U29(ユニーク) 女子プロジェクト

フリーランスからキャリアスタートした石倉洋子さんに聞く! 10年先を生き残るマインドアップ術

長く働き続けることは、組織で必要とされ続けること。では、どうすればよい?

数々の企業で社外取締役を務め、経営戦略やグローバル人材育成などのワークショップ、セミナーを手がける石倉洋子さん。

大学卒業後、フリーの通訳者として活躍し、バージニア大学大学院、ハーバード大学大学院で経営学を学び、マッキンゼーに入社。その後も青山学院大学や一橋大学大学院、慶應義塾大学大学院で教鞭をとり、様々な組織に身を置いてこられました。

そんな石倉さんに、組織で長く必要とされるために知っておくべきことをうかがってきました。

 

そもそも、仕事を通して得られるものとは?

50年近いキャリアを重ねてきた石倉さんが「働く」ことで得てきたこと。それは、裏を返せば働き続けてきた理由にも繋がります。

経済的自立があってこその自由

「自分がやりたいことのためには自分でお金を稼がないといけない。経済的自立なしに自由はないと思っています。何をするにせよ、自分で暮らしていけるだけのお金はあるにこしたことはないです」

その言葉通り、石倉さんは、大学3年生でアメリカに交換留学したときも、通訳を辞めてビジネススクールに通ったときも、自分で貯めていたお金で賄えたと言います。

やりたいことが見つかり、今すぐにでも挑戦したい、すべきだと思ったとき、その自由に制限をかけてしまうのは費用、つまりお金ということが多いはず。であれば、働き続け、安定してお金を稼ぐことは、自由を手に入れるための第一歩に繋がります。

仕事は“self-identity”の一つ

「仕事は、時間的にもアイデンティティとしても、その人の大きな部分を占めると思います。仕事があるということは、誰かが自分の価値を認めてくれて報酬を支払ってくれているという一つの証拠。もちろん、家庭の中の役割をもったり、友人たちとよい関係を築いたり、趣味やボランティアで視野を広げることも、人生の豊かさにおいてはとても大切なことだと思います。その一方で、当たり前という感覚の通用しない世界で、第三者から客観的に評価されることで見えてくるものもとても多いのです」

ただし、仕事がアイデンティティとなるといっても、会社名に依存するのではなく、個人である“私”が先にあるという考えが必要とのこと。

特に今は、個人で勝負できる時代。他人を拠り所にしない、真のアイデンティティを形成するには、「自分が何者であるか」「一体どこへ行こうとしているのか」ということを時々考えてみるといいそうです。

「それには正しいモデルはありません。あなた次第。キャリアを含め、自分のライフスタイルや人生は自分にしかデザインできないものです。『自信がない』って言うけど、自信というのは自分を信じることだから、他人から自信をもらうことはできない。『自分はこういう人間で、こういう事ができて、こんな能力がある』と信じるんです」

 

キャリアを続けるために必要な3つのこと

大学卒業後、通訳の専門学校に通いながら、フリーの通訳としてのキャリアをスタートさせた石倉さん。そこでの出会いや経験に学ぶことは多かったそうです。

1:任せられた仕事は期待にそえるようにやるべし

「通訳の仕事は、自分が働かないとお金にならないし、何かの理由で依頼をこなせなければ一巻の終わり。一度でも失敗すると二度と声がかからないということを実感しましたね。その時々が勝負。でも、そこをクリアしていくと、『この人はちゃんとやる人なんだ』と思われる。仕事において評判ってすごく大事なんです」

フリーランスで働いていたからこそ、1つ1つの仕事に対する評価が今後を大きく左右すると気づけたのです。しかしこれは、企業で働く人も同じこと。仕事に大きい小さいはあれ、相手の期待以上のものに仕上げるという心がけが大切ですね。

2:「この人は!」という人にはラブコールを送るべし

「通訳の仕事を通じて、各分野の一流の人たちや、企業の人々など、様々な人たちに会うことができました。そうする中で、『こういう人はいいな』『こういう人はあまり魅力がないな』ということがわかってきましたね」と、石倉さん。

そこで、「この人は!」という人には、手紙を出したり、電話をしたりとコンタクトをとってきたと言います。

「『あなたのことをすごいと思っている』とちゃんと知らせるんです。それで、向こうがダメならしょうがないけど(笑)」

こうして交流を続けていくのは、その人から何かしら学べることや、何らかのチャンスが舞い込んでくることがあるから。ビジネススクールに通うことになったのも、留学後に初めて会社組織に入ることになったのも、こうした人との出会いが始まりだったと言います。

3:機会を広げるにはこちらから動くべし

「機会って、基本的には誰の前をも平等に通るものだと思っています。それを機会だと見極めて掴むか否かという差なんですよね。それと、全部準備が整ってからやろうという人もいるけど、全ての準備が整うってことは絶対ないんです。特に女性は、家事に育児に仕事も抱えて、全部できないとリーダーにはなれないと思い込みがち。でも、完璧を期したら、何にもできないでしょ? ある程度、見切りをつけるのも必要ですよ」

アメリカのビジネススクールに留学したのも、通訳の仕事で知り合った先生からの「行って気に入らなかったら、また通訳をやればいい」という言葉に背中を押されたのだそう。

「最初から『できない』って思うと何も始まらない。それと、情報過多の時代だからこそ、実際に行ってみたり、聞いてみたり、会ってみたりする。自分の感覚で知ることも大事です」

 

今後、テクノロジーの発展で仕事は一変! どうやって乗り越える?

2020年までにロボットや人工知能などのテクノロジーに取って代わられる部分が多い、と言われているのが、事務職や販売職。「今のままの形で仕事が続くことはない」と、石倉さんも言います。そんな中で、今後私たちはどうしていけばいいのでしょうか。

残っていくであろう仕事にシフトする

残る仕事というのは、クリエイティブな仕事や、マニュアル化できないような人と触れ合う部分があるものだそう。

「クリエイティビティって誰にでもあると思うんです。子どもってすごいクリエイティブで好奇心旺盛。誰もが皆、昔は子どもだったのだから、あの時のことを思い出せば、色んなことができると思いますね。それと、人との触れ合いっていうのは、女性が得意な部分。そこを上手に活用して、磨いて、新しい仕事を考えるのもいいでしょう」

内にとらわれ過ぎず、グローバルに考えてみる

「今後、世界が相手だというのは明らか。『私は日本にいるから大丈夫』というわけにはいかないんです。場所はあまり関係ない。海外の人が日本での仕事を取って行くということもあるし、逆に自分もどこの国の仕事でもできてしまうということです。世界を広げるという意味では、英語はすごく役立ちますよ」

例えば、国内の販売職の場合でも、外国人観光客の増加に伴い、日本語が堪能な外国人が雇われるケースも多く、“世界”を視野にいれていないと、語学面では不利になってしまうかもしれません。

新しいことを学んで、スキルの幅を広げる

仕事のやり方や会社組織の在り方にも大きな変化が訪れるとのこと。近い将来、フルタイムで一つの会社に勤めることはなくなり、様々なスキルを持つ人々が期間限定で集まってプロジェクト型の仕事をこなすようになると予想されています。

「だから、いくつものキャリアを積んでいくのが当たり前になり、必要なスキルを身に付けるために常に新しいことを学ばないとやっていけません。仕事がこうしたプロジェクト型になっていくことで、女性は結婚後や出産後でも自分の時間で仕事に参加できるし、少子高齢化の時代に高齢者も働けるようになります」

 

安心・安定は悪魔のささやき? ちょっとしたことから変えてみよう

世界がどんどん変わっていく中で、自分だけが安心・安定して止まってしまうと、どんどん後ろに取り残されていってしまいます。取り残されないためにも、ちょっとした変化を取り入れてみましょう。自分の中で何かが変わってくるはずです。

日常を変えてみる

「毎日何か新しいことがあるというのがすごく大事」という石倉さん。まずは、これらの3つの変化で日常を変えてみることから始めてみましょう。

・場所を変える
・時間配分を変える
・付き合う人を変える

住んでいるところや働く場所を変えてみる「場所を変える」は一番わかりやすい変化。もっと簡単なことなら、会社に行く時間や行き方を変えたり、ランチのお店や立ち寄るカフェを変えてみるというのもすぐにできます。

「時間配分を変える」では、まず、1週間分の時間の使い方を記録。どういう時間の使い方をしているのかを洗い出してみると無駄な時間も見えてくるので、時間の使い方を考え直すことができます。

「時間というのは、その人の優先順位を表しています。私は朝やることは大体同じなので、順番を変えたり、並行してやってみたり、前日に少しやってみたりなど、色々と試行錯誤しながら、どうしたらより良くなるかを常に考えてやっています」

「付き合う人を変える」とは、例えば一緒にごはんを食べる人や出かける人などを意図的に変えること。いつもと違う人たちから学べることや新たな発見は多いはずです。

仕事への視点を変えてみる

仕事において、ちょっとしたリーダーシップを発揮することで変化することもあります。上司に対して不平不満を言う前に、少し視点を変えてみましょう。

不満を抱いてしまったら、まずは相手の立場に立って考えてみること。それがなぜ起きているのか原因を探り、「私が上司だったらどうやるか」と解決法を考えてみるのも役に立ちます。

それでも「やらされている」という思いが強くてストレスになりそうだったら、割り切った理由付けをしてみるのも一つの手です。「これは勉強のため」「これはお金のため」といった具合に、仕事に対して理由付けをしてしまいましょう。

「ある程度割り切っちゃう。私もフリーの通訳をやっている時なんかはそうでした。そうすると、その部分さえ満たされていれば、『やらされている』とは思わないはずです」

 

今後、仕事そのものや働き方など、仕事を取り巻く様々なことが大きく変わっていく時代へと突入していきます。その流れに取り残されないためには、現状維持ではいられません。

新しい環境や物事に挑戦したいと思うとき、周りの状況を見て、準備を万全にして、ということよりも、自分を信じて、まずはほんのちょっと一歩前へと踏み出してみることが大切です。

石倉洋子
1949年3月神奈川県生まれ。一橋大学名誉教授。
上智大学外国語学部英語学科卒業後、フリーランスの通訳(約7年)を経たのち、1980年バージニア大学大学院にて経営学修士(MBA)、1985年ハーバード・ビジネス・スクールにて経営学博士(DBA)取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社のマネージャーを務めた。以降、様々な大学、大学院の教授、資生堂や日清食品など一流企業の社外取締役などを務める。
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