甘くておいしいフルーツトマトを生産する農業女子「農業は女性が輝ける職場!!」

2017年04月17日

意外な業界・職種で活躍! イマドキ女子の多様なワークスタイル
ドロップファーム代表 三浦綾佳さん

フルーツトマトを生産する三浦綾佳さん

最先端の農法で、ほかにはない高品質のフルーツトマトを生産するドロップファームの代表・三浦綾佳さん。異業種を経て、農業女子となった三浦さんに、子育て世代にもぴったりだという、農業のやりがいや仕事のおもしろさをうかがいました。

 

糖度10度以上のブランドトマトを作る農法との出会い

農業を始めようと思ったきっかけを教えてください。

実は、ドロップファームは、「株式会社ドロップ」という会社で、もともとは広告代理店として設立したんです。短大卒業後、広島で販売やイベントなどの仕事に携わっていたのですが、その頃に広告代理店で働いていた今の夫と出会い、「一緒に何かやろう」ということになって。それで、結婚して東京に移り住み、広告代理店を立ち上げました。

その広告代理店の仕事で、農業のICT(情報通信技術)化や、男女共同参画について関わる機会があったんですね。

そのとき、現在の農業はデータ化が進んでいることに驚くと同時に、「女性が活躍する場を!」とたくさん耳にするも、現代社会ではまだまだ出産後の女性は働きにくい、ということを改めて感じたんです。でも、こんなにも効率化されている農業なら、ママたちの働きにくさを解消できるんじゃないか……。2つの現状を考え合わせて、そんなことをぼんやりと思うようになりました。

その後、自分も妊娠、出産。広告代理店の仕事は、妊娠中の体調の悪さを抱えながらの作業だったり、出産後は子どもが泣けば仕事の電話もできず……という日々が続き、子育てと仕事の両立に悩むように。

そんななか、テレビでアイメックという農法があることを知ったんです。通常トマトの糖度は高くても8度ぐらいなんですが、この農法なら、やり方によっては糖度が10度以上のトマトができる。しかもシステム化されているので、未経験者でも1年目から甘いトマトが作れるというんです。

「なんてすごい農法なんだ!」と思い、ちょっとトマトの市場調査をしてみたんですが、そもそもトマトの売り場って野菜売り場の中で一番広くて、目立つところにあるんですね。

高糖度のトマトなら高単価で販売できるはずだし、これならビジネスとしても成り立つかも、とピンときました。収益が安定していれば働く環境も整えられ、私のような出産後の女性がもっと輝ける職場が作れるかもしれない。これはもう、やるしかない!と(笑)。

ロップファーム代表 三浦綾佳さん

アイメックは、ハイドロゲルでできた薄いフィルムを使い、ぎりぎりの水と養分でトマトを育てる農法。「スプーン1杯の水で味が変わってしまうため、デリケートな灌水管理が求められるんです」

出産後1か月で行動に移されたとのこと、その原動力は何だったのでしょうか?

私は、「子育てに専念したい」という気持ちよりも、ずっと仕事を続けたいという気持ちのほうが強かったんです。しかも片手間ではなく、きちんと実績を積んで何かをやり遂げたいという想いがすごくあって。

広告業の前職である販売業で成功体験があったことも大きいと思います。

大学在学中のアルバイトで、販売の仕事に目覚めたのですが、商品のことを知れば知るほど販売力に繋がっていくということが、とにかくおもしろくて、自分には販売業が合っているんだなと。大学では栄養学を学んでいたにもかかわらず、卒業後も、大学の教授の反対を押し切ってアパレルメーカーに就職しました。

そこでプロの接客のノウハウを身につけた後、今度はイベント会社に転職。イベント会社では、太陽光発電や浄水器といった高額な商品の企画営業などに携わりました。こうした仕事を通して、販売やブランディングの知識を身につけていきました。

もちろん、それまで農業との接点もなかったので不安はありましたが。でも、自分には、商品の魅力を理解して伝える能力がある。だから、とにかくおいしいトマトさえ作れば、絶対に売れる! と。すごいポジティブですよね(笑)。

糖度10度以上のブランドトマト

 

女性も働きやすい“新しい農業”のカタチを模索

広告業から農業への移行は、大変だったのではないでしょうか?

農地は、幸いにも夫の叔父・叔母から現在の土地を借りることができ、理想の農地を確保することができました。

ただ、新たに農業を始めるには、水戸市から認定新規就農者に認定されることが必要だったので、この手続きなどで農業を始めるまでに1年ぐらいかかりました。

特に大変だったのは、水戸市に提出する青年等就農計画認定申請書の作成。
いくらシステム化された農法だとはいえ、異業種からの新規就農者が市場の3倍以上の高価なトマトの生産をするなんて、水戸では前例がなく……。

また、認定新規就農者の認定には農業研修が必須。毎日夫と交代で、午前中は農業研修に行き、午後は広告代理店の仕事をし、その合間を縫って青年等就農計画認定申請書を書き……という日々の繰り返しで、正直、心が折れそうになったこともありました。

農業を始めると決めてから今までで一番キツかったのは、この時期ですね。市や県との10回くらいの検討や審査会を重ねて、やっと認定新規就農者に認定されたときは、本当に嬉しかったです。

ドロップファーム代表 三浦綾佳さん

ドロップファームを設立して今年で3年目。現在は、何人のスタッフで農場を運営しているのでしょうか?

正社員が2名、パートが4名です。全員女性で、子育て中の方もいます。

1年目は資金繰りのこともあって、ほとんど夫と2人で切り盛りしていたんですが、これでは新たな販路開拓もできないし、自分たちがやりたい農業のカタチではないなぁと。それで、先行投資で人材育成をしようと、2年目からスタッフを増やしました。

私にとって、女性が働きやすい職場を作ることは、農業を始めた理由の一つ。

ドロップファームでは時間に制約のある女性が働きやすいように就労時間を明確にしてフレックスタイムも採用し、月7日間の休日のほか5日間の夏休みなどの休暇制度も導入しました。有給の積極的な取得も促し、取得率100%を目標に。残業も、基本的にゼロ。作業中にいつでも気兼ねなく行けるように、外にトイレも設置しました。

そんな努力の甲斐あってか、スタッフの定着率は高く、今は25歳の農業チーフに現場を任せられるようにもなりました。スタッフも常に高い情熱をもって仕事に取り組んでくださっているので、おいしい農作物を作ることにも繋がってくると思っています。

だいたいの1日のスケジュールを教えてください。

午前中は、農場で過ごすことが多いですね。農場では、スタッフとのコミュニケーションを大事にしています。いろいろ話を聞いてスタッフの気持ちを知ることが、どうしたら一人ひとりがもっと働きやすくなるかなどのヒントになるんです。

午後からは、スタッフみんなでパック詰めや発送作業。ちょっとの管理ミスや扱い方の違いで味が変わってしまう繊細なトマトなので、品質保持はとても重要です。トマトによってバラつきがでないよう、業務フローを明確にマニュアル化するだけでなく、お客様の喜びの声や、どれぐらい価値のあるトマトなのかをしっかり伝え、トマトへの想いをスタッフと共有するようにしています。

そうして農場の作業をしつつも、会社の運営にも力を入れています。お客様が何を求めているかをいち早く察知して事業を成長させていくためにも、もっと全体を俯瞰して動ける時間を増やす必要がある、とも感じています。

ちなみに夫は取締役として、主に資金面の管理などをしています。私は、「あれやりたい!」「これやりたい!」と急に言い出すタイプなので、それを一歩引いて適切に判断してくれるのが夫。いい役割分担ができていると思います(笑)。

トマトを収穫する三浦綾佳さん

生産しているトマトの中で一番のおすすめは「小鈴」。「糖度が13度になることもあるんですよ。その甘さはイチゴと同じくらいなんです!」

 

甘くておいしいトマトをもっと知ってもらいたい!

農業を始めて良かったと思うことは何ですか?

以前は、クライアントから依頼されたものをプロデュースしたり、販売したりしていましたが、今は自分たちで一から作っているから、全部分かったうえで自信をもって販売できることですね。

「うちのトマトを食べたら、もうほかのは食べられないですよ」と、よく周囲の人にも言うんですけど(笑)、こんなにおいしいトマトをどこで誰に売ろう? とワクワクしながら仕事しているので、楽しくて仕方ありません。

今後は、ドロップファームをどのように成長させていきたいですか?

ありがたいことに非常に売れ行きがよく、注文の方が多くて出荷量が足りていないので、トマトのビニールハウスをもう1棟建てる予定です。

農場を拡大して、もっとたくさんの人にうちのトマトの味を知ってもらい、「甘くておいしいトマト」といえば「ドロップファーム」というイメージを浸透させていきたいなと思っています。将来的には、敷地内にフルーツトマトカフェなんかも作れたらいいですね。また、従業員やお客様が利用できる託児所も検討しています。

それから、自分自身も出産を経験したのでよく分かるのですが、出産後は社会への一歩がなかなか踏み出せないもの。そんな女性に勇気を与えられるような会社になりたいですね。

私も子育てしながら働いて実感しているのが、農業はママたちにおすすめの職業だということ。

子どもが生まれて食への感度が高いママにもぴったりですし、出荷や発送をずらすこともできるのでイメージしているよりも時間的な融通も利きますし。子育て世代でもキャリアアップが目指せる農業という職業に、U29女子の皆さんにも、ぜひ注目してほしいですね。

「フルティカ」「イエローアイコ」「アイコ」「小鈴」とトマトジュース2種類とトマトジャム

「フルティカ」「イエローアイコ」「アイコ」「小鈴」の4種類を生産し、「ドロップファームの美容トマト®」として販売。ほかに加工品として、トマトジュース2種類とトマトジャムも販売

 

株式会社ドロップ代表取締役ドロップファーム代表三浦綾佳さん
三浦綾佳
広島県生まれ。株式会社ドロップ代表取締役ドロップファーム代表。栄養士、日本野菜ソムリエ協会認定・野菜ソムリエプロ。アパレル会社・イベント会社を経て、2013年、夫とともに広告代理店を起業。その後、糖度の高いトマトを作る農法・アイメックに出会い、2015年、水戸に移住し、ドロップファームを開設。

(インタビュー/高山和佳 構成/風来堂 撮影/内山政彦)