「やらなきゃいけないことより、やりたいこと」転職を経てたどり着いたスローライフとは

2016年03月03日

「自分を変えたい」と思ったとき、みなさんはどんな行動を起こしますか?
引っ越してみる、いつもとは違う友だちに会ってみる、職場を変えてみるのも一つの方法かもしれません。でも、転職にはなかなか勇気がいりますよね。
そこで、さまざまな理由で過去に転職をした先輩女性に、一体なにを変えたかったのか、そして転職により、なにが変わったのかを伺います。みなさんの迷いを解決するヒントが見つかるかもしれません。

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都内で定食屋を営む松田さんは、新卒でソフトウェアメーカーに入社。複数の転職を経験したのち、飲み友だちと現在のお店を開いて1年半が経ちます。
前職では企業情報を扱う会社で営業をしていましたが、「給料は上がったけれど、仕事ばかりの暮らしにストレスが溜まっていった」と話す松田さん。定食屋経営というスローライフに転職することになったきっかけや、転職後の生活や気持ちの変化、スローライフのメリットやライフスタイル転換の秘訣を伺います。

【松田さんから学ぶ成功の秘訣】

・ライフスタイル転換のためには、家族の理解があること
・「絶対に成功させなきゃ!」と思わず、うまくいかなくても楽しむこと
・「やらなければいけないこと」より「やりたいこと」を優先すること

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自分の目の届く範囲でお客さんを喜ばせたい

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-さまざまなご職業を経験されていますが、なぜ定食屋に行き着いたのでしょうか?

新卒で入社したソフトウェアメーカーには6年弱いたのですが、以前から食には興味があったのでフードコンサルの会社に移ったんです(グラフ:a)。でもそこが半年経たずに倒産(グラフ:b)。そこからは私設図書館でアルバイトをしたり、コールセンターのマネジメント会社に入ったりと、転々としていました(グラフ:c,d)

前職は企業情報などを扱っている会社で営業職に就いていたのですが、経営状況があまりよくないせいかノルマも厳しかったですし、「小さい会社は相手にするな」といった雰囲気がありました。自分の得意先が困っている姿を目の当たりにしているのに何もできないのがつらくて、「この仕事を続けるくらいだったら、もっと自分の目の届く範囲でお客さんを喜ばせることをしたい」と思ったのが、退職のきっかけでした(グラフ:e)
退職してからすぐに定食屋を始めたわけではなくて、1年ぐらいは自分のお小遣いをアルバイトで稼ぎつつ、気楽に生きていました(グラフ:f)。でも、しばらくして「もうちょっと世の中にプラスとなるようなことをしたい」と考えるようになったのです。当時よく飲んでいた友人と「自分たちが作ったご飯を食べることで、お客さんが嫌なことをちょっとでも気にならなくなったり、いい気分になって帰っていったりするような店を作りたいね」という話で盛り上がって、そのままスタートしました(グラフ:g)

-前職を退職されてから、すぐにお店を始めなかったのはなぜですか?

営業職でノルマに追われ、よく叱られていたせいで、自分に自信がなくなっていたんです…。いまのモチベーションでは転職も難しいと思って、一回休憩しようと決めました。
会社員としてのキャリアアップはブランクがあると難しいとは思いました。しかし、前職のときに結婚して夫がいたこともあり、そこまで金銭的にひっ迫していたわけではなかったので、「辞めたあとにどうしよう」という不安はそんなになかったのもあります。幸いにも夫は私が何度か転職しているのを知っていたし、自分で考えて決めた道に進むぶんには応援してくれるタイプだったので働き方がガラッと変わることになにか言われる…といったこともありませんでしたね。

年収が下がっても、日々の暮らしは理想的なものに

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-飲食店を始めるのに、準備などはかなり大変だったのではないでしょうか?

退職してから1年半後に店をオープンしたのですが、「店をやろう」と決めてからは約半年と、とても短い期間でオープンに至りました。最初は何から手を付ければいいかもわからなかったので、店舗のある世田谷区が主催している創業支援セミナー(新しくお店を出したい人向けに、必要な手続きやその方法を教えてくれる)に参加して、勉強しました。

また、世田谷区は創業支援のための窓口も作っていたので、そこで融資についても勉強しました。どんな料理を出すかは、二人が休みの日に実際に調理をしながら決めて、店舗は不動産屋さんがすぐに見つけてくれたんです。結果、「やってみよう」と思って動いてみたら、追い風が吹いたようにどんどん進んで、あっという間にオープンに至ったので、あまり苦労した記憶はありません。

-店員ではなく経営となるとそれなりの覚悟がいると思うのですが、決意や覚悟はありましたか?

2人とも未経験だったので、うまくいく要素、うまくいかない要素がわからなかったんです。だから試行錯誤するしかないし、失敗しても楽しむつもりで、「出資金がなくなってもしょうがないよね」と言い合っていました。「絶対に失敗したくない!」という思いがなかったことも、ポジティブでいられた理由だと思います。

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-会社員時代と、飲食店経営の現在では一日のスケジュールも異なりますか?

かなり違いますね。OL時代は、6時半に起きて犬の散歩や通勤準備。8時45分には出社して、そこからメールチェック、ミーティング、得意先訪問を2~3件こなして、帰社後に事務作業。22時ごろに帰宅して、夕飯を食べてお風呂に入る。就寝はいつも深夜0時~1時の間でした。

いまは、朝が遅くなって8時半起き。9時半に家を出て、11時ごろに店に着きます。そこからは休憩を挟みつつ23時半までお店を開けて、帰宅は深夜1時ごろ。就寝は2時半ごろになることが多いですね。

就寝時間や勤務時間時間だけを見るとスローライフとはいいにくいかもしれませんが、自分がやりたいと思ったことをやれているので、気持ちの面では伸び伸びと働けています。

-収入が減ることへの不安はありましたか?

年収だけ見れば正直、下がりました。でも「収入が下がってどうしよう」と青ざめることも、それに対する不安もそんなにないですね。過去の転職は収入を上げる目的でもありましたが、稼ぐためだけに生きるのはやっぱり向いていないと気付きました。いまぐらいの収入や生活水準が理想的です。

お金はあるにこしたことはないですが、「もしも収入がなくなったらアルバイトでもすればいいかな」という気持ちがあるんです。寝るところがあって、生活を支えてくれる夫がいたというのも、一つの要因ではあったと思います。

「何をやらなければいけないか」より、「何をやりたいか」が大切

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-いまの仕事を始めてよかったことや、大変だったことを教えてください。

あまりに先のことを考えすぎて心配するとか、「お金がなくなったらどうしよう」などと考えることは減りました。その分、「将来起こるかわからないトラブルばかり心配して、いま自分がやりたいと思うことをないがしろにしたくない」と思うようになりましたね。

嫌だと思ったことはないのですが、大変だと感じている点は、時間が足りないこと。もっとこのお店のためにやりたいことはいっぱいあるんです。でもそこまで手が回らないし、プライベートも放置ぎみになってしまっています。仕事は楽しくてしょうがないのですが、もう少しうまく時間をやりくりしたいとは思っています。

-精神面や私生活での大きな変化はありましたか?

企業に勤めていたときは、「いま何をやらなきゃいけないか」を考えていたのですが、いまは「自分が何をやっていきたいか、どうやっていきたいか」を考えるようになりました。お店を経営する立場になると、待っていてもなにも事態は好転しないので、常に「このお店をどうしよう?」と考える必要があり、そこが楽しくもあります。

-今後のキャリアプランはどのように考えていますか?

「とりあえずやってみよう」と思って始めているので、長期的な目標も特にないんです。ただ、このお店の事業計画を立てるときに「ワークショップを開きたい」「ミニライブを開催したい」と書いたので、そこに書いたことは実現してみたいなと思っています。

U29女子へのアドバイス「自分でやってみて、よかったものだけを選ぶ」

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-最後にU29女子へのアドバイスをお願いします。

みなさんにも憧れているライフスタイルはあると思います。でも、本当にそれは自分が目指したい道なのか、テレビや雑誌などの情報に影響を受け過ぎていないか、もう一度冷静に考えてみることをおすすめします。

そのうえで本当に自分が好きなこと、やりたいことを見つけるために、興味があるものにはどんどん挑戦してみるのがいいかなと思います。自分が実際にやってみて、しっくりきたものを続けていく。そうすれば自分に嘘をつかず、無理をせず、寄り道しないで進むことができるはずです。

 

(カツセマサヒコ/プレスラボ)