『森崎書店の日々』で古書店で働く女性を演じていますよね。古書店の仕事はお客さんを待つ「待ちの仕事」だと思うのですが、役者は自分が動く「攻めの仕事」。菊池さんご自身の仕事のスタンスは「待ち」と「攻め」のどちらですか?
菊池さん 「『待ち』ですね。待つという行為はすごくネガティブな印象に捉えられがちですが、待っていればいい仕事や人に出会えることもあると最近、感じたんです。攻めていた時期は、待つことは弱気でいい状態ではないと思っていましたが、自分がきちんと軸を持っていれば、いい風が入ってくるんですよね。だから、つかみに行くより、いい風が入ってきたときに、それをしっかり感じられることが大切かなと。この映画のお話がまさにいい風でしたね」
どの辺りに“いい風”が吹いたと感じたのでしょう。
菊池さん 「脚本を読んだときに、すごく作品に引き込まれて、主人公の貴子に入っていけたんです。こんなことはめったにないと思いましたし、そう思った作品で初めて主演をやらせていただけるなんて、本当によい仕事と出会えたなと」
劇中で古書店を営む叔父が「この仕事は天職」だと言い、それを聞いた菊池さん演じる貴子がすごく羨ましがるシーンがありましたが、菊池さんにとって今の仕事は天職だと思いますか。
菊池さん 「ズバリ、天職です!と思うことはないですけど、今、自分が心地良い状態で仕事ができているので、結果的には天職なのかな、と思ったりもします。自分の性格にぴったりの仕事をしよう、と意気込むことがなかったので、ぼんやりそう感じるだけですが。もちろん“自分がやりたいこと”を模索して葛藤していた時期もありますけど、性格的に今いる場所から、いきなり大きく抜け出すということは無理だろうとわかっているので、今は流れる風に身を任せています(笑)」
葛藤していた時期はいつ?
菊池さん 「大学卒業時の22歳のときですね。17歳からモデルの仕事を始めていたので、このころは仕事にも慣れて自分がこの先、何がやりたいかを模索していたんです。大学では建築や都市研究の勉強をしていて、そっちの道へ進もうかと就職活動もしました。建築関係の会社で面接しているときに、人事の方に自分の現状を話したら『モデルを辞めると今すぐ決めなくても、別の仕事がしたくなったら、そのときに働けばいいんじゃない』とアドバイスをいただいて。面接というか、完全に人生相談ですよね(笑)。でも、その言葉で、卒業だから進路をかためなくてはと力んで考えていたんだなと気付き、自分のペースでモデルの仕事を続けてもいいのかなと思ったんです。その会社からは内定をいただいたんですが、結局、断ってしまいました」
10年以上、同じ仕事を続けていると、仕事に対して不平や不満も出てくると思いますが、気持ちはどう切り替えていますか。
菊池さん 「不満を持つときは、周りに対して“なんでこんな状況なの”と外に対して負の気持ちを持ちがちですけど、自分に原因があると思うようにしています。例えば、この仕事は合わないな、と思ったとしても仕事内容に不満を持つのではなく、自分の現状がそういう仕事を呼んでしまうんだろうと。自分が言った不満は自分に跳ね返ってくると思っているので、不満が出そうなときは、まず自分を見直しますね」
最後に、撮影時は古書漬けだった菊池さんの読書の秋にオススメの本を教えてください。
菊池さん 「岡本信也さんと岡本靖子さん夫妻が書いた『超日常観察記』は常に読んでいる本ですね。街に無造作に置かれた空き缶など街でよく見る風景を観察して、人の動きの痕跡をイラストで描いているんですが、これを読んで街に出ると、まったく見る目が変わりますよ。普段は通勤でしか通らない道も輝いてきます!ってだいぶマニアックな本ですが、すごくオススメです(笑)」