桐谷さんの映画デビューは井筒和幸監督の作品ですよね?
桐谷さん 「9年前に『ゲロッパ』という作品に出演したんです。当時は"ド"が三つつくぐらいのド新人で、オーディションを喫茶店でしたんですが、その日、海外から帰国したばかり井筒さんの第一声は『めんどくさいけど来たわ』でしたね。ウワッ、オレ、めんどくさい言われてる!みたいな(笑)。そこで、ガチガチに緊張しながらオーディションというか、ほとんど世間話をしていたんですけど、最後に『兄ちゃん、どうやったら俺にいいふうに見られて、オーディションに受かるか分からんやろ』と言われて。『そーなんですよ!カッコつけたらええか、自分のまんまでおったらええんか分かんないんです!!』って、その時だけ桐谷健太まんまになったんです。そうしたら『頑張りや』と言いながら店を出ていかれて、こりゃ絶対落ちたなと…。でも、二週間後に合格の電話があって、ほんま驚きましたね」
演技をして受かったわけではなく"まんま"で合格したと。
桐谷さん 「井筒さんって、そういう方なんです、きっと。だから、その後、井筒さんの作品ではおもしろ担当みたいなところがありました。本番前に『健太、おもろいことやれ』と言われ、それが面白くないと『おもろない』とバッサリ。でも、いいものができると『ええがな』とニッコリ。この言葉が何より嬉しくて、もっと言われたくて、絶対言わせたくて…それが原動力になっているところがあります。役者がこんなこと言うのもどうかと思いますけど、褒められたいんですよ、井筒さんには。『ようやったな、ええがな』と言われ続けたい」
でも、今回演じた野田は"おもしろ担当"ではないですよね?
桐谷さん 「今回、井筒さんに言われたのは『健太、リアルにやってな』でした。金塊強奪を目論む仲間たちの中で、僕が演じた野田は唯一、普通のサラリーマンで、どんどんエスカレートしていく強奪作戦に恐怖心を抱く普通の感覚を持ち合わせている男。だからこそ、個性の強い仲間たちの中でスパイスとなる役です。こういう役を僕にくれたことは本当に嬉しかったし、今までとは違う何かを求められたと感じました」
それは、役者としてステップアップしたことを認められたからこそではないでしょうか。
桐谷さん 「『ゲロッパ』では出番も多く注目されるような役をいただいたんですが、その後『パッチギ』は、若かったせいもあって、出番少なッ!と思う役柄ですごく悔しかったんですよ(笑)。だからこそ、アドリブをどんどん入れて自分が目立つように仕掛けていった。でも、今回はそうではなく、きちんと出番があって、人物像が出来上がっていて、アドリブでなくリアルを求められる役を与えられたんです。これはいち役者として任せられたと感じました。それが、認められたことに繋がるのであれば、こんなに嬉しいことはありません」
役者の世界に入って10年目に大きな自信につながったのではないですか?
桐谷さん 「ただ、ここで終わりではなくて、もっと演じることをつきつめて驚かせたいんですよ。そして、井筒さんの映画で主役を張るのは僕の夢です。正直、いけるんちゃうかな、と思っているんですが(笑)。それは自分がこのまま演技をつきつめて伸ばしていく気持ちを忘れなければですけど。でも、その自信があるからこそ夢は叶うと思っています」