家事と両立しながら消費者目線で働くグロースハッカー

2015年08月06日

専門的な知識よりも、大切なのはユーザーとしての素直な気持ち

家事と仕事のバランスをとりながら、グロースハッカーとして働く若田みきさん。クライアントの課題を次々と解決し、多方面から評価を得ている。その成果を生み出しているのは意外なことに特別な技術や才能ではなく、誰もが持っている「生活者の視点」だった。
若田さん

Profile:地元福岡でグラフィックデザインを勉強する。建設コンサルティングの会社に就職し、景観デザインを担当。昨年10月からグロースハッカーとしての道を歩みだした。

小さな気づきで大きな変化を

たった1つのボタンだった。トップページに検索ボタンを追加したことで、ホームページからの集客が激変したのだ。ウェブ業界では110%アップでもかなりの成果だと言われる。たとえば、1日100クリックされるページが1日110回になり、その状態が1年続けば、年間で約3600回もクリック数が増えることになる。取り扱い商材によっては、売上にすれば億単位になることもある。グロースハッカーは、そういった小さな提案でクライアントの業績に大きく貢献できる仕事なのだ。

若田さんはクライアントの期待以上の結果を出す実力派。仕事を割り振るディレクターからの信頼も厚い。とはいえ、もともとは「パソコンにはある程度詳しい」が、ウェブ制作は全くの未経験者だった。2年ほどパソコンのインストラクターとして働くうち、ウェブ制作の仕事に興味を持ったのがきっかけである。平日は働きながら土日に「デジタルハリウッド福岡」へ通った。6カ月間の講座を修了し、独立した。

「自分が買うとしたらどう思うか、という想像力や、消費者の視点に立てる共感力がカギ」と話す。

グロースハッカーとして働き出したのは8カ月前のことだ。「単純に、おもしろそうだと思いました。プログラミングというと難しく聞こえますが、グロースハッカーになるには最低限、HTMLとCSS、デザインの知識を付ければ十分です。あとは本人のやる気次第」

HTMLやCSSと聞いても「?」という人も多いだろう。しかし、グロースハッカーは人を惹きつけるデザインや、クリックを促す仕組みを作れるかどうかが求められる仕事。若田さんは知識よりも大切なことに「生活者の視点」を挙げる。「実際に自分が買い物をしたり、資料請求をしたりするときに、使いづらいなと思うときってありますよね。そういった視点でページを見て、使いやすかったなと思うものに学べばいいんです」

家事とバランスを取りながら働く

若田さんの1日は朝食の準備からスタートする。
「同居人が仕事へ向かった後、食器の片付け、掃除、洗濯などを済ませ、午前中に買い物を終わらせておく。家事がひと段落したところで、1日のスケジュールをたてる。その後、同居人が帰宅するまでは集中して仕事をします」

仕事場は基本は家。ただし、打ち合わせがあれば市内へ出て、コワーキングスペースで作業をすることも。

とはいえ、四六時中パソコンに向かっているわけではない。「グロースハッカーの仕事はパソコンで作業をするだけではありません。画面から離れて考える時間も必要なんです。たとえば、この部分をどう変えたら次のページを読んでもらえるだろう、とメモとペンを用意して思いついたことを書き出したりしています。そこで行きづまったら、散歩したり近くのスーパーへ買い物にでかけることもありますね」良いページを作るには頭をフルに使って考えることが肝心だ。

時間管理も欠かせない。「ソフトの使い方や操作方法は徐々に覚えられます。分からないことはネットで調べればある程度は分かりますから解決できるのですが、時間調整ができないと仕事がうまく進みません」若田さんの時間管理はいたってシンプル。やるべきことは付箋に書いて、優先度合が変われば付箋を張り替えるだけで良いのだ。

人それぞれの働き方ができる

育児中など、自分で時間をコントロールしたい人にとってグロースハッカーはぴったりの仕事ともいえる。「家の人が帰ってくる前には終わらせようとか、休日を一緒に過ごせるようにここまで片付けてしまおう、と自分で調整できるのが良いところですね。子育て中の仕事仲間は私よりも、もっと時間が制限されていますが上手にやりくりしています」
グロースハッカーチームに組み込まれれば、収入面でも安定するので安心だ。「フリーでウェブ制作を請け負った場合、そのプロジェクトによって納期も異なるので報酬をいただける時期や金額にも山谷があります。一方で、特定の企業案件に対応するグロースハッカーチームで働けば納期が明確ですし、何本やったらいくらだから翌月にはこれくらいお金が入ってくる、という計算もしやすいんです」

さらに子育て中の人にとって嬉しいのは、ディレクターやチームメンバーの理解があることだ。「勉強会が終わったあとの打ち上げに子どもを連れてくる方もいますし、それで嫌な顔をする人はいません。それどころか、歓迎されることのほうが多いと思います。きっとみなさん、家庭と仕事の両立を大事にしているからでしょうね」

わずか1年弱で売れっ子のグロースハッカーになった若田さん。今後は「コーディングといえばこの人」と言われるプロフェッショナルになりたいと話す。「この仕事をするようになって、先を見る目が養われました。たとえば、『ここに入るテキストの最大の文字数が変わる可能性はないか』、『次にコーディングをする人がやりやすいか』などと考えるからです。その意識を持ったことで自分の人生についても未来をイメージできるようになってきたと思いますね」