転勤族の夫を持つ妻たち「転妻」が自分らしく輝ける場所をつくる ~転妻族協会 代表 奥田美和さんインタビュー~

2015年12月04日

ITコンサルタントであり産業カウンセラーの奥田さん。「転勤族協会〜TKT48〜」のプロデューサーとして全国の転勤族の妻、通称「転妻(てんつま)」を支援する活動をされている彼女だからこそ感じる、転妻のキャリア形成に必要なこととは?

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自身が「転妻」として感じた気持ちや、抱えた悩みが活動のきっかけに

新天地での生活は、慌ただしさや新鮮さによって、最初は孤独などは感じないものですが、引っ越して1カ月が過ぎた頃にふと『今日もまた夫以外の誰とも会話してない』と気がついたんです。そこから色々な悩みが出てきて、誰も知り合いのいない土地で本当にひとりぼっちになったような気持ちでしたね」

奥田さんが結婚した頃は、まだFacebookやTwitterはおろか、ブログもなかったのだ。
「今のようにSNSがあれば、そういったコミュニティに参加して、情報収集や同じ境遇の仲間との交流も容易いのですが、当時はブログすら浸透していませんでした。やっとの思いで転妻の集まる小さなネット掲示板を見つけ、そこで出会った人たちとお茶会を開いたんですが『あぁ、人と喋れることってこんなに幸せなんだ』って感じたんです。そこから、自分のような境遇の転妻の方の何かサポートができればなと思うようになりましたね」

 

キャリアは転勤の度に途切れるものではなく、積み上げられていくもの

転勤先では9回の転職を経験したという奥田さん。
「私がおりましたIT業界はキャリアパスが明確で、プログラマー → SE → サブリーダー → リーダー → プロジェクトマネージャー(PM) → ITコンサルタント、という流れになっています。なので、通常はリーダーをやったあたりでエンジニアとして専門職を極めるか、PMとして管理職を目指すか選択肢が分かれるのですが、ちょうどその頃に転勤をした私は、そのどちらも選択ができませんでした。
最初の転勤先ではSEの求人がなく、タイ・大阪から千葉に戻ってきたときは、専業主婦だったブランクが障壁となったのです。

そんな中で、何とかPCスクールのインストラクターの職に就き、その後はスクールで勉強をしながら、Web制作会社でプログラマーもやりました。インストラクター経験があるおかげでその後、職員研修の講師もなんなくこなせたり、Webサイトを自分一人で作れるようになったりと、「転勤でキャリアが途切れる」というよりはむしろ、転勤ごとにスキルを身につけ、キャリアを積み上げてこられたと思っています。

そんな経験からも、キャリアは転勤の度に途切れるものではなく、積み上げられていくものだと強く感じました」

 

キャリア形成に関する問題点は「ブランク」と「モチベーションの低下」

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「転勤先でキャリアを形成する、つまり『職に就く』には、 “ブランク”そして“モチベーションの低下”という障害があります。転勤先でキャリアを形成する上で、ブランクというのはスキル的な意味合いもありますが、仕事をしていない期間が長くなることで「上手くやっていけるだろうか」「働く自信がない」というような不安が生まれ、モチベーションが低下し、キャリアを形成することに消極的になってしまうのです。

しかし、そうした障害の中で、転勤先での就職が難しい場合にもキャリアを構築するすべはあります。それは、転妻ひとりひとりが復職を意識しながら、小さなことからでも何かアクションを起こそうとすること。つまり目標を掲げて、その達成に向けて、何をすべきかを考える癖をつけるということです。

会社に復帰できない場合においても、もしあなたが何か得意なことがあるのであれば、それを生かした活動を継続し、力を持っておくことで、そのスキルが色あせないばかりか、ブランクになるはずだったその期間を丸々『実績』に変えることもできます。そうした活動をしていく中で、主婦以外のネットワークが広がりますし、自分の役割を明確に持って動くことでキャリア形成に対する『モチベーションの低下』が回避できます」

奥田さんのようにIT業界の専門的なスキルを持っているケースは少ないかもしれません。
そんな場合でも、パートやアルバイト先で積極的に自ら働きかけて業務の改善を推進するなど、ちょっとしたプラスアルファの働きをするだけで、あなた自身の「モチベーション」を保つことはできるのではないでしょうか。

例えば、事務職としての経験があるならば、その資料作成の経験を生かして自ら情報共有のとりまとめを行うべく申し送りノートを作ってみる。販売職としての社員経験があるならば、社員視点でお店に必要なことを考え、同僚のパート、アルバイトスタッフと話し合いの機会を持つなど。

その中身に関わらず、周囲の人を巻き込み、アクションにつなげていくその過程で培われる力こそが、復職を考えたときに、企業の人にとって評価すべき能力になるのではないでしょうか。

 

まとめ

9回もの転職を経験したのにも関わらずSEのキャリアを継続できたのは「転勤族の妻の会」でとりまとめ=リーダーをやっていたおかげだと語る奥田さん。転勤をするごとにスキル、知識を身につけ、次に繋げて行く姿勢が転妻のキャリア形成にとって大切なようです。どんな職種であれ、モチベーションを途切らせないことで、キャリアは断絶されることなくむしろ積み上がっていくのですね。

 

(プロフィール)
奥田美和(おくだみわ)
転勤&ITコンサルタント、産業カウンセラー。海外駐在員の娘(帰国子女)から全国転勤族/タイ駐在員の妻へ。夫の転勤等で6回引越し&9回転職し、大企業から零細企業まで9業界12社、正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイト・個人事業主を経験。2014年から「ワークスタイル・クリエイション」として起業し「女性の新しい働き方」を創出している。
また、1999年から続けている転勤族の妻の支援活動を元に、2014年から【地方創生×女性活躍推進】企画グループ「転勤族協会~TKT48~」(さいたま市市民活動サポートセンター登録団体)主宰。