“歌う看護師”として2つの夢を実現した瀬川あやかさん「自分の曲で元気を届けたい!」

2017年03月09日

憧れのお仕事のリアルに迫る!輝く女子のワークスタイル
看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

2015年6月にメジャーデビューをしてから、「歌う看護師」として活動する“せがあや”こと、瀬川あやかさん。看護師とシンガーソングライターという2つの職業で活躍されていますが、一体どのように両立させているのでしょうか。不安や葛藤を乗り越え、2つの夢を同時に叶えた瀬川さんに、仕事への想いをうかがいました。

 

全く違う世界、というわけではない「音楽」と「医療」

幼い頃から、看護師と歌手どちらにも憧れていたのでしょうか?

5歳のときからピアノをやっていて、その頃から歌手になることを夢見ていました。その一方で、看護師をしていた母の姿に憧れを抱き、看護師もいいなぁって思っていたんです。でも、当時は北海道の富良野に住んでいたので、「歌手になりたい」と言うと、みんなに「こんな田舎で、なれるわけがないよ」って笑われるばかりで。自分でもそうだよなぁって思ううちに、だんだんと表向きの夢は看護師で、歌手は心の奥に秘めた裏の夢になっていきました。

次第に、自分の将来を考えるときには看護師になろうと思うようになって、高校卒業後には、看護系の大学に入学するために上京しました。なんですが、1年生のときに、大学のミスキャンパスコンテストで思いがけなく準優勝して、芸能事務所にスカウトされたんです。

田舎から出てきたばかりだったので、「東京ってすごい! 本当にこんなことあるんだ!」と、びっくりしましたね(笑)。そのとき、自分が歌手になりたいとも思っていることを打ち明けて、事務所の方にお願いして、ボイストレーニングを受けることに。夢に向けての助走を始めました。

全く違うように思える看護師と歌手というお仕事。なぜ、両立しようと思ったのですか?

私も、180度違う世界だから、職業としてはどちらか一方しか選べないのが当たり前だと思っていました。それが変わったのは、大学3年の看護実習で病院に行ったとき。ご家族の名前も言えない状態の認知症の患者さんが、「好きな曲は?」と聞くと、「ソーラン節」と言うんです。「じゃあ、私が歌うので、体を動かしてみましょうか」と歌ってみたら、「動けない」と言っていたのに、むくっと起き上がって、一緒にソーラン節を歌うんですよ。

それを見て、「音楽って医療の現場でも生きるんだな」「音楽と医療は全く違うものではないのかも」と、思ったんです。それからは、この2つの仕事を両立させるにはどうしたらいいのか……、ということばかり考えるようになりました。

看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

音楽と医療の繋がりを感じてからは、迷うことなく2つの夢を追い続けてきたという瀬川さん

大学のご友人たちとは違う道に進むことに、迷いや恐れはありませんでしたか?

もともと性格が欲張りなんだと思います(笑)。看護実習での経験を通して、「自分で曲を書いて元気を届けたい」と思うようになってからは、「二足のわらじで行こう!」という気持ちに、迷いは全くありませんでしたね。

でも、大学の友達が就職活動をしている中で、自分1人、何もできない状態なのはちょっとつらかったです。私の場合、音楽活動と両立するために、夜勤がない病院であることが必須条件でした。でも、そういう条件が叶うのは小さな病院だけ。国立病院などの大きな病院とは違って、小さな病院は看護師資格を取得してからでないと、つまり、大学を卒業する頃でないと応募すらできないことが多いんですね。

そんな風にもんもんとしていた時期、大学の先生が、「あなたの選んだことは、間違っていないと思うよ」と、さらりと言ってくださったんです。「やってみないと分からないこともあるから、まずはやってみることが大事」「大学で学んだことは、どんな人生においても瀬川さんの中で絶対生きてくるはず」と言われて、背中を押された気がしました。

実は、その頃まで、看護師と音楽活動を両立したいと、周囲の友人にもはっきりとは言っていなかったんです。就職活動をがんばっている友人たちの前では言いづらくて。

でも、先生にその言葉をいただいてから、友達にも打ち明けてみると、意外にもみんな「すごいね」とか「夢が見つかってうらやましい」って理解してくれたんです。ライブに来て、「あやかの歌に勇気づけられた」って言ってくれる友達もいました。
両親からも全く反対されませんでしたし、私が意志を貫いてこられたのは、周囲に恵まれていたことがとても大きいと思います。

 

看護師の仕事も曲作りの原動力に

現在は、2つの仕事をどのように両立しているのでしょうか?

大学を卒業した2015年3月、看護師資格を取得してから就職活動を始め、都内の病院に無事就職が決まりました。5月からは内科で外来看護師として勤務、そして翌年の2016年6月には、シンガーソングライターとしてメジャーデビューしました。

実は、今日もこのインタビューの前に、看護師の仕事をしてきているんですよ。働き方はその日によって違いますが、今はだいたい午前中は看護師、午後からはシンガーソングライターというスケジュールで働いています。ライブは年間で50本くらいやっているので、両立が大変な時期もありますが、勤務先の病院が惜しみなく協力や応援をしてくれるので、本当にありがたいです。

看護師のときの自分とシンガーソングライターのときの自分は、あまり変わらないと思いますが、意識として違うのは「発信者か」「受信者か」という点です。看護師は、受け止めることのほうが大事だと思うんです。一方、歌は、自分の内側のものをはき出していることも多いです。もしかすると、そういう違いがあることが、上手く両立できている理由のひとつなのかもしれません。

看護師もシンガーソングライターも、とてもエネルギーが必要な仕事。体力的にも精神的にも大変なのでは?

そうですね。特に曲をリリースする時期は忙しくなります。ライブのために日帰りで大阪に行って、翌日午前中は病院、そのあと午後にまたライブで北海道に飛び、次の朝からまた病院……なんてこともありました。

でも、好きなことをやっているので、体力的にはふんばりがききますね。どちらかというと、精神的につらいときのほうが多いと思います。看護師としてもシンガーソングライターとしてもまだまだ未熟なので、どうやったらもっとスキルアップできるんだろうか? と悩み出すと、止まらなくなりますね。

曲作りに割ける時間が限られているので、もどかしく感じることもあります。例えば、夜中に「何かいい曲が書けそう」と思っても、翌朝から病院勤務があれば、眠らないと体力が持たない。仕方なく眠りについて、朝、キーボードを恨めしそうに見ながら出勤ということもあります(笑)。

でも、そんなふうに「今日は曲作りをしたいな」と思うときも、ナース服を着ると不思議とシャキッとして切り替わるんですよ。患者さんとお話をすると、逆に元気をもらったりして、「ああ、やっぱり看護師ってすばらしい!」って思えるんです。

看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

アコースティックギターは、ライブパフォーマンスをもっと楽しんでもらうために始めたんだとか。「エレキギターもやってみたいです!」

2つの夢を両立させてよかったと思っていますか?

どちらも幼い頃から夢見ていた仕事なので、毎日楽しく充実していて、本当によかったと思っています。
それに、看護師とシンガーソングライターという2つの仕事が、いい相乗効果を生んでいるとも思います。看護師は人とふれあい、ときに真っ正面から向き合う仕事なので、心を揺さぶられるような出来事がたくさんあり、曲作りの原動力にもなっているんです。

3月15日にリリースするアルバムに「未熟なうた」という楽曲が入っているんですけど、その歌詞に「誰かの明日の辛さを少し変えてほしい」というフレーズがあります。病気も痛みも悩みも、その場ですぐにゼロにすることは難しい。でも、音楽で少しでも軽くできたら……という気持ちを込めました。

こうしたことを伝えたいと思ったのも、看護師という仕事を経験したからだと思います。音楽を医療の現場に直接的に活かせる機会はまだありませんが、医療では治せない部分を歌が補完できることもあるのかなぁと。今後も「この曲を聴くと元気になるんだよね」と思ってもらえる、心の薬のような曲が作れたらうれしいですね。

3月15日(水)にリリースされるファーストアルバム「SegaWanderful」

 

ポジティブの秘訣は、ネガティブに向き合うこと

10年後は、どうなっていると思いますか?

看護師という仕事も、シンガーソングライターという仕事も、私にとってはとても大事なものなので、これからもできるかぎり両立していきたいと思っています。

それから、10年で叶えられるか分からないんですけど、だれもが知っているようなヒット曲を出すことが目標です。将来は、老人ホームや養護施設、孤児院などに足を運んで、気持ちを直接届けていきたいなと思っているんですが、やっぱり有名なアーティストが来てくれたほうがうれしいじゃないですか(笑)。だから、それを実現させるためにも、シンガーとしてもっと成長していきたいなと思っています。

悩み多きU29女子にメッセージをお願いします。

私はまだ24歳なので、そんなに偉そうなことは言えませんが……。
私が作る曲は、基本的にはポップなんですけど、歌詞の一部をよく聴くと、すごく暗い部分があったりするんです。私はポジティブな性格に見られがちですが、実は、結構ネガティブな人間で(笑)。

でも、「ポジティブの秘訣は、ネガティブに向き合うこと」だと思っているんですよ。臭いものにフタをしても、いつかは開けなくちゃいけない。だから勇気をもって、それに向き合って、一度完全に落ち切ってみる。これ以上ないところまで落ち込むと、「もうあとはやるしかない!」って、力が湧いてくるんです。

落ち込むことや悩むことってマイナスイメージがあるけど、それを乗り越えないと、自分自身も説得できないし、ましてや人を納得させるような曲は作れないと思っています。

つらいときも悲しいときも楽しいときも、自分の一番そばにいるのは自分自身。私もそうですけれど、「自信がない」とか「私はダメだ」とか思いがちですが、自分をもっと信じてみていいんじゃないかと思います。考え抜いて決めたことは、まずやってみること。それが大事なんだと思います。

看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

透き通るような歌声と、ポップなメロディに乗せたポジティブなメッセージで、多くのファンの心を掴む瀬川さん。明るく前向きなイメージがあるが、「実はネガティブ人間なんです(笑)」

 

看護師 兼 シンガーソングライター 瀬川あやかさん

瀬川あやか
1992年生まれ。北海道富良野市出身。看護師兼シンガーソングライター。2015年4月から都内の病院で勤務しつつ、2016年6月には「夢日和」でメジャーデビュー。現在は、看護師ながら、アコースティックギターとキーボードで弾き語りをするライブを、年間50本以上こなす。3月15日には、ファーストアルバム「SegaWanderful」をリリースする。

(インタビュー/高山和佳 構成/風来堂 撮影/清水信吾)