えて、きちんと向きあえたこと。これで克服しました」

パンフレットの中で麻生さんが七緒の事を「恋愛に逃げ込まず夢に向かっている人」と言っていますが、恋愛を逃げと考えたことも?

麻生さん「あります。だって楽じゃないですか(笑)。仕事がうまくいかなかったときに、これで結婚して子どもができたら、仕事をやらなくたっていいんだ!なんて思ってしまったことがあって。辛い状況の中だと恋愛という選択肢を増やすことで、逃げ道を作ろうとしていたんだと思います。本当に恋愛の道1本で行くならいいんですけど、本心は仕事をしたいのに、辛い状況から逃れるために言い訳で恋愛を出すのは逃げだなって。でも、七緒みたいに夢のために恋愛は後回し、というのも、それはそれでもったいないなと。今の歳の今の自分は二度とやってこないじゃないですか。それなら、仕事も恋愛も、両方欲張って生きていくのがイイんじゃないかなって」

麻生さんも、七緒も好きな仕事を長く続けている女性ですが、見つけるコツって何でしょう?

麻生さん「見つけるコツは案外、思い込み? “これ向いているかも”って少しでも思ったら“絶対向いている”って自分に言い聞かせてみる(笑)。まぁ、私が思い込みが激しい性格というのもあるんですけど、それぐらい自分で自分を持っていく力や、勢いがあるほうがうまくいくんじゃないかと思います。なんて、今はこんなふうに前向きな考えができるんですけど、昔はネガティブですぐ後ろ向きな事を考えていました。でも、仕事をするうちに、多くの人と出会って徐々に考え方が変わりました。自分自身がオトナになってきたんだと思います」

この映画は「音」がテーマになっていますが、好きな音はありますか?

麻生さん「そうですね、家の中で誰かがいるってわかる音ですね。人がいる気配の音。例えば、本をめくる音だったり、扉が開く音だったり。安心感と幸せを運んでくれる音だと思いますね」

インタビュー・文/中屋麻依子、撮影/早坂卓也、デザイン/河村俊子